山武郡市(千葉)の小・中合同教頭研修会で「話題」にしたこと
令和7年1月17日(金)に、千葉県の山武郡市(さんぶぐんし)の小・中学校合同教頭研修会に呼ばれてお話をしてきました。山武郡市は、東金市、山武市、大網白里市、九十九里町、横芝光町、芝山町の3市3町を併せた地域の総称です。房総半島中央部の東側に位置し、面積は約428平方キロメートルです。
「働き方改革」の迷走については、当HPの「働き方改革の迷走もTTの混乱も根っこは同じ」でも書きましたが、本来の教育の目的、学習の目的を見失っていることが大きいように思います。また、単元の中でICTを使う目的(どんな力をつけるためか)を明確にしないまま、タブレット端末やデジタル教科書をなんとなく使っている授業が見られますが、使うのが当たり前ではなく、あくまでも学習の個別化を図る「手段」の一つとして捉えることが肝心です。危惧されるデメリット(無造作に使っていると学習差が広がりやすい)に対してどう具体的な策を練っておくべきかが、今問われています。
54名の教頭先生と向き合った研修会では、まず、学習指導要領で使われている様々な用語の定義を確認しました。◯目的と目標の違い、◯主体的と自主的の違い、◯協働と共同の違い、◯個別最適な学びにおける個別化と個性化の違い、◯技能と知識の違い、◯「思考を整理する、考えを形成する」とは何をすることか、などについて国語辞典に書かれた意味を確認しながら、勘違いや思い込みを是正していきました。なぜなら、指導する立場の人間が「正しい理解」をしていなければ、「正しい指導」をすることができず、子どもたちが伸びていかないからです。
また、教師の「導管メタファー」(説明すればわかるはず)の姿勢は、プレゼンテーションソフトを使った説明やプリントを使って進める学習の激増につながっています。さらにそれは生徒の学習意欲の低下を引き起こしています。「わかっているはず」(伝えたつもり)と考えてしまうのは、「知識」(教師が教えたこと)と「技能」(自分でできること)が同じことだと勘違いしているからです。教師の説明でどの生徒も理解できるということはあり得ません。1つのクラスの中には、トマト(自分で大気中の水分が得られる)タイプの生徒ときゅうり(朝、たっぷりの給水をしなければ枯れてしまう)タイプの生徒が存在しています。果たして、一種類のプリントを用意するだけ、同じ説明をするだけで理解できるのでしょうか。そのようなことを「当たり前」として見過ごしてしまうと、子どもたちの自己肯定感は育ちません。
研修では、実際に勤務校での場面や実践を振り返りながら討論をしたり、3色の付箋を使って学習指導要領や学習指導案を分析したりしていきました。研修が終わって、どんな感想があったのでしょうか。リーダー(管理職)の意識が変われば、同僚、特に若い世代がみるみる伸びていきます。変容した教師のクラスでは、子どもたちが自律的学習者としてすくすく育っていきます。
リーダー(管理職)の理念と矜持は、必ず若い教師に伝わる
研修を終えて、教頭先生方はどのように受け取られたのでしょうか。最初にご紹介するのは、中学校の教頭先生の感想(一部)です。
中学校
● 付箋を貼って指導案を視覚的に確認できる方法は、校内研修で活用させていただきます。「働き方改革」の流れの中、与えられた時間の中で何ができるかばかりが言われているが、Time on taskで、学校教育を考えていけると、生徒、職員にとって面白い学校になる!と思いました。
● 学習指導要領への付箋の貼付は、学習指導要領の内容を深く読み込むきっかけになると思いました。全職員分の学習指導要領を購入し、1年間の指導の振り返りをさせ、次年度の授業の見通しをもたせたいと思います。また、指導案への付箋の貼付も、指導案が授業進行表からの脱却に大変有効であると感じました。3学期は若手の要請訪問を行っており、指導案を作成しています。付箋を貼らせて授業の流れが、個人の活動、グループワークが正しく配置され、子どもたちの学びの深まりに繋がっているか確認させ、日々の授業改善につなげたいと思います。
● 授業づくり、指導案づくり等、若手職員へのアドバイスだけでなく自分自身の実践に役立つものでした。
● 先生の講義を受けてからの1週間、「頭の中で終わり(ゴール)の姿を明確にしているか」と、会議や個別に職員に話をしています。言い続けることは自分自身に対する問いかけであると考えています。そして、職員に定着させていきます。ご指導ありがとうございました。
● 今、団塊世代のベテラン教員がたくさん退職し、若い教師が増えています。職員室の中で先輩から経験的に学んでいたことが若い世代にうまく継承できておらず、職員研修の重要性はますます高まっていると感じています。今日の中嶋先生のお話の中には、具体的な研修の進め方だけでなく、教員として大切にしなければならない「情熱」が伝わってくる熱いお話がたくさんありました。私も、若い教員の心に響くような声かけや話ができるようにしたいと思います。印象に残る言葉をたくさんいただきありがとうございました。
続いて、小学校の教頭先生の感想(一部)です。
小学校
● 中嶋先生の本気のご講義に、ぐいぐい引き込まれました。授業は教員の生命線です。人材育成を図る上で外せない、大切なポイントをたくさん学ばせていただきました。「付けたい力は何か」を明確にすること、いつも職員に伝えています。今日はその一歩先の、具体的なことを学ばせていただくことができました。本当にありがとうございました。
