🟠 英語学習における「漆塗り」とは?

ローテーションで相手を変えるだけでは「漆塗り」にはならない

直山木綿子元文科省視学官(現在、関西外国語大学教授)が、「漆塗りをするように」という言葉を使っておられますが、「何度も繰り返せば良いといった安易な考えではないということを理解しておくことが大事です。

「列ごとにローテーションで相手だけをどんどん変えて何度もやる」という活動を見ることがありますが、少しずつ「変化」を加え、「負荷」をかけていかなければ、生徒は「できる」ようにはなりません。たとえば、1回目でペアの相手から聞かれたこと、自分で閃いたことを活かして、2人目に入る前に「自己修正」(自己調整)をする、「最後は何も見ないでも言えるようになる」「必要なジェスチャーを入れてプレゼンができる」というゴールを最初に与えておく、など生徒が主体的に自分に対して「負荷」をかけるようにしておくことが大事です。

漆を塗る」には、一体どんな工程が必要なのかを知ること、そしてそれを授業に当てはめてみることです。つまり、ただ「繰り返す」(何度もやる)のではなく、「何を、いつ、どのようにするのか」をよく考えるということです。以下は、私が考える授業における「漆塗りの段取り」です。

⑴ 何より、漆のことを知っていないと大変なことになります。扱い方が下手だと、手が漆でかぶれてしまいます。前もって「手袋」を用意しなければなりません。

★(目的を知り、子どもたちの実態を知り、時期をよく考える)

⑵ 塗るときは、きちんと全体に塗れているかどうか、ムラがないかどうかに気をつけながら塗ります。

★(子どもたちの反応、表情などを観察しながら、理解度を確認する。また、座席表をカルテとして、授業中に気づいたことをメモしておく)

⑶ 一度目に塗ったら、丁寧に拭き取るという作業が必要です。

★(どの子も、基礎・基本ができているかどうかを確認する。教えたから「できるはず」ではなく、実際に理解度について診断的評価を行う)

⑷  漆は塗った後、湿度を80%程度にして固めなければならないので、濡れタオルを中に入れ、一緒に容器に入れて密閉します。

★(次のステージの準備、必要感を作る)

2回目を塗る前に最低でも一昼夜、季節によっては数日待たなければなりません。しっかりと固まっていなければ、2回目は塗れないのです。

★(本当に機が熟しているかどうかを見て、次のタイミングを推し量る)

このように、漆を塗るには何を用意し、どのような行程が必要になるのかを考え、「授業では具体的に何をすればいいのか」(★の部分)を自分なりに考えてみることが不可欠です。「漆を塗るように」というのは、教師自身が「何を、何のために、どのタイミングで」を推しはかりながら学習を進めることであり、それだけ見通しをもち、手間暇をかけることを厭わないということが大事です。

「漆塗り」では、英語の「基礎・基本」を知っておくことが大事

英語学習の「基礎・基本」は、教科書に出てくる文法や語彙を覚えること、表現に習熟することと考えられがちです。私が今まで、「基礎・基本」について大いに納得できたのは、山極 隆 元文科省視学官が私の勤務校(砺波市立出町中学校)に来られ、私の授業をご覧になった後で次のように言われたことです。

「人がずっと覚えていること、ずっと続けていることが、その人の基礎・基本です」

そう考えると、英語学習の「基礎・基本」とは、テストのためではなく、コミュニケーションのツールとして使えること、次のことができることではないかと考えます。

① リスニングの英文、テキストの本文を、英語の語順のまま(頭から)理解できる

(日常的に、シャドウイングとリピーティングで鍛える)

② 相手が言っている内容から、深めたい言葉を取り出し、それについて質問をすることができる

(キーワードを捉えて関連のある質問ができるようにsmall talkの場面で練習をする)

③ 自分の考え、意見を今まで習った文法や語彙を使って相手に伝えることができる

(子どもたちが「自分ごと」として捉え、「言いたくなる」トピックを用意する。教師がさせたいことではなく、子どもたちの関心を日常的な会話やアンケートなどで掴んでおく)

④ テキストに出てくる「基本文」の意味を理解し、何も見ずに英語で言うことができる

 (掛け算九九のように、基本文を英語→日本語、日本語→英語にすぐに置き換えられないと、Q&Aはできない。それは「口頭試験」という形で必ず定着させる)

⑤ 学期の最後に用意されている You Can Do It, Presentation, Project、Check Your Steps で、これまで学んだことを活かして自分の考えをまとめて伝えることができる。仲間とやり取りができる。

(そのためには、4技能5領域でどのような力をつけておかなければならないかを子どもたちに伝え、系統的にその練習をする)

配慮したいことは、やみくもに(目的もなく)知識を増やすことではなく、実際に「役に立つ」「ずっと使い続けたい」と実感できるような学習にすることです。中3生徒、大学3回生の感想(最後の授業後に送られてきたメール)とレポートに書かれたものをご紹介しておきます。果たして、彼らにとって「基礎・基本」となったことは何だったのでしょうか。

中3の最後の授業後のコメントより

大学3回生、最後の授業後に送られてきたメールです。

続いてレポート(3回生)に書かれていたこと(身についたこと)です。

それぞれ、1、4、5は別人です。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント