【第1回】 往還とは何か
「往還」は、ルートが決まった周回コースを用意することではありません。
授業の中で起きている「往還」は、
教師が“順番”を組むことではなく、
学習者の状態に応じて“判断”を
変え続けることです。
たとえば、授業を拝見していると、
次のような場面に出会うことが少なくありません。
- 本来は「個」に戻すべき場面で、ペアやグループのまま活動を続けている
- まだ一人ひとりの考えが立ち上がっていない段階で、いきなりグループで話し合わせる
これでは、信号が赤なのに、無理やり横断させるようなものです。
学習形態が使われる「目的」が意識されていなかったり、
あらかじめ決めた順番どおりに活動を回すことが
目的化してしまったりすると、
多くの場合、子どもの思考はうまく立ち上がりません。
こうしたズレが起こらないためには、
「個」と「協働」をどう行き来させるのか―
つまり、「往還」をどう捉え、どう機能させるのかを、
改めて整理する必要があります。
そこで今回は、
「往還」をテーマに【全4回シリーズ】として、
次の順で考えていきたいと思います。
- 往還とは何か
- うまくいかない往還
- 機能する往還
- 往還が生む学びの深まり
なお、各回の具体的な説明として、
すでに「反転学習(予習)」として取り上げさせていただいた
「リレーノート」の実践事例を軸にしながら、
授業の中で何が起きているのかを丁寧に見ていきます。
◆「往還」を「工程表」にしてしまうと、何が起きるか
授業を参観させていただくと、
黒板にこんなふうに書かれている場面を見ることがあります。
① 個人思考 5分
② グループ交流 7分
③ 全体共有 5分
この進め方が悪いと言っているわけではありません。
ただ、問題は、
時間が先に立つ(意識される)ことで、
学習者の状態(取り組みや内容)が後回しに
なってしまわないか
ということです。
その瞬間、「往還」ではなく「作業」になってしまいます。
「往還」とは、本来―
戻したり、進んだり、
出したり、引いたりする
という判断です。
ということは、
教師が次のような判断ができるかどうかです。
- 「迷って」いれば、個に戻して自分の考えを確立する
- 自分ごととして「言葉が立ち上がって」きたら、協働にする
- 「ズレ(ギャップや差)が見えた」ら、もう一度、個に戻す
大事なのは、「順番」ではなく、あくまでも「反応」です。
教師の仕事は、
学習者の足跡(思考の痕跡)に反応して、
学びの形を臨機応変に変えることにあります。
◆そもそも「往還」とはどのような意味なのか
「往還」は、しばしば go back and forth(行ったり来たり)と説明されます。
ただし、授業で起きている往還は、単なる往復運動ではありません。
研究会や学会で使われている文脈に近い言い方は、次のような表現です。
- reciprocal movement
(学習者の反応に応じて、「個で考える」「人と関わる」の判断を行き来させる動き) - a dynamic interplay
(「一人」で考えた内容が「協働」の中で揺さぶられ、「協働」で生まれた気づきが、再び「個の思考」を書き換えていく関係) - move fluidly between reflection and interaction
(立ち止まって考える時間と、人と関わって考え直す時間を、学びに応じて無理なく切り替えていくこと)
どれも共通しているのは、教師が“反応”し続けるプロセスだという点です。
「往還」とは、「ルートを設計すること」ではなく、立ち上がりを見て判断を変え続けることです。
◆「個別最適」は、「協働」の“前”でも“後”でもない
現場では、次のように語られることが少なくありません。
- 個別最適な学び + 協働的な学び
- 個別最適な学び → 協働的な学び
しかし、ここに誤解があるようです。
大事なのは、足し算でも、矢印の関係でもないということです。
アイキャッチのイラストのように
足跡が行ったり来たりしている状態―それが「往還」です。
行って、戻る。
触れて、戻す。
更新して、また行く。
この足跡は、あらかじめ引かれた周回コースではありません。
学習者の反応に応じて、その場で増えたり消えたりする軌跡です。
🎬次回予告(第2回へ)
中間評価を入れたのに、学びが深まらない――。
それは授業が失敗したのではなく、
往還が“一方向”になっているのかもしれません。
「途中は出さない方が安全だ」
生徒がそう判断した瞬間、教室で何が起きるのか。
どうすれば“発表会化”を構造で止められるのか。
第2回では、足跡が片側にしか伸びない教室を解剖します。
