「地球市民オンライン塾2023」4月例会レポート

4月21日(金)「地球市民オンライン塾」(それって「振り返り」?)

 3月末にHP上で「中嶋塾@東京2023」と「地球市民オンライン塾2023」の開催案内を載せた折に,「参加はできないが,内容に大いに関心があるので,HPでその取り組みを紹介していただけないか」という問い合わせを何件もいただきました。そこで,このHPでは,適宜,2つの研修会について報告をしていこうと思います。まずは,4月21日(金)に開かれた「地球市民オンライン塾2023」についてです。次の写真をご覧ください。

 これは,「地球市民を育てる教師のための研修会」をボランティアで10年間(100回)やった後のグランド・フィナーレの様子です。全員(卒業生280名中180人が参加)で「空も飛べるはず」を歌っているシーンです。研修会の参加者は,小・中・高・大・行政(指導主事)と多岐に渡っていました。また,英語だけでなく,すべての教科の教師が集まり,研鑽を深めました。その後,卒業生から「地球市民の研修会」のことを聞かれた方々から「復活の可能性」について問い合わせが何件も入りました。当初,10年を一区切りと考えていたこと,退官まで残された時間があまりなかったことから,「今のところ,その予定はありません」と答えていました。しかし,コロナ禍から始まったオンライン(ZOOMを使った)授業が,「もしかしたら,全国の希望者を対象に、オンラインでも対応できるかもしれない」と考えるきっかけを与えてくれました。

🟠 「対面」でなくても、工夫次第で、どれだけでも「研修」はできる。                                      🟠 どこにいても、移動せずに,自分の都合のいい時間帯で研修が受けられる。                           🟠 グループで,LINEやZOOMを使って反転学習(事前の準備・振り返り)ができる。

 その決断を後押ししてくれたのは,学生たちからの授業評価でした。1人(個室)から6人部屋まで,ブレークアウト・ルームの使い方を工夫した授業への評価が,驚くほど高かったからでした。

「目標が先にありき」ではなく「目的があってこその目標」

 HPで「参加者」を募ったところ,北海道から鹿児島まで43名の方が希望されました。スタートまでの3週間をどう仕掛けておくか。それで決まるように思い,アドバイザーの方を中心にグループごとに問題意識を掘り起こしていただくことにしました。そうして始まった第一回目の「地球市民オンライン塾2023」,午後8時から10時過ぎまでの2時間弱の研修。まず,私の方から「目的と目標を混同してしまうと,学校が混乱する。それが問題行動,いじめや不登校の誘発につながりやすい」という話をしました。 簡単にいうと次のようになります。

 セミナーでこのお話をすると,テストを「戦術」とされる方が予想以上に多いなという実感を持っています。この誤解は,教師の「評価観」を大きく左右しています。評価規準やCAN-DOリストを作っている以上、テストはそれをクリアーしているかどうかを確かめるための「ものさし」となります。それが、問題の形式を事前に学習者に伝えておかないと見通しを持って学習できません。教師も,定期テストの「設問」を事前に用意しておいてこそ,授業でどう習熟を図れば良いか,どうステップアップしていけば良いかを考えることができます。もし,定期テストの内容を学期の最初に作っていないとしたら,「行き先」がわからないまま(何のためにその単元で学ぶのかわからないまま),バスや電車に乗せるようなものです。                                           

では、次のスライドをご覧ください。

  私は,これを受講生たちに示し,1から6の「左側」の項目はそれぞれ「何のためですか」と問いかけました。1と2はすぐに出てきましたが,3からは答えに窮されました。パッと意見が言えないということは,普段それを意識しないまま授業をやっていることになります。すると,登らせたい山の頂上が全く違ったものになってしまいます。評価は「成績」をつけるためではありません。「自信・意欲」はテストを受けた学習者だけでなく,指導者である教師の「授業診断」の結果の「自信・意欲」でもあるのです。ペアはあくまでも、「個人」が自立できるための手段であり,また「共同」(分担)ではなく,向き合って1つの成果物を完成する「協働」作業であることを意識しなければなりません。研修も,昨日までの自分とは違う自分を発見するため,新しい自分に出会うためです。

