🟠 頭に「イメージ」できないことは「表現」することも「実践」することもできない。

人間は「経験」を判断基準や努力の糧にしている

人間は「経験」の動物だと言われています。何事も、自分が今まで経験してきたことを基準として、やるかやらないかを決めてしまうことがあります。ですから、経験したことにつなげられるようなイメージが持てれば、努力してみようと考えるし、経験したことでなければ二の足を踏んで(先延ばしにするか、またはやらない)しまいます。

ということは、教師が今までどんな授業に取り組んだかという「経験」と、頭の中にある「育てたい生徒像」のイメージ次第で子どもたちの「成長」がある程度決まってしまいます。次の2つの音源を聴いてみてください。

その1

その2

もうお気づきのように、「その1」は、「教科書を正しく読めること」がゴールとなっています。読み手は教科書を手に持って読んでいます。ですから、目が次に読むべき単語を常に追いかけています。心が入っていないので、聴いていても伝わってきません。「正しく読むこと」がゴールになっている場合、新しい単元の本文を読む練習だけで終わっています。常に一過性の(先に進む)学習です。ですから、いつまで経っても、 生徒たちは、英語の語順のまま理解することはできません。正しくは読めても、多読で得られる「楽しさ」にはつながりません。また、音読が楽しくない生徒が英語を好きになることはありません。

一方、「その2」の方は、「テキストの内容を理解し、語り部(ナレーター)になって読める生徒」を育てることがゴールになっています。教科書は見ていません。ただし、暗記ではなく、「理解した内容を頭に描くこと」ができているので、それを元に相手によりわかりやすく伝えようとしています。間をとる場面、抑揚をつける場所などが工夫されていることは一目瞭然です。

教科書の本文は dramatize できるように作られています。しかし、正しい音読がゴールになっていると、「語り部のように読む、声優のように読む、ナレーターに成り切って読む」という行為が消えてしまうのです。ですから、後者をゴールとする教師は、できるだけ早めに意味を掴ませ、その後でたっぷりと音読練習をします。そうすると、頭に映像を描きながら、それを描写する、つまり英語の語順のまま理解できるようになるからです。

さらに、日常的なルーティンとして、過去の単元を音読する時間(練習)を作ります。そして、定期的に音読(テキストを見るのは3回まで)のテストを課します。または、タブレット端末に録音して提出させます。それには、「間の取り方、抑揚、登場人物・語り手に成り切って読んでいるか」などが評価項目に入っています。

そして、日頃、帯学習の時間に、過去に習った単元(前の学期、前の学年の教科書)を何度も、何度も音読させます。すでに内容を知っているので、それを繰り返し、音読することで visualizeしながら、英語の語順のまま「直読直解」ができるようになっていきます。すると、テストなどの長文読解で、前に戻ることなく、そのまま内容をイメージしながら理解していけるようになるのです。

発音やストレスについては、YouTube のサイトやアプリを紹介したり、家で教科書のQRの音読を完コピするように言います。ただし、やりっぱなしにするのではなく、出力(発表)のゴールを与えます。学期に2回程度、クラス全員の前で音読するというものです。それを全員が評価します。評価の観点は「1. 自然さ(内容が頭に浮かんでくるような読み方)2. 間の取り方や抑揚  3. 正しい英語の発音、ストレス」です。教科書を暗記するのではなく、できるだけ教科書から目を離して読むことを奨励します。その方が1と2が上手にできるようになるからです。

  やり方ですが、次のようにします。

1)教師は、教卓に大きな封筒を置く(教科書のページが書かれた紙が何枚も入っている。2)一人ひとり前に出て、封筒の中を選び、中に入っているページを確認する。3)指定されたページを音読する。ただし、自分の教科書は使えない。教師が用意しておいた教科書のコピーを使う。(自分の教科書は使えないことを前もって伝えておく)

時間がなかなか取れないという場合は、タブレット端末に録音して提出させます。その中から、教師が「モデルとして優れている読み方」をいくつか選び、全体で聞かせます。刺激を受けた他の生徒たちは、家で猛練習をするようになります。こうして、個別最適な学び(目的を持った家庭学習)と「協働的な学び」(仲間の取り組みから学ぶ)の往還が自然に生まれてくるようにします。

良いモデル(伸びている生徒)は他の生徒への波及効果となります。授業では、できるだけ学校の特徴である「集団性」(「協働的な学び」)に時間を費やすようにします。「個別最適な学び」については、タブレット端末を使う時間やプリント学習などで時間をかけすぎると「学習差」が開くので、英語らしい発音やストレスについてYouTube の有益なサイトやアプリを紹介します。家では教科書のQRの音読を「完コピ」するように言います。

教師が「育った生徒の姿(何がどこまでできるか)」を具体的に描けない、「無知」の状態(育った生徒の姿が描けない、正しい指導方法を知らない)であると生徒の学習意欲が喚起されず、やがて学力が低下していきます。しかし、それは生徒ができないのではなく、教師が発音記号通りの読みになるような舌や歯の使い方を指導しないまま、”Repeat after me.”の指導を繰り返していること(「正しい指導」をしていないこと)が原因であることを認識し、小中連携の場や教科部会で現在地を確認していくことが不可欠です。