● 中嶋先生の言葉一つ一つは心に響いた。中嶋先生の言葉を、職員に伝達していきたい。また、学習指導要領と学習指導案を活用し、本校でも「現在地の理解と改善」のための研修を実施してみたいと思った。
● 本日、御多忙の中、御講演いただき、ありがとうございました。具体的な事例やキーワードを交えたお話は、非常によくわかり、「人材育成」を校内でどのように進めていくのか、大きな指針となるものでした。学習指導要領に基づき、ゴールから逆算した学習指導について、職員へ還元し、実践していきたいと思います。また、先生の情熱が伝わる御講演の方法にも感銘をうけました。まるで、ミニシアターを観ているかのような感覚になりました。これを機に、さらなる研鑽を積むべく努めてまいりたいと思います。遠くまでお越しいただき、本当にありがとうございました。
● 今年度、初めて1.2年生の図画工作と6年生の書写を担当しています。担任を務めていた時は高学年が多かったので、低学年の図画工作は初めて授業に取り組んでいます。恥ずかしながら学習指導要領でねらい等を確認したのは初めてでした。今後に活かしてまいります。ありがとうございました。
● 自校の先生方に、何を目指すのか、ゴールを明確にすることが我々教頭にとっての重要な一つの仕事であることを研修から改め認識することができました。また、校長先生が描く理想の児童像、学校像、教員像を実現するために今後の職務に努めたいと思います。
● 教育に対する情熱が素晴らしかったです。私が研究している国語科も教師見本を作成し、児童に学習のゴールを示し、学習計画を児童とともに立てます。そのような学習を行うと、主体的な態度となり、学力も向上します。その手法が人材育成にも有効だと、先生のお話を聞いて思いました。ありがとうございました。
● 「技能」と「思考・判断・表現」を、どのように捉えて授業を組み立てていかなくてはいけないか、大変勉強になりました。また、ゴールから逆に組み立てていくというお話も、大変納得いたしました。学んだことを、経験の浅い先生方にも理解し実践してもらえるようにします。その際には、先生の資料も活用させていただきます。ご指導ありがとうございました。
● ゴールをイメージして取り組むことは、全ての取り組みにおいて、子どもの姿をイメージし、そこを目指して取り組んでいくことが大切であることを改めて感じることができました。ありがとうございました。
● 知識・技能の技能についてのお話はとても納得し、さっそく職員に伝えました。実践的なお話をいただき誠にありがとうござました。
● 自分自身が今までいかに(ある意味で)適当に授業や研修を行ってきたかを痛感させられる研修会でした。今の立場になっても学ぶべきことはたくさんあるということも感じましたし、私たちには若手を育てていく責任があることを再認識することもできました。ただ、今回の研修会、中嶋先生の話のペースが少し速く感じました。私自身の勉強不足や理解力不足もあったと思いますが、もう少し研修会の時間が長くとれると良かったのではないかと感じました。
● 子ども達に身に付けさせたい力について、改めて考える機会となりました。ゴールから逆算してという考えは、ゴールをイメージできない若手にとっては、とても難しいことだと思います。しかし、学級経営と同様にそういう実態であることを理解した上で、どのように指導すべきかを考えていこうと思います。
● 目標・ゴールを見据えて、達成までの計画を逆算して立てていくという点を今後生かしていきたいと思いました。
● 教頭として若手育成の手立ての財産とすることができました。ありがとうございました。
● 研修への取り組み方を再認識することができた。若手教師への助言についてしっかりとゴールを見据えた声かけをして行きたいと思う。
● 授業はもちろんのこと。教育活動の1つ1つのねらいを意識させて指導にあたらせたいと改めて感じました。ありがとうございました。
● ゴールを決めてそこにどうアプローチしていくのか。を今後も大切にしていきたいと思います。また、子どもをその気にさせる指導など学校の職員(若手育成)に伝えていきたいと思います。ありがとうございました。
● 研修内容を先生方に伝える機会をつくりたいと思います。
それぞれの感想で共通していることは何でしょうか。管理職であっても「一人の教師」として「原点」を忘れていないということです。その原点を持ち続けている方は、いずれもご自身で「やるべきこと」にハッと気づいておられます。
どの子どもにも力をつけるのが学校の使命、教師の仕事です。だとしたら、教科書を終わらせることに汲々とするのではなく、「何のために」「どんな力をつけるために」という目的を明確にした上で、到達すべき目標(育った子どもの姿)を設定し、その具体的なイメージを頭に描いてから丁寧に計画を練り、随時修正をしながら最後まで諦めずに遂行していくということが望まれます。
「忙しい」とか「やることがたくさんある」と思ってしまう(心を亡くす)と目先しか見えなくなり、「自分が誰かの役に立っている」という喜びを見失ってしまいます。「子どもと向き合い、彼らを笑顔にする」という教師のやり甲斐(生き甲斐)を再確認するのが、本当の「働き方改革」ではないかと考えます。特に、管理職、主幹、主任クラスの方々が日頃からそれを具現化する努力をしていかれれば、自ずと学校が活性化していくように思います。何をするときも、「それは、何のため?」「最後は、どうなっていればいい?」を合言葉にしてください。山武郡市の小学校、中学校の子どもたちがますます元気で活躍できることを願っています。