 学校において大切にしたいのは,3の「学習」の目的です。私たちは,自身の「概念」をより正しく,豊かにするために生涯かけて学び続けています。決して,目先のテストの点数を上げるため,入試に合格するためではありません。よって,定期テストや実力テストでは,安易に「穴埋め型の設問」(多くが暗記問題)に頼るのではなく,個々の「概念」が記述されるような問題,または学習者が「思考・判断・表現」の拠り所として「概念」が呼び起こされるような問題を用意することが大事です。学習の目的は「知識の獲得」ではなく「概念形成」です。頭の中の「概念」が明確でなければ,相手には正しく伝わりません。また,使おうとする言葉の定義が曖昧なままでは,相手が誤解してしまう可能性があります。「コンテンツ(内容)」と「スキル(正しい伝え方と語彙)」の両方が揃って,初めて相手に伝わります。

 誰かの「概念」を理解するには,その人が書いた文章を読むことです。オンライン塾の受講者には,事前にノートの書き方についてヒントを差し上げていました。研修では大いに気になるところです。そこで,互いにノートを見せ合い,工夫したところを話し合うという時間も作りました。人は,書かれたもの,話された内容,話し方(プレゼンテーションの仕方)などで,本当に理解しているかどうかが分かります。ですから,ある人が書いたノート,メモ,指導案などを見ると,その方の力量が分かります。深く考えていない人は,メモを取るときに,時系列で上から順に詰めて書いていきます。つまり,話し手任せ(passive writer)です。関心は綺麗なノートにすることであり,それを生徒にも要求します。

 一方,「なぜ?」と考えながら,聞いて(読んで)いる人(active writer, creative writer)は,「余白」(空白行)を作りながら,自分が理解できたこと(記録に残しておきたいこと)を中心に書き記します。その際,上から順に書くのではなく,コンセプト・マッピングのように,関連することを繋げながら書きます。さらには,ノートの端にも5センチほどの余白を作り,自分でハッとしたこと(講師の動き,話し方など)をメモしていきます。こうすると,観察眼も必要になり,書くことに主体的になれます。余白を作るのは,後で「振り返り」をするときに,閃いたことを追加して書き込めるようにするためです。生徒へのノート指導も,消しゴムを使わないで,思考の履歴を残すことを奨励します。少々雑であってもいいので,閃きを大切にするように指導します。つまり,ノートは自分の「思考基地」となり,そこからアイデアが無尽蔵に広がることを伝えている,という話をしました。

 その後,ジグソー学習を行いました。まず,7つのホーム・グループに分かれ,マンダラート(ネットで話題になった大リーグの大谷翔平投手が高校生の時に書いたOpen Windows 64で有名)を使って,学校の現状を話し合いました。トピックは、「目標」中心になっている学校の様々な活動をどう「目的」を意識した活動にできるか,さらには「利他」のあり方についても話し合いました。

 7つのグループ・アドバイザーは,1G竹崎優子氏(高知大学,高知市学力向上推進委員),2G松田由紀子氏(福岡市立原中央中学校,元福岡市スーパーティーチャー),3G吉田喜美子氏(佐賀・吉野ケ里町立東脊振中学校,元佐賀県スーパーティーチャー),4G高橋友紀氏(京都・綾部中学校,元京都府教育局指導主事),5G胡子美由紀氏(広島・美鈴が丘中学校,開隆堂 Sunshine English Course編集委員),6G植西仁美氏(和歌山大学)7G上山晋平氏(広島・福山市立福山中・高等学校,光村図書 Here We Go 編集委員)です。

 ホーム・グループでは6つの課題(学校体制,学年・学級経営,研修体制,教科経営,家庭との連携,地域との連携)について意見を出し合い,その後,各グループの代表が6つのエキスパート・グループ(新しいブレークアウトルーム)に分かれて内容を深めました。研修の最後は,各グループのレポーターが「2分厳守」で報告をしました。オンライン塾が終わった後,1週間かけて,それぞれのグループでマイ・アクション(取り組みの修正)が話し合われました。それを受けて,各グループの記録担当が「振り返り」(ワードによるA4判1枚)を送ってこられました。

「振り返り」って「まとめる」こと?

 その「振り返り」で,大きな混乱が起きていました。実は,送られてきた「振り返り」の多くが,残念ながら「まとめ」になっていたのです。それまで,私は,薄々授業や学校行事などの「振り返り」が,多くの学校でうやむやになっている,「振り返り」という文化が根付いていないと思っていました。

 たとえば,学校行事後の「評価(アンケート)」を取り上げます。学校行事では,「目的」(どんな力をつけるための行事なのか)が消えてしまい,「目標」(無事に終わらせること,できればクラス対抗で良い成績を上げること)を追いかけることが当たり前になっているようです。下の図をご覧ください。いずれも,年間を通して「つけたい力」が示されず、行事を終わらせることが目標になっています。

 本来,アンケートはすべての教師の「参画」の元に,年度当初に作っておき,その具体(育った生徒像)をすべての教職員が共通理解をして,行事だけでなく学級経営にも活かしていくべきです。アンケート項目が,行事ごとに変わっていくようでは意味がありません。できたことを次の学校行事ではどの基準まで上げるか,逆にできなかったことは次の行事でどう改善していくか。それを教職員で時間をかけて話し合い,「振り返り」をすることが大事です。時間がないからと,グラフの数値で「振り返る」という事務的な取り組みではいけないということです。

 オンライン塾で振り返るべき内容とは,研修中に行われたジグソー学習で浮かび上がってきたことです。「振り返る」ことは,違った経験や考えを持つ仲間と話し合ったことを次へのステップの足掛かりにすることも含まれます。そのためには,自分が「主観」で捉えたことを「客観」で整理すること(具体→抽象化・一般化)が大事になります。新しい考え方や改善すべき点を「思考」しなければならないということです。たとえば,「共同ではなく,協働が大事だとわかった」「これからは,こうあるべきだ」という記述は「振り返り」にはなりません。むしろ,現在,勤務校で行われている「共同」の部分にメスを入れ,どう「協働」に変えていくかという改善案を述べて,初めて「振り返り」になるということです。授業の「振り返り」でも,そのような視点を学習者に示さなければなりません。 今回,2つのグループの「振り返り」をご紹介しておきます。「まとめ」ではなく,上述した「振り返り」の視点が入っていることが分かります。

🟠「つながり」と「協働」                                                 ⑴ 学校における真の「つながり」とは何か                                                 教職員が「つながる」ためには,何をすればよいでしょうか。「つながる」ためには,「いつでも頼ってください」というオープンな気持ち,そして利他(相手のため)の心をもつことが必要です。また,私たちは「つながる」だけでなく,「つながる」ために「つなげる」アクションをする必要があると考えました。「つなげる」という意識をもてば,行動が自分ごとになります。たちのグループでは「職員室が何のために存在するのか」が話題になりました。そして職員室は, 1人で黙々と仕事をこなすだけの場所ではなく,職員室での笑顔やあいさつ,何気ない会話などのプラスのつながりが,生徒・教室・保護者・地域へと広がっていくのではないかと考えました。職員室の姿こそが学校の縮図ではないか・・・そう考えると,職員室での過ごし方をまず問い直してみようということになりました。なんのために?」を考えることで,「協働」のつながりが生まれるということがイメージできました。

⑵ 学校における真の「協働」とは何か                                  協働するためには, 同じ「目的」を共有しなければいけません。目的が定まると,目標ができます。Backward Designにおいても,目指す子どもの姿(ゴール:目的)を決めることで,具体的な行動が見えてきます。第1回の研修会に参加して,目的に対する意識が弱かったことも挙げられました。日頃を振り返ると,「教室」や「部活」など 一つ一つを別ものとして捉えていました。しかし, 学校行事や教室,部活動全ては,学校の教育目標(目的)に繋がっていることを常に意識していきます。具体的に子どもたちの育った姿を想定し,同じゴールに向かって協働できるよう,起こすべき「マイ・アクション」を考えます。

🟢 今回の研修を通して,私たちのグループでは以下の2つの気づきがありました。     1. やる気になる仕組み作りの大切さ(自律的学習者へ変化させるための仕掛け) 今回の研修で,私たち自身にやる気が満ち溢れるのを体感しました。研修では,次の3つのことが仕掛けられていました。まず,全員に役割と自分から発信する場面が設定され,伝えるというミッションが「自分ごと」になっていたこと。2つ目は,ゴールが明確に示され全員が学ぶ意義を理解していたこと。最後に,言語化して意見を共有することで新たな視点を探究する「協働」が仕組まれていたことです。学級活動や教科指導においても,児童生徒を自律的学習者に変化させるために,以下のような仕掛けが可能ではないかと考えました。例えば,教師の発問の工夫,課題を「自分ごと」として捉えられる授業デザイン,協働できる場面づくり,それぞれが自己と向き会い「あのレベルにまで達したい」とこだわりが生まれるような振り返りの位置付けなどです。

2. 相手に伝えるときに大切な利他の視点 教師は自分目線になりがちです。今回の研修で,相手の心理,目線に立って意識的に行動することの大切さに気づき ました。例えば,使う言葉や伝えたい内容を明確にしたり,相手(児童生徒・同僚)にどう伝わるかを想像しながら 話したりすることです。研修のまとめを発表する際,どの言葉をどの順番で使い,どの手段で発表するとより効果的 かを意識しました。自分が発表した後で各グループの発表を客観視したからこそ見えてきたものがあり,発表にも利他の精神が大切であることに気が付きました。小さなこと(目をつないで話す,先を急がないなど)には神様が宿りま す。利己(指導案優先,「自分のクラスさえ良ければ良い」)ではなく,チームの向上や学校全体の調和を目指すこと,手段(戦術)を目的化せず,ぶれない戦略で,最終ゴールへ辿り着く道のりを同僚と臨機応変に考えること。そこに こそ教師のチームとしての成長があり,児童生徒の「自律」につながると考えました。

「振り返り」をどうすればいいのか,という点で,参考にすべき事例があります。4月29日付の朝刊に,将棋の藤井六冠が名人戦で連勝したという記事が載っていました。その中で,彼は「苦しい将棋だったので振り返って次につなげたい」と語っています。棋士は,一局一局を大事にすることはもちろん,対局後に自分の良手,悪手をチェックし,それを次からの対局に活かすことに多くの時間をかけています。

 先般,「NHKスペシャル」で放映された「羽生善治52歳の格闘〜藤井聡太との七番勝負〜」をご覧になられた方も多いのではないかと思います。藤井王将に立ちはだかったレジェンド羽生九段。AI顔負けの正確無比な読みをする藤井王将に対して,彼が未だ経験していない作戦を繰り出した羽生永世名人。対局の後,二人は勝負を超えて,実に楽しそうに「振り返り」をします。「こう打てばどうだったか」「こんな手も考えたのだが」と手の内を明かしながら,身を乗り出して語り合っていました。

  このように,「振り返り」とは,自分がやったこと,知ったことを記録するだけでなく,「思考」の履歴から,次につなげるために「何を残しておくべきか」も判断するということです。これは,「プロ」の世界に生きる,すべての人たちの「流儀」です。野村克也氏は,プロ野球のヤクルト・阪神・楽天の監督,そしてシダックスの監督をしていた時,練習後の「振り返り」(ミーティング)で,「自ら問題意識を持つこと」「常に考える(振り返る)こと」の大切さを伝えました。彼の薫陶を受けた選手たちが,その後,監督となって成果を上げているのは,野村氏の言った「振り返りを大事にすること」を教訓として取り込んでいるからです。

 学校はどうでしょう。残念ながら,「振り返り」があまり機能していないようです。授業の最後に行う「振り返り」を,記号を選ぶような「自己評価」で終わらせていたり,教師が説明したことを「まとめて(要約して)」あれば、それでよしと判断したりしていないでしょうか。

  大事なのは,教えたことではなく,学習者自身が学び取ったこと(気づいたこと)、自分ごととして捉えられた内容、さらには次の学習にどう活かしたいかという自己申告です。

  学校では,概ね,よくなかったことの反省が中心で,その後「これから頑張ろう」という呼びかけで終わっていないでしょうか。 研究授業の後の協議会も,形だけの褒め言葉や幾つかの疑問点が出されるだけで,勤務校や地区全体の問題点として何に取り組めばいいかが具体的に示されません。出てくるのは「主体的」「生徒の良さ」「協働学習」「深い学び」といった抽象語ばかりです。さらに,それらの言葉の定義は異なって理解されています。「学期末評価」は,数値の比較だけになっており,改善策が具体的に示されていません。何をどう活かすかという視点が与えられないので,結局「まとめ」(できたこと,できなかったことを傍観者のように示す)だけで終わっています。多くの教師がそれに慣れてしまい,それを「当たり前」にしてしまっているのではないかと懸念します。生徒には「振り返り」について細かく指摘しても,自ら「モデル」を示せないのであれば,教育効果は期待できません。

  教師も「教育」の世界では「プロ」。「共通理解」に時間をかけるのではなく,むしろ「共通行動」の内容(「この後,何をどのようにやるか」)を明確にしておくことが大事です。教職員全員で気概を持って「協働」(目的を理解し,互いによい影響を与え合う)の業務を行う喜びを学校全体に広げていくことを目指せば,「孤独感」や「閉塞感」が少しずつ解消されていくのではないかと考えます。ワン・チームで「共通行動」を目指す。それが,当たり前のようにできたとき,学校はその存在感を高め,恩師に憧れた多くの若者たちが「自分も」と,真摯な気持ちで教師を目指すようになるのではないでしょうか。

次回(5月)の地球市民オンライン塾では、相手に伝わる「論理的な話し方(書き方)」を取り上げます。

 

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント