🟢教師の「感受性」の高さは、生徒の学力に波及する

言葉は生きている

次の英詩は、中学校3年生が書いたものです。英語を学んできたのは入試のためではなく、仲間や、時には大人をも感嘆させるような自己表現ができるようになるためです。この詩を、セミナーで英語の先生方に訳してもらうと、概ね、次のようなものが出てきます。

 「数学の問題は簡単、試験も簡単、それらは僕を悩ませない。しかし、僕には1つ問題がある。それは恋。恋は難しい。僕は彼女が好き。しかし、彼女は他の奴が好きなんだ。この問題は解けない。」         

いかがでしょうか。間違いではありません。しかし、迸るような感受性はあまり感じられません。では、これを中学生が訳すとどうなるでしょう。ご覧ください。彼らは、片思いの切なさを経験しているので、この詩に共感し、見事なまでに自分の世界を作り出しています。

少々飛躍している部分もあるようですが、でも、その気持ちはしっかり伝わってきます。では、次の作品を読んでみてください。皆さんだったら、この詩をどう訳されますか。

The Sky and My Secret I cried. Because I was really sad. I cried secretly. I cried alone. Only the sky knew it. It was our secret.

『15 フィフティーン』(ベネッセ)では、大津由紀雄さん、柳瀬陽介さん、そして詩人の幸若晴子さん、イラストレーターの佐藤礼恵さんとのコラボで、中学3年生の書いた英詩を取り上げました。上のイラストは佐藤さんが描かれたものです。そして、詩人の幸若さんは、先の Love と 今回のThe Sky and My Secret を次のように訳されました。実際に声に出して読んでみると、その心地よいリズムが伝わってきます。

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/06/それが問題/ふたりだけのひみつ-訳詞解説.pdf

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/06/15書評(教育新聞).pd

子どもたちの中に潜んでいる気持ち(伝えたい内容)に気づいて、引き出してやるのが教師の仕事です。

言葉は生きています。次の英語を読む場合、どれも違ってくるはずです。

同じ言い方(読み方)は、一つとしてありません。なぜなら、言葉は「場面」でしか意味を持たない(場面に合った言い方をする)からです。それに気づかせるのが、言葉を扱う教師の仕事です。

ALTとのTTもそうです。いきなり、”Hi, Do you like sports?”という始まり方はあり得ません。唐突すぎます。”Oh, is that your tennis racket? Cool! Do you like sports?”のように、自然な流れが必要です。Q & A を練習して、聞かれたことに答えられるようになったら、次はこのようにします。”I like manga, especially ONE PIECE.” “Oh, you love ONE PIECE!(繰り返す)I love ONE PIECE, too.(コメントを言う)Who is your favorite character?(関連したことを尋ねる)”のような流れになるようにします。

日頃から、自然な文脈が意識できるようになれば、足りない情報に気づくことや、相手の立場、相手の気持ちを慮ることができるようになります。「感受性」は、相手の立場に立つこと、何かに成り切る経験をすることで段々と豊かになっていくように思います。そして、教師の感受性はクラスの子どもたちに、子どもの感受性は仲間にどんどん伝播していきます。それが「生きて働く力」(見えない学力)にもなっていきます。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント