「人前で」が人の本気度を高める
個人的にピアノを習っているだけでは、なかなか上達しません。しかし、発表会が1ヶ月後にあり、ステージ上で演奏をしなければならないという状況なら、毎日、何度でも練習をします。なぜなら、途中でつっかえたりするのは恥ずかしいし、何よりも「上手だったね」と認めてもらいたいからです。
部活動もそうです。シーズンオフで大きな大会がない時期は、生徒たちのモチベーションを高めるのはなかなか難しくなります。「試合に活かすため」という目的も、「試合に勝つ」という目標もないまま、ダラダラと練習をすることになりかねません。
2021年に行われた東京オリンピックは、新型コロナウィルスが終息しないことから「無観客」で行われることになりました。また、観客同士のトラブルからサッカーの試合が「無観客」で行われたこともあります。その後、インタビューを受けた選手たちの感想は、どれもが「観客の前でプレーしたかった」というものでした。
「多くの人間に見られている」という状況は、選手だけでなく、何かをするときのモチベーションを高めます。授業でも、音読やスピーチなどを人前で行う場合、どの生徒もそれに向けて良い準備をしようとします。かといって、「出力」(発表)の機会だけを増やしても、必要な「入力」(練習)が十分に行われていなければ、良い成果にはつながりません。そのような場合、逆に「トラウマ」(もうやりたくない)につながってしまう可能性があります。あくまでも、「良い準備」は、「みんなの前でやるからには頑張らなければ(頑張りたい)」という気持ちがあって初めて生まれてくるものです。
「竹の節」(みんなの前で発表する機会)を用意する
周りが、「恥をかきたくないならやるしかない」と言って脅すのでもなく、ただ叱咤激励をするのでもなく、教師が「人前で発表する」という場面を、冒頭のアイキャッチのイラストでも示したように「竹の節」と捉え、それを年間を通して無理なく用意をすることが大事です。
よく、小学校の先生方の研修会に呼ばれると、「言語活動と練習の違いがよくわかりません」とか「パフォーマンスのさせ方がわかりません」という質問を受けます。残念ながら、「学習指導要領を正しく読み込まずに、教科書を順に教えている」という状況であることがわかります。学習指導要領の小学校3年4年で行う「外国語活動」では、次のように記載されています。それが5年、6年の「外国語」に、そして中学校、高等学校の「外国語」につながっていくのですから、これが全てのベースになります。
目標 ⑵ 話すこと [やり取り] ア. 基本的な表現を用いて挨拶、感謝、簡単な指示をしたり、それらに応じたりするようになる イ. 自分のことや身の回りの物について、動作を交えながら、自分の考えや気持ちなどを、簡単な語句や基本的な表現を用いて伝え合うようにする ウ. サポートを受けて、自分や相手のこと及び身の回りの物に関する事柄について、 簡単な語句や基本的な表現を用いて質問したり質問に答えたりするようにする。
⑶ 話すこと [ 発表 ] ア 身の回りの物について、人前で実物を見せながら、簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする イ 自分のことについて、人前で実物などを見せながら、簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする ウ 日常生活に関する身近で簡単な事柄について、人前で実物などを見せながら、自分の考えや気持ちなどを、簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする
これは、教科書の中に出てくるアクティビティ(練習や言語活動)のどれがそれに該当するのかをしっかりと確認し、それができるまでに「どんな指導」と「どれだけの時間」が必要になるのかを考えておかねばならないということを意味します。
学習指導要領に書かれている内容を「知る」ことではなく、教師が教科書の中に示されている活動が「どんな力をつけるための活動なのか」を、自分の言葉で子どもたちに意味付けられることが大事です。
何がどこまでできるようになればいいのか、事前に何を準備すればいいのか、終わった後はどう次に繋げるのか(どう自己調整を図るのか)までを、具体的に説明できるということです。バラバラではなく、コンセプトとして系統的にそれを説明できることが重要です。
「実物などを見せながら」という文言がありますが、「1年生の1学期ならこれ、2学期はこれ、3学期ならこれ」というようにパッと具体を述べられることが、学習指導要領を本当に「理解」しているということになります。
「人前」の定義ですが、中には「大勢の前では緊張するのは可哀想だから4人程度のグループでよいのでは・・」と自分流に解釈をしてしまう方がいます。セミナーでも、そのように質問されることがあります。しかし、国語辞典の大辞林には「多くの人のいる席」と明記されています。ということは「クラスの仲間たちの前で」ということになります。
確かに、スピーチやリテリングなどで、全員が順に前に出てきて発表をするという場合、なかなか実力が発揮できないことがあります。ということは、日頃から、1時間に一人ずつ前に出て Today’s teacher とか教師(またはALT)とのsmall talk を行っていくようなルーティンを用意し、慣れさせておくことが大事だということです。この「1時間に一人、または二人」は、集団での「時間差による学び」(家庭での主体的な練習)を可能にします。
また、一人が発表するときは必ず立って、何も見ずに行うようにします。それを全員が身体をその生徒に向けて話を聞く、そしてコメントを言うといったシステムにすれば良いのです。すると、黒板の前に出なくても、みんなの前で話をしたという気持ちになれます。上手な教師は、それを自然にやっています。特に、英語では発表する生徒が全員に向けて “Hi!” と言い、他の生徒たちがそれに対して”Hi!”と明るく答えます。このようにすると、居心地の良い学級が作られていきます。また、教師が心配しなくても、子どもたちは吸収力が高いので、仲間の取り組みから必ず何かを学び、それを自分の発表に活かすようになります。それこそが「協働的な学び」です。
教師が、日頃から「発表はノートもワークシートもみない」をルールにしておけば、生徒は自分でマッピングをしたり、ノートに整理をしたりしながら頭の中でまとめるようになります。目を見て話ができるようになることで、学習の定着がぐんと高まります。発表を単元計画の中に位置付ける、中間発表を意図的に仕組み、仲間から学べるようにすれば、自身の現在地がわかり家庭学習に繋げる子どもたちが続出します。ピアノ教室の発表会と同じで、しっかりと見通しを持って行動をするようになります。つまり、人に言われてするのでも、決まっていることをするのでもなく、「主体的」に学習に取り組めるようになるのです。