◆ 知識を増やせば、主体性は生まれるのか
「主体的に学習に取り組む生徒を育てるために、
まずは知識をしっかり身につけさせることが大切だ」
この考えに、違和感を覚える教師は少ないでしょう。
むしろ、最も安心できる考え方かもしれません。
しかし、教室に立ち続けていると、
何度も立ち止まってしまう場面に
出会います。
それは、
十分に知識をもっているはずなのに、
生徒が動かない
ということです。
活動はしている。
ノートも書いている。
問いにも答えている。
それでも、
「考えている感じ」がしないのです。
一方で、
知識が十分とは言えないのに、
驚くほど言葉を重ねる生徒もいます。
この差は、どこから生まれるのでしょうか。
それらは、
知識量の差ではありません。
生徒が動き出すかどうかは、
❶「自分で選んだテーマがあるか」
❷「自分の立場をもっているか」
この二点で、ほぼ決まります。
人は、自分で選んだ問いについては、
途中で投げ出しません。
また、
「私はこう思う」という立場をもった瞬間、
学習が”作業”ではなくなります。
これは、学年や教科を問わず、
長年繰り返し確認されてきた事実です。
- なぜ「自分ごとでない学習」は続かないのか
- なぜ「立場のない発言」は浅くなるのか
- 生徒は、どの瞬間に言葉を書き直し始めるのか
本稿では、
チェーン・レター/リレー・ノートという実践を通して、
この問いを、
「起きていた事実」から辿っていきます。
◆ 書くたびに、考えが変わっていく教室
まず、最初にご紹介するのは、
2026年1月14日に行われた
東京都北区教育研究会 外国語部会研修会
(会場:北区立都の北学園)で行った
チェーン・レター(紙上ディベート)です。
先の記事
「手書きはなぜ力がつくのか」
の最後に紹介した感想が、
なぜあのような言葉になったのでしょうか。
さらに、この実践を日常的な学習活動として
定着させたのが「リレー・ノート」です。
全国で、一定のルールに基づいて追試が重ねられ、
その効果は複数の教室で確認されてきました。
実践した教師たちは、子どもたちの思考や関わり方に
明らかな変容を見取っています。
本稿では、その変化を生み出した要因と、
その背後にある学習者心理の構造に迫ります。
なお、本記事は、3月中旬に配信予定の連載
「往還は『設計』ではなく、『反応』で決まる(全4回)」
につながる、反転学習の伏線(setup)として位置づけています。
① チェーン・レター(セミナーで使用した資料)
【表】*4つの課題(身近な必然性)、そして指示の順序性がポイントになります。

【裏】

② 実際に書かれたもの(北区の研修会にて)


