「荒れ」を克服し、「心」を育てる英語の歌の使い方とは
「英語の歌って、ホントに効果があるんですか?」
研修や現場で、よく聞かれる質問です。
そして、そのあとに続く言葉は、決まってこうです。
「前に使ってみたんです。でも、正直うまくいかなくて……」
この二つの声は、実は同じところから生まれています。
英語の歌を“どう位置づけていたか”という点です。
◆ 英語の歌が有効だと言われる理由
それ自体は、どれも正しい。
英語の歌が学習に有効だと言われる理由は、いくつもあります。
- フレーズが繰り返され、気づけば覚えてしまう
- 途中で止まらないため、英語を頭から処理する訓練になる
- 音楽という右脳的な学習で、意味をイメージしやすい
- そして何より、歌えるようになると自信がつく
どれも事実です。
多くの先生が、肌感覚として実感されているでしょう。
ただ、ここで一つ、あえて「問い」を立ててみたいのです。
「英語の歌は、inputとして“だけ”使われていないでしょうか?」
◆「聞いて・歌って・楽しかった」で終わっていないか
もし、授業が
聞く
→ 真似して歌う
→ 楽しかった
で終わっているとしたら、
それは心地よい input で終わっている可能性があります。
もちろん、inputは必要です。
しかし、学習を前に進めるのは、
「どれだけ入れたか」ではなく「何が頭に残ったか」です。
ここで鍵になるのが、intake という考え方です。
◆歌を「intake」に変える、という発想
これまでHPでも繰り返し述べてきましたが、
学習の成否を分けるのは、inputの量ではありません。
intakeが設計されているかどうかです。
英語の歌も同じです。
歌を
「聞くもの」「歌うもの」から
「使いたくなる言葉を、自分の内側に取り込む素材」
へと位置づけ直す。
そうして初めて、歌は
雰囲気づくりやご褒美ではなく、
思考と表現を動かす教材になります。
◆ なぜ、英語の歌で「荒れ」は収まるのか
「英語の歌で、クラスの荒れが収まった」
そんな報告は、決して珍しいものではありません。
私自身も、何度も経験してきました。
ただし、理由は
「楽しかったから」ではありません。
- 子どもたちが共感できる歌詞
- お気に入りのフレーズを使った表現活動
- 仲間と声をそろえる中で生まれる一体感
その積み重ねによって、
identity(自分らしさ)と unity(つながり) が
静かに育っていくのです。
さらに、
- 歌詞を読む「読み取り」
- リンキングを探す「聞き取り」
- 学期末の「オール・リクエスト・アワー」
こうした活動を intakeとして設計 することで、
どの生徒も、少しずつ英語を「自分の言葉」にしていきます。
◆思いつきではなく、「3年間の設計」を
ここで大切なのは、英語の歌の指導を「雰囲気が悪くなってきたら英語の歌でも使おうか」と安易に使ったり、「思いつき」で使ったりしないということです。必要なのは、
- 単元で学ぶ文法に合った歌
- テーマや季節に合った歌
- 生徒の発達段階に合った歌
のように、3年間を見通した 「英語の歌のシラバス」です。
教師のお気に入りの曲(思い出の曲)でも、
生徒からのリクエスト(流行の曲)でもなく、
英語力を育てる教材として「適切かどうか」で選ぶ。
それこそが、授業設計です。
こうした実践を体系的に整理したものが、
2000年に刊行した
『英語の歌で英語好きを育てるハヤ技30』(明治図書)です。
本書の背景や具体例については、
後の「実践編 PDF資料」の中で紹介していますので、関心のある方はお読みください。
◆「歌わせているのに、何も変わらない」と感じたら
もし、
「歌わせているのに、クラスが変わらない」
「むしろ、白けてしまった」
そう感じたことがあるなら、
それは 歌の問題ではありません。
intakeが設計されていなかっただけです。
荒れているから、落ち着かないから――
その理由だけで歌を流しても、効果は期待できません。
順番を間違えると、逆効果になります。
荒れた教室で「流れる音楽」は、
背景音(ノイズ)にしかならないからです。
◆英語の歌は「BGM」ではない
言語活動中の雰囲気づくりとして
英語の歌を流すことがあります。
しかし、歌とBGMは別物です。
知っている曲ほど、生徒の意識は逸れ、
ハミングが始まり、集中は切れていきます。
英語の歌は、
言葉として向き合うからこそ力を持つ教材なのです。
◆ それでも、歌は残る
ある日、授業とは関係のない場面で、
生徒がぽつりと歌詞の一文を口にする。
歌を流していないのに、
フレーズが自然に使われる。
「あの歌さ……」と、
生徒の側から話題に上る。
それは、歌が
音ではなく、言葉として残っている証です。
▶ 実践編のご案内
ここまで読んでくださった先生の中には、
こう思われた方もいるかもしれません。
「考え方はよく分かった。でも、実際の授業では、
どんな順番で、何に気をつければいいのだろうか?」
そこで、
英語の歌を 「聞いて終わり」から「intakeが起こる教材」へ
変えるための具体的なプロセスを、
STEP⓪〜STEP⑥としてPDFに整理しました。
荒れている教室でも、
歌がノイズにならず、
思考・感情・関係性を同時に動かすための
実践編ガイドです。
【実践編】英語の歌を「intake」に変える STEP⓪〜STEP⑥
※「以前うまくいかなかった」という経験がある先生はご覧になることをおすすめします。
https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2025/12/QR実践編.pdf
◆まとめ
荒れた教室に必要なのは、「静かにさせる方法」ではありません。
必要なのは、意味のある共有体験です。
英語の歌は、順番と設計さえ間違えなければ、
- 荒れを鎮め
- いじめを遠ざけ
- 心を育てる
強力な教材になります。
歌は、歌いたくなるようにするものです。
最初から無理に歌わせるものではありません。
英語の歌に関心を持てない生徒は、
歌が嫌いなのではなく、
「使われ方が合わなかった」だけなのです。
