「知識・技能」は教師が、「思考・判断・表現」は学習者が決める
全国、いろんなところでセミナーを行っていますが、昨年から増えているのが「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に基づく「定期テスト」のあり方についてというものです。さすがに、もう「知識・理解」(穴埋めや書き換えなど)に関する問題は減っていますが、それでもテストを拝見していると、「知識・技能」の問題を「思考・判断・表現」と勘違いされているケースがまだまだ多いようです。
大修館書店『英語教育』10月号(発売中)のQRで、次のような資料を載せておきました。
「知識・技能」は、実際に使えるかどうかを確かめるために、教師が用意した課題となります。条件を与えるのは教師です。一方、「思考・判断・表現」とは、「教師の与えた問題を解く」とか「指定した条件で答える」という類のものではありません。あくまでも、学習者が、自分で選んだ課題を問題解決していくプロセスで行われる行為です。つまり、試行錯誤しながら、仲間の取り組みを参考にして、自己調整を図っていくという学習です。ですから、必要なのは、学習者の「自己決定」です。
「思考・判断・表現」に必要なのは「ギャップ」と「揺さぶり」
「ギャップ」を作る時に有効なのは「比較」です。そこで、意図的に「複数のもの」を「比較」する場面を設定し、その「お題」を用意します。実は、教師が用意する「お題」で1時間の授業が決まるといっても過言ではありません。
次の資料をご覧ください。東京から大阪に移動する手段として、飛行機と新幹線を比べるという内容です。最初の「知識・理解」は、和文英訳です。言語形式が理解できていれば -er than を使って書くことができます。次の「知識・技能」については、2つの交通手段の何(値段、安全性、速さ、快適さなど)を比べるかは学習者が決めます。ただ、子どもは、それを使って発展させる(プレゼンテーションをする)ことはありません。では、最後の「思考・判断・表現」ですが、どうしてこの「お題」が「思考・判断・表現」になるのでしょうか。
「推し」(オススメ)は、自己決定の産物です。さらに、「推し」である限り、「根拠」が必要になります。自分の知っている情報だけでなく、相手の納得を引き出すためには「具体(事実、数値)」が必要になります。delicious や beautiful という形容詞は、話し手の「主観」であり、誰もがそう思うわけではありません。そのような「意見」は、客観にならず、説得力は生まれません。ディベートでは、事前にどんな事実(fact)を調べ、どんな論拠を用意しておくかで決まります。それと同じで、必要になるのは「探究」です。
「速さ」によるメリットを言うなら、飛行機と新幹線の「所要時間」だけを比べるのではなく、飛行機なら、空港までの移動時間、搭乗手続きや搭乗口への締切時間なども考慮しなければなりません。新幹線は、発車時間にさえ間に合えばいいので、逆に時間がギリギリまで有効に使えるという考え方もできます。そこで、生徒は「自分が納得できるために、もっと詳しい情報を知りたい」と考えるようになります。
◆ 「探究」は、国語辞典(大辞林)では「学問的に不確かなことや不明なことをどこまでも深く考え、すじ道をたどって明らかにすること」と説明されています。つまり、探究を通して身につける力とは、「自ら課題を設定し、主体的に判断し、よりよく問題を解決する力」だと言えます。
授業で「探究」の場面を演出するには、子どもたちの「知りたい!」(知的好奇心、知的飢餓感)をどう引き出し、どこで足場かけ(仲間との協働的な学びの場面)を用意するかが重要になります。
この「探究」という言葉は、1998年の「総合的な学習の時間」の設置を機会に使われるようになりました。学習指導要領の「総合的な学習の時間」の解説では、探究的な学習とは、「物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営み」であり、「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく学びのあり方」と書かれています。
教師の与えた課題やプリント学習では、調べて終わり、またはそれを終わらせることが目標になってしまいます。「やらされている」と思う学習では、気持ちが入らず、「まだ、終わらないのか」と時間ばかりが気になります。
しかし、自分が好きなこと、自分でやりたいと決めたことは時間を忘れ、夢中になって取り組みます。「幸せかどうかは自分の心が決める」という格言がありますが、それを当てはめるなら「夢中になれるかどうかは、自分が決めたかどうかで決まる」と言えそうです。
授業の最初に示す「本時の学習課題」や教師の「問い」(中心発問)は特に重要になります。課題が子どもたちの関心や問題意識にフックをかけることができれば、放っておいても探究が始まるからです。これを教師が、思いつきやクラスの実態を踏まえない内容(教師のやりたいこと)にしてしまうと、学習への必然性がなくなり、授業は台無しになってしまいます。よく、見かける「〜しよう」という本時の目標は、単なる行動目標であり、個々の探究にはつながりにくいということを理解しておくことが大事です。「何故か」「どれだけ」「どのように」といった疑問詞を有効に使うことがポイントになります。
文科省の前視学官の直山木綿子氏、神奈川大学教授の久保野雅史氏と一緒に『「プロ教師」に学ぶ真のアクティブ・ラーニング』(開隆堂出版)を著した時、全国のたくさんの小学校、中学校、高等学校の先生の中から、「学習者の自己決定を活かした授業」「ゴール(できるようになった姿)から逆算して見通しを持たせる授業」「探究的な学習の授業」などに取り組んでいる方々を選んで、ご紹介しました。教科調査官(小学校)の早川優子氏、学習指導要領の作成に関わられた吉田喜美子氏、群馬大学に異動された津久井貴之氏など、卓越したプロ教師の授業報告から、「自ら探究しようとする学習者をどう育てればいいか」の具体がわかります。よろしければ参考になさってみてください。
「インタビュー・マッピング」と「探究コーラル(珊瑚)・マップ」で生徒に「広げる力」と「つなげる力」をつける
教科書に書かれていることを覚える、プリントをやる、教師の指示通りに活動するという場合、終わりのチャイムが鳴った時に「えっ?もう?」という言葉は出てきません。何度も言いますが、学習が「自分ごと」になっていなければ、楽しいという気持ちは生まれません。何よりも、「できるようになる楽しさ」「仲間と協働で練り上げる楽しさ」「知りたかったことがどんどん広がり、深まっていく楽しさ」など、「楽しいこと」はずっと続けられるのです。
「探究」においては、「過程」(プロセス)が重要になります。自らの関心に基づいて選んだ課題に対して、どう「問い」を立て、どう解決していくのか。それを実現するには、マッピング、マンダラート、三色付箋、情報カードなどの思考ツールを使った「個人で練り上げる学習」「仲間との協働学習」が不可欠です。それを、手作業や手書き(いずれもアナログ)で行なっていくのです。
大修館書店『英語教育』10月号では、子どもたちが時間を忘れて夢中になって取り組むどの子も即興でやり取りができるようになる、キーワードを捉えて多様な質問ができるようになる、そしてノートに英文を書いて暗記しなくてもチームで見事なプレゼンテーションができるようになる(加えて、その内容について即興で質疑応答ができる)という実践とその指導方法をご紹介しています。
小学校4年生、5年生、中学校1年生、2年生、高校1年生がそれぞれ思考ツールを使い、どんどん変容していきます。関心のある方はお読みください。
8月に行われた町田市の英語教員研修(教科主任対象)で、「インタビュー・マッピング」と「探究コーラル・マップ」の実技演習を行いました。町田市では、町田市立金井中学校の栗橋ゆかり先生との共同プロジェクトで、3年生の生徒たちがみるみる即興で話せるようになっていった様子、堂々とプレゼンテーションを行い、その後即興で質疑応答ができる様子をご覧になっていたので興味津々、しかし本当にできるかどうか半信半疑の状態でした。
なぜ、「インタビュー」という名称が付けられているのか
名称を「1分間(2分間)チャット」としないで、インタビュー(&)・マッピングとしているのは、インタビュー自体が目的を持った言語活動だからです。
Interview(インタビュー)とChat(チャット)の違いは何でしょうか。新聞、雑誌の読者、テレビやラジオの視聴者を対象として行われるのが interview(面接、会見、インタビュー)です。interview は、後で関係者がview(視点)を共有できるようになるために行います。たとえば、採用のための面接(job interview)では、採用に適する情報を集め、適任かどうかを判断する材料とします。ジャーナリズムの場合は取材の後、新聞、雑誌などの記事として編集します。
編集をするには、豊かな情報が必要です。そのためには、相手の言っている内容を深掘りしていかなければなりません。ですから、マッピング(グルーピング、ナンバリングを含む)を使って内容を整理しながら、「ここぞ」というところを特化できるようになることが大事になります。
インタビュー・マッピングでは、履歴が残ります。現在地が一目瞭然です。さらに、You said, …と言いさえすれば、どのノード(相手の言った情報)からでも始められます。つまり、止まってしまうことがなくなるのです。
さらに、わかったことをマッピング・シートを参考にしながら、違う友だちにその内容を伝えるとか、ノートにわかったことをレポートして、それをグループで回し読みする、それに読んだ人が英語でコメントを書き入れるといった「つながる言語活動」にすることができます。さらに、グルーピングをすることで、情報が偏っていてバランスが悪い箇所がどこであるかがわかります。
町田市立金井中学校の3年生は、映像の中で「マッピングでかなり喋れるようになった」「つながりを理解しながら話が進められた」「探究コーラル・マップで責任を持って取り組み、さらに最後まで助け合うことができた」と振り返っています。さらには、高校に行ったら「総合や探究学習でも活かしたい」とか「他教科でも使える部分では積極的に使おうと思う」と述べています。