③チェーン・レターに取り組んだ生徒の感想
(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

◆ チェーン・レターという「入口」
チェーン・レターは、
一人で完結する活動ではありません。
誰かが書いた言葉を受け取り、
それを読んで、
自分の言葉を重ねていく。
この時点で、
生徒はすでに
「自分の考え」だけを
書いているわけではなくなります。
しかし、
ここではまだ大きな変化は起きません。
変化が見え始めるのは、
その後に続く
リレー・ノートです。
◆ 書き終えたはずなのに、また書きたくなるリレー・ノート
リレー・ノートも
1回書いて終わる活動ではありません。
ノートは、
何度も生徒の手元に戻ってきます。
最初に書いた意見は、
もう「完成形」ではなくなります。
他者の言葉を読んだあと、
自分の考えが
どこか居心地の悪いものになるからです。
ここから、教室の空気が変わり始めます。
東京都北区立飛鳥中学校
本田大輔先生の追実践(リレー・ノートのレポート)
には、偶然では説明できない
“往還”が起き続ける理由があります。
後の「謎解き」を読まれる前に、本田先生のレポート(PDF)をお読みください。
https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2026/02/リレーノート・レポート_北区飛鳥中学校_本田.pdf
読まれた方には、後ほど、3つの事例の「謎解き」をしていきます。
【事例①】夏休みを短縮すべきか
We should make summer vacation shorter.
このテーマは、
当時、自治体でも議論されていたもので、
生徒にとっても他人事ではありませんでした。
生徒は、
[ 賛成/反対/条件付き/第三者 ]
といった役割を選び、
その立場で書き始めます。
興味深かったのは、
自分の本音とは異なる立場を
あえて選ぶ生徒が多かったことです。
やがてノートが回り始めます。
バトン(ノート)を受け取るたび、
生徒は友だちの意見に向き合い、
自分の立場を更新していきます。
その際に使われていたのが、
事前に共有していた「配慮の型」でした。
- She said …, it may be true, but …
- I understand that …, but …
相手を否定するためではなく、
一度受け止めたうえで、
自分の考えを述べる。
生徒は深く考え始めます。
「この立場なら、
どんな理由が必要なのか。」
「その理由は、
本当に通用するのか。」
書いては、読み、
読んでは、書き直す。
反論が「攻撃」ではなく
自分の考えの「更新」になっていきます。
こうして、
最初に書いた一文が、
少しずつ形を変えていきます。
リレー・ノートでは、
誰も「正解」を探していません。
ただ、
書き直さずにはいられない状態
が生まれていました。
【事例②】ヤドカリとプラスチックごみ
教師が提示したのは、
沖縄のヤドカリが
プラスチックごみを殻代わりにしている写真でした。
- 1周目:自分の意見を書く
- 2周目:他者の意見を読んで、さらに考える
多くの生徒は予想通り、
「プラスチックごみ=悪」という構図で書き始めます。
ところが、ある生徒の一文が、
議論の流れを一変させました。
「確かにごみを捨てるのは悪い。
でも、このプラスチックは
ヤドカリが生き残るために必要なのではないか。」
さらに別の生徒は、
「透明だから敵から見えにくい」という視点を提示します。
ここで、グループに「揺れ」が生まれます。
揺れが生まれると、「往還」が起こります。
なぜなら、生徒はもう一度
自分に戻って書き直さざるを得なくなるからです。
反論の中で、次の一文がノートに現れました。
All the sea animals are related to each other.
教科書の本文で学んだ英文です。
しかし、それは
今の考えを言い直すために、
どうしても必要な言葉でした。
【事例③】中学生はスマホを禁止すべきか
このテーマは、
生徒にとって極めて身近で、
同時に、
大人の視点も想像しやすいものでした。
議論が止まりかけた場面で、
本田先生は次のように問いかけます。
「生活に必要だという考えは理解できる。
でも、君たちは高校入試を控えている。
多くの生徒が、
スマホを使い、何もしない現状がある。
それでも、禁止しないと言えるだろうか。」
この問いは、
答えを与えていません。
ただ、
見ている場所をずらしただけです。
さらに教科書内容
(電子機器とアフリカの金属資源)とも接続され、
一見、強引にも見える揺さぶりが、
生徒の「どうしてもスマホを持ちたい」
という本気度に火をつけました。
結果として、
ノートは3周回りました。
- 一人で考える
- 他者の考えに触れる
- 自分の考えが揺さぶられる
- 言葉を選び直す
このサイクルが、
強制されることなく回り続けたことで
いつの間にか、
どのページも
彼らの「声(voice)」でびっしり
埋まっていました。
-Map-1024x683.png)
◆ 教師が「何もしなかった」わけではない
ここまで読んで、
「自由に書かせただけでは?」
と感じた方もいるかもしれません。
しかし、
この学習は放任ではありません。
- 最初に、テーマが慎重に選ばれている
- 個々の立場が明確にされている
- 書き方の配慮(ルール)が事前に共有されている
- 途中で、視点をずらす問いが入る
答えは一度も示されていません。
示されたのは、
考え続けるための「条件」だけでした。
🍀 エピローグ
チェーン・レターやリレー・ノートで
教室に残っていたのは、
「うまく書けた文章」ではありません。
生徒が、
どこで立ち止まり、
どこで迷い、
どこで言葉を選び直したのか。
その痕跡でした。
書き直しの跡が残るノートは、
完成度の低さを示しているのではありません。
むしろ、
考え続けた証拠です。
なぜ、
一度書いたはずの意見を、
生徒は書き直したくなったのか。
なぜ、
他者の言葉が、
自分の考えを揺さぶったのか。
そして、
なぜ
教師は、
答えを言わなかったのか。
この「不思議さ」は、
3月の「往還」の連載まで
そのままにしておきたいと思います。
なお、「リレー・ノートが止まってしまう5つの理由と回避策」については、後日(3月の「往還」の連載後に)取り上げる予定です。
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