言葉を教える教師は、「言葉とは相手に情報や気持ちを正しく伝えるための手段」であることを自覚し、単に「テスト」という目標のために文法や単語を説明すればいいという浅薄な考えを改めなければなりません。たとえ、自分が中高の恩師からそのような指導を受けてきたとしても、その「負の遺産」を伝言ゲームのように繰り返してはいけないと思います。信念を持ってそれを断ち切り、正しい指導をすることがAIの時代に生きる子どもたちを育てる責務です。

「聞く・話す活動」だけをやっていても、「話せる」ようにはならない

今、英語教育が「話すこと」にシフトされており、small talk や chat などの活動が花盛りです。しかし、なかなか話が続かない、質問ができない、話題が広がらない(深まらない)というのが現状のようです。全国で小中高の授業を拝見させていただく機会があるのですが、small talkでは教師が用意した課題に対してワークシートを見ながら話す、または暗記したことを1分間スピーチするという場面が多いようです。

その問題については、🟠「階層式マッピング」で鍛える「思考・判断・表現」の項でも取り上げたように、授業の中で系統的にマンダラート、マッピング、探究コーラル・マップなどの「思考ツール」を使って「広げる力」や「つなげる力」が鍛えられていないことが要因だと言いました。(詳細は上記の項をご覧ください)

ただ、それでも多くの英語教師の中には「モヤモヤ感」が残っているのではないかと考えます。それは、「英文を聞き取る力」や「英文を自分で作る力」のような「基礎・基本」が中途半端なままで「話す活動」をしていてもなかなか上達しないということです。

  そのような悩み相談があったときに、私は自分の経験から次のようにアドバイスをしています。

私が砺波市立出町中学校(富山県)に異動した時、県一斉に行われる学力調査(春と秋の2回)ではほぼ県平均レベルでした。しかし、それがみるみる上がっていって、ほぼ富山大学教育学部附属中学校の次に位置するようになったのは、次のことを徹底したからでした。それは①「基本文を徹底的に覚えること」、②「リピーティングを習慣にすること」そして③「ALTと一緒に学期の最初に定期テストを作ること」です。

 簡単にその内容を説明しておきます。

① A4判(山折)の紙の左側に教科書に出てきた基本文(英文)を、そして右側にはその意味(和文)を載せたものをクラス全員に配ります。そして、ペアで2分間のうちに何個(❶英文→意味、❷和文→英訳)言えたかを記録していきます。一人が英文(和文)を読み、もう一人は「何も見ないで」高速で答えていきます。まずは、❶「英文→和文」のパターンをどの子もできるようになるまで徹底します。それがクリアーできた生徒は❷「和文→英文」に入ります。さらに、小テストとして「確認テスト」(和文で書かれた基本文)を行います。内容は、1「並べ替え」2「(   )の中に文法の特徴となるキーワードを書く」3「間違い探し」のパターンです。これを徹底することによって、どの子も「覚えた基本文」を参考にして、自分で英文が作れるようになりました。

② ALTの言っていることが即聴即解できるようにするために、リスニングで「リピーティング」の訓練(ALTや私がが言った1文を聞いた後で、そのまま繰り返す)を行いました。シャドウイング(聞こえた音、単語をすぐに繰り返す訓練)の練習だけで終わっている方が多いようですが、本当に力がつくのは「リピーティング」です。これは内容を理解した上で、英語の語順を考えながら再生しなければならないので、みるみる力がついていきます。

③ 極め付けは、ALTと一緒に学期の最初に、定期テスト(3種類のリスニング問題、長文と対話文のテーマと素案、ライティングの課題)を考えたことです。すると、ゴール(つけたい力)を知った ALT は気を利かして、授業中に「応用」となる言語活動を用意してくれるようになりました。私の方も、教科書を先に進めていく今までのやり方と違って、力をつけるためには「十分に習熟できるまで時間をかける部分」を特化できるようになり、そのために「軽く扱って、習熟にかける時間に移行する部分」もしっかり分けられるようになりました。

こうして、成績が面白いほど上がっていきました。成績だけではありません。英語学習に対するモチベーションもみるみる上がっていったのです。以下にご紹介するのは、中学生(3年生)が最後の授業で書いてくれた感想と大学生(3回生、4回生)の感想です。ワープロで打った文ではなく、「手書き」の文章は伝わり方が違ってきます。

自由記述の感想の中に、どんな文言が入っていれば「自律的学習者」になったと言えるのでしょうか。それを考えた時、教師は頭の中に「どんな生徒が育ってほしいか、何がどこまでできるようになってほしいか」というイメージが描けるようになり、ブレない指導(忖度も迎合もない、どの子も置いてけぼりにしないという姿勢で、温かい眼差しを持った厳しい指導(できるようになるまで向き合う)ができるようになるのではないかと考えます。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント