🐟「変化」を楽しみながら「設計」を考える – “富山湾鮨”から学ぶ

1|「富山湾 – 季節で主役が入れ替わる海」が教えてくれる授業のつくり方

今回、取り上げるのは、富山湾鮨です。

近年、小樽市や北九州市はじめ、

「寿司」を観光の柱に据える地域が全国に増えています。

港町の歴史、市場の活気、新鮮な魚介。

いずれも寿司文化を語るうえで欠かせない要素です。

北海道、東北、北陸、九州—

日本各地の漁場では、季節によって獲れる魚が変わるのは当然のことです。

その意味で言えば、季節性そのものは、富山だけの特権ではありません。

しかし、同じ「寿司の街」を掲げていても、

富山の寿司には異なる手触りがあります。

それは、値段でも、派手さでもありません。

富山の寿司は、

季節によって中身が変わることを、

あらかじめ“価値として共有し、設計している”。

そこに、富山の寿司文化の独自性があるようです。

2|「天然の生け簀」と呼ばれる富山湾 —何が特異なのか

富山湾は、

3,000m級の立山連峰からの雪解け水が直接注ぎ込む、日本でも稀な湾です。

深海の深さは1,200mもあります。

急峻な海底地形、

寒流系と暖流系の魚が交差する海流、

沿岸から深海までが極めて近接している地理条件。

これらが重なり合うことで、

富山湾には500種類もの魚が同時に存在し、

季節ごとに“主役級の魚”が入れ替わる環境が生まれています。

この特徴から、富山湾は

「天然の生け簀」と称されてきました。

ただ、重要なのは、

地理条件そのものよりも、

「その変化をどう受け止めているか」なのです。

3|北海道・東北も”季節”は変わる — では何が違うのか

北海道や東北も、

世界有数の漁場を抱えています。

北海道 :ニシン、ウニ、サンマ、タラ、カニ など

三陸沿岸:サンマ、カツオ、サケ、ホタテ など

季節による魚種の変化は非常に大きく、

素材の豊かさでは富山に劣るものではありません。

しかし、観光や寿司の文脈では、

「年間を通して提供できる定番ネタ」として

ウニ、イクラ、カニ、マグロ

が前面に出ることが多くなります。

これは、寿司を食べたい人にとっては

分かりやすく、期待を裏切らない、合理的な戦略です。

一方、富山の寿司屋の考え方は少し異なっています。

季節で中身が変わること」そのものが、

寿司体験の前提として語られ、共有されているのです。

ここが、「構造的な違い」です。

4|季節ごとに“別の寿司”になるという前提

富山の寿司は、季節によって明確に顔を変えます。

春〜夏:ホタルイカ、白エビ

:紅ズワイガニ、ノドグロ(赤ムツ)

:寒ブリ、カワハギ

同じ店で、

同じ職人が握っていても、

春と冬ではまったく別の構成になります。

それでも、客は戸惑いません。

なぜなら、

変わること」が、最初から約束されているからです。

富山が提供しているのは、

寿司という料理ではなく、

旬を味わう体験」です。

5|日本海側なので、”マグロ”は主役にならない

全国的な寿司文化では、

マグロは王道であり、安心の象徴です。

「とりあえずマグロ」

そんな共通認識が、

江戸前寿司を主流とする地域にはあります。

しかし富山では、

マグロは「絶対的な主役」ではありません。

日本海側ではマグロの水揚げが少なく、

冷凍に頼らざるを得ない状況になりやすい。

そのため、どうしても鮮度という点で不利になります。

その代わり、富山湾には、

季節ごとに主役になれる魚が次々と現れます。

先程も、簡単に紹介しましたが、

さらに詳しく紹介すると、

は、ホタルイカ、白エビ、桜鱒など

は、岩牡蠣、鮎、太刀魚など

は、甘エビ、紅ズワイガニ、香箱ガニ(勢子ガニ)、ノドグロ(赤ムツ)など

は、寒ブリ、カワハギなど

一年を通して、

「主役」が途切れない環境が整っているのです。

だから富山の寿司屋は、

全国共通のスターに依存する必要がありません。

常に考えるのは、

今日の主役は何か

今の季節を、どう一貫に表すか

その日、その瞬間、その海の状態に合わせて、

ネタを選び、組み替え、構成し直す。

ここに、

富山の寿司の「編集力」が生まれています。

6|新鮮さが当たり前だからこそ、職人の差が出る

富山県内では、

どの寿司屋でもネタは新鮮です。

回転寿司であっても、

十分に満足できる品質の店が数多くあります。

だからこそ、

寿司職人が握る寿司の価値が際立ちます。

写真のように、”富山湾鮨”として

“季節の10巻”を提供する

という取り組みもあるようですが、

基本的に、

どのネタを、どの順で、どう出すか

寿司屋に委ねられます。

この判断こそが、

富山の寿司の「体験価値」を高めているのです。

7|「同じ型で、主役を入れ替える」授業へ

この「の主役を生かすという構造は、授業と驚くほど似ています。

富山の寿司文化が示しているのは、

「良い素材があるかどうか」ではありません。

変化を前提に、

その都度、主役を選び直す設計思想」です。

授業もそうです。

教科書は全国共通

基本文(文法シラバス)や活動の型も大きくは変わらない。

それでも、

学期が変わり

学習履歴が深まり

関係性が育まれるにつれて

前面に出すべきものは変わっていくはずです。

授業を、毎回まったく違う活動にする必要はありません。

しかし、

毎回同じ“主役”を出し続けていないかどうか、

授業が定形化していないかどうかを、

問い直す必要があります。

今、このクラスで

今、この時期に

何を前面に出すのか。

1学期と3学期では、

取り組むことが大きく違うように、

学校行事、学年行事とも関連し、

子どもたちの考え方は成長し続けています。

教師がそれを踏まえて、

旬の教材」を意識的に選ぶことで、

彼らは「自己更新」している感覚を持てる

ようになります。

結び|季節や成長を感じ、変わることを前提に設計する

富山の寿司文化が示しているのは、

変化を恐れない姿勢ではありません。

変わることを

最初から前提として設計していることです。

季節ごとに主役が入れ替わる「富山湾鮨」は、

そのおいしさ以上に、大切なことを私たちに

教えてくれます。

それは、

「いつも同じでいい」という思い込みが

本来あるはずの(旬の)味わいを

知らぬ間に薄めてはいないかということです。

当たり前を疑い、

その時、その場にふさわしい一皿を選び直す。

それは、教室で起きていることとも、

決して無関係ではありません。

手順を守ることではなく、

判断の質を磨くことの大切さ。

富山湾の鮨は、

そんな問いを私たちに投げかけてくれています。

冬(季節限定)の駅弁です。食べられたことはありますか。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント