3ヶ月でTT授業が見事に変身!その劇的 Before & Afterの謎を解く
〜福岡市英研の「本気」が可能にしたこと〜
昨年(令和6年)、二学期に入ってから、福岡市英語教育研究会の会長である石井 孝二 校長先生(福岡市立下山門中学校)副会長の久保田 千曲 校長先生(福岡市立北崎中学校)同じく副会長の田中 大三 校長先生(福岡市立博多中学校)から「福岡市全体のTT授業改善のために、”NS(ALT)とのTT活用推進プロジェクト”を立ち上げたので協力していただけないか」という依頼がありました。
市内3つの公立中学校(いすれも市の平均レベル)で、それぞれ1年生、2年生、3年生のTT授業を月1で視察し、協議会での助言をする。さらに、送られてくる授業映像をもとにオンライン研修をするという内容でした。そして、3ヶ月後の2月の最終週で、福岡市69校の中学校から代表(最低1名)が、いずれかの公開授業と協議会に参加するというものでした。
市全体で動くということで、かなり大掛かりなプロジェクトになるとは思いましたが、一昨年、東京都町田市立金井中学校の栗橋ゆかり先生と取り組んだ「探究コーラルマップ」を使ったプレゼンテーションも3ヶ月で生徒たちが大きく変容していたこともあり「3ヶ月あればできる!」と考え、引き受けることにしました。福岡市の先生方とは、以前から定期的に「若手教員研修」で対面やオンライン等で関わっていたことも、私の決断を後押ししてくれました。
代表として選ばれた3人の先生方は、福岡市立柏原中学校(寺崎 英二校長)の矢野和樹教諭(中1担当)、福岡市立城香中学校(濱竹 修一校長)の阿南翔平教諭(中2担当)、そして福岡市立博多中学校(田中 大三校長)の上野正純教諭(中3担当)で、いずれも20代から30代の若い先生方です。

なぜ、授業を参観した教師たちは”度肝”を抜かれたのか
◆実際のTT授業の映像
実際のTT授業の映像(一部にモザイク加工処理)をご紹介します。映像は「事実」を伝えてくれます。どの学年の生徒たちも即興でやり取りをしたり、プレゼンをしたりしています。一体、TT授業でこのような「技能」をどのように身につけたのでしょうか。ぜひ、それを見つけてください。自分で気づくことがご自身の「授業力」を磨くことにつながります。
まずは、授業の映像を丁寧にご覧になり、気がつかれたことをメモされることをお勧めします。気になる場面で映像を止めて、生徒のノートやワークシート、振り返りの内容をつぶさに確認なさってみてください。
また、実際に授業をご覧になった先生方の感想を紹介しておきますので、それを読まれた上で、どうしてそう感じられたのか、それはどの場面だったのかを見つけてください。そして、ALT(NS)と一緒に映像をご覧になり、多くの参観者たちの心を揺さぶったのは何故かを話し合ってみてください。また、3人が書いた単元計画(育った生徒像からの逆算)をご覧になり、ALTと育てたい生徒像を共有し、協働で授業デザインをなさってみてください。きっと、今のTT授業が大きく変わるはずです。
🟢TT授業の見どころ紹介
◆福岡市立柏原中学校1年 TT授業(矢野和樹先生、リアム先生)
1)導入:
教科書のスキット(本文)を、役になり切って演じる活動から入り、SV(look)Cを使ってオリジナルスキットを作ります。マンダラ・チャートでどのような形容詞が自分のスキットに使えるかを考えます。
映像①ー1
映像①ー2
2)展開(マッピングから練習へ):
NSが Movie maker(映画監督に扮装)になり切って、生徒にアドバイスや指導を行います。生徒たちは「階層式マッピング」を使って、自分のオリジナルスキットの展開を考え、練習をします。
映像②ー1
映像②−2
映像②−3
映像②−4
3)終末(言語活動〜振り返り):
教師の「ノートを閉じて見ないで演じましょう」という指示(浮き輪を外す場面)により、脳に刻まれた「ルート」をたどって演じ始めます。暗記ではなく、自分で描いた場面をリアルに演じたいという思いが出てきて、演技が白熱していきます。最後の振り返りでは、1年生でありながら、英語でNSにコメントを書こうという指示が出されます。(コメントのやり取りについては後述)
映像③−1
映像③ー2
◆柏原中学校(1年)の授業を参観された方より