子どもたちは、定規、付箋紙、カード、ハサミといった学習道具(ツール)は、必要な場面、用途を考えて使うことができます。ディスカッション、プレゼンテーション、マイクロ・ディベートといった学習も同じく「ツール」です。必要に応じて、自分たちで取り組もうとします。「便利だ」「こうすればいい」というアイデアは、いろんなツールを知っていることによって生まれてきます。
さらに、算数の授業で学んだ「掛け算九九」、「図形の面積の出し方」国語の授業で学んだ「表現」「漢字」、英語の学習で身につけた「基本文(英文→日本文、日本文→英文)」「授業でできるようになったこと(Q & Aの後に1文付け足せる、理由が言える、自分の意見が言える、キーワードを繰り返してそれに関連する質問が作れる、言いたいことを小学生でもわかる内容(日本語)にダウングレードして、それを英語に直すことができる、など)」のような「基礎・基本」は、人から言われなくても自ら活用していきます。大事なことは「わかる授業」で終わらずに、「できた!」が実感できる授業を目指すということです。
ちなみに、インタビュー・マッピングの詳しい指導の仕方については、大修館書店『英語教育』2021年-2022年の連載(「授業力は書く力に比例する」)8月号のQRでも紹介しておりますが、ここでもそれを載せておきたいと思います。
https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/09/インタビュー・マッピングのやり方.pdf
「探究コーラル・マップ」は、なぜ「協働的な学び」を加速させるのか
本誌でもご紹介した、高知県四万十市立具同小学校教諭のグダーニ藍先生からメールが届きました。
10月号を読みながら、インタビュー・マッピングや一足先に教えていただいた「探求コーラル・マップ」など、「うんうん」とうなずきながら、わくわくした気持ちで読ませていただきました。特に「探求コーラル・マップ」は、1学期の最後に6年生で実践をさせていただきました。グループ発表で、「こんなにも生き生きと発表する児童を初めて見た!」と思いました。欠席者がいても、その子のマッピングを持ってきて、その場でカバーしようとする姿に感動さえしました。これからも「探求コーラル・マップ」をどんどん実践していくことが楽しみです。
このように、「探究コーラル・マップ」は、分担を決めてバラバラに取り組む「参加型」ではなく、ゴールを共有し、関わり合ってチームで「成果物」を仕上げる「参画型」の学習になっていることがポイントです。
「主体性」は、子どもたちが最初から持っているものではなく、学習を通して、特に「中間評価(中間発表)」を通して自分の現在地を確認したり、仲間の取り組みに触発されたりしながら、自分の目指すゴールに対して「見通し」が持てるようになり、「こだわり」が生まれてきた時に生まれるものです。そして、教師の確かな「授業デザイン力」がそれを後押しすることができます。
大事なのは、教師の「教え方」なのか、学習者の「学び方」なのか
教職を履修していた学生たちに、思考ツールを使った活動(課題図書のレポート、ディスカッション、プレゼンテーション、模擬授業の計画)をしていたのですが、ある時、授業の振り返りで次のようなことを書いている学生がいました。
「これまでの授業で、何回もマッピングを書いてプレゼンの練習をしてきた。そこで、私はマッピングの重要さを思い知った。マッピングを書くことで、今から自分が何を書きたいか可視化でき、頭の中が整理しやすく軸がぶれにくくなる。何よりも、構成がはっきりとする。今まで、私はマッピングを書くことは、時間が取られて無駄だ、面倒くさいと思っていた。しかし、実際にそれを使って書く練習をしてみると、書いたほうがメリットがたくさんあることに気がついた。今回、レポートを書くときにも、マッピングを書いてから本文を書いたら、どんどん書きたいことが膨らんだ。教育実習では、生徒たちも、私たちのようにマッピングを使って、プレゼンテーションやライティングができるようになってほしい。講義の中で、中学生がマッピングだけを見ながら、その場で英文を考えてプレゼンテーションをしている様子を見て衝撃を受けた。私が、あの子たちのように、中学校のときに、マッピングを知っていたら・・。そう考えると、学校の先生が教科書以外に何を教えるか、そのビジョンを持つことは、生徒に大きな影響を与えるのだと痛感した」
「教科書(文法や単語)をどう教えるか」という近視眼的な思考では、生徒は英語を「言葉」ではなく、「点数を取るための教科」と考えてしまいます。学生の書いたコメントは、教師が時代を読み、何が必要になるのかという「先見性」を持って、指導をしていくことの大切さを教えてくれます。これからの時代を生き抜く子どもたちに必要なのは、「学び方」です。「教える・教えられる」という授業ではなく、「教える・学ぶ」という授業にするためには、教師が「教え方」ではなく、学習者の「学び方」により関心を持つことが必要であるように思います。