◆福岡市立城香中学校2年 TT授業(阿南翔平先生、ラメン先生)
* 生徒が向き合っている場面が多いことから、ぼかし(モザイク)になっているシーンが多くなっています。詳しくは、次の場面紹介を参考にして、聞こえる「音声」を頼りに想像なさってください。
1)導入から展開(前半):
授業の最初(帯学習)では、ペアになり、交互に教科書の「基本文」を「英語→日本語」、「日本語→英語」に高速で直す活動をルーティンとして取り入れています。
福岡県内をあまり観光していないNSに向けて、「福岡をもっと知ってもらいたい」という内容のプレゼンテーションを考えます。まず、生徒たちは、マンダラ・チャートと階層式マッピングで全体の構想を練ります。イメージを明確にした生徒たちは、ノートに英文を書かずに、何度も自分で選んだ写真を見せながらそれを相手に伝えるという練習をします。そして、グループごとに1人ずつ他のグループにプレゼンテーションをしていきます。他のグループは、後で聞いてみたい内容のキーワードをノートにメモし、グループ全体のプレゼンが終わってから、即興で質問をします。
映像①
2) 展開(山場):
NSは、生徒たちのプレゼンテーションに対してアドバイス(コメント)をしながら、突如、「両親が今年福岡に来るので、ぜひ彼らにあなたたちのプレゼンテーションを見せたいがいいだろうか」と尋ねます。急に、NSの両親についての情報(興味、関心、好きなもの、苦手なことなど)を入れたプレゼンテーションに修正することになった生徒たちは、グループでどんなことを聞けば、自分たちが今までに作成した内容を活かしながら、さらにどう深めればいいか、新しく紹介できることはないかとマッピングで考え始めます。
映像②
3)終末(まとめ〜振り返り):
生徒たちは、1人ずつ、自分たちで考えた質問をNSに聞いていき、その答えの中からどれに繋げるかをグループ全体で考えます。最後は、NSが用意した両親の写真を使い、プレゼンテーションの録画に向け、どう語りかけるかを考えながら練習をします。
映像③
◆ 城香中学校(2年)の授業を参観された方より













◆ 福岡市立博多中学校3年TT授業(上野正純先生、リーザ先生)*上野先生は、令和7年4月、福岡市立三筑中学校に異動されました。
1)導入部:
単元のゴール(My Treasure)に向けて、日本人教師がプレゼンテーションのモデル(NSと一緒に考えた問題のあるBeforeバージョン)を提示します。
映像①−1
映像①−2
2)展開(前半):
生徒たちは、モデルに習い、階層式マッピングを使って、自分のプレゼンテーションを仕上げていきます。具体的なイメージが持てるようになるまで何度もペアで練習をします。
映像②−1
映像②ー2
3)終末(山場〜振り返り):
NSのアドバイスから、グルーピングとナンバリングが有効であることがわかったことから、自分のプレゼンテーションの内容を論理的に改善していきます。日本人教師は、十分に習熟できたタイミングを見計らって「浮き輪を外す」(マッピングシートを見ないで言う)ように指示をします。生徒たちは一瞬たじろぎますが、すでに頭の中にできている「ロードマップ」を頼りに堂々と相手に伝えていきます。どの生徒も生き生きと語る姿に、授業を参観されていた方々がとても驚かれます。それが感想にも表れています。
映像③−1
映像③ー2
映像③ー3
◆ 博多中学校(3年)の授業を参観された方より










どの会場でも、同じような感想が出ているということは、教師一人ひとりの力量の差ではなく、参観者の「心が動く要素」がどのTT授業にも含まれていたということを意味します。すでに、感想の中にも見られるように、教師が自分の授業を思わず見直したくなるほど圧倒される(稲妻が走る)と、大きな刺激、負けられないという気持ちが生まれ、心のスイッチがON! になります。無理もありません。授業者は、いずれも若手であり、教師経験が10年にも満たない教師ばかりだったからです。
TTの授業だけ上手になるということはありえません。指導者たちはタイパもコスパも求めませんでした。3人の「授業の概念」そのものが変わったのです。さらに、TTの授業にメスを入れることで、付加的に通常の授業スタイルも一変しました。それによって、子どもたちの課題への食いつきが大きく変わり、一人ひとりの「技能」がぐんぐん高まっていきました。
3ヶ月前は、全くできていなかったことができるようになったのは、何がきっかけだったのでしょうか。次回(2/3)からは、具体的にその「謎解き」をしていきます。