「習ったことを使って伝える」から「言いたいことをどう伝えるか」への転換を
「授業の最初にペアチャットをさせるトピックがうまく設定できません。どうしても文法にこだわった内容になり、生徒も乗ってきません。何かいい方法はないでしょうか。」
✏️ 私の考え:「話させる」のではなく「自分ごととして考えること」からスタート
スモール・トークやペアチャットがうまくいかないのは、話すトピックが”練習のための題材”になっているからです。
習ったばかりの「文法」を使わせようとするあまり、子どもたちが「何を言いたいか」よりも「どう言うか」に意識が向いてしまうのです。
これでは、自分の思考が動かないまま言葉だけを並べる活動になってしまいます。
大切なのは、ペアチャットを「英語を話す活動」ではなく、英語で自分の考えを出し合う活動に変えることです。
そのためには、最初に「考える種(タネ)」をまく工夫(入力の必然性)が必要です。
🧠 思考ツールで“考える種”を育てる
たとえば、トピックをいきなり出すのではなく、まずは思考ツールのマンダラ・チャートや階層式マッピングなどを使って、「自分の考えを見える化」してからペアチャットに入ります。
例)トピック:「どの長期休業が中学生にとって一番有効か?」
① まず、夏休み、冬休み、春休みをそれぞれマンダラ・チャートの中心マスの中に入れ、周りにできることを書き出す。
②「こんなことができると役に立つ」という情報が数多く入っている休みを選び、それを階層式マッピングで「5W1H」の情報を整理しながらストーリーのようにつなげていく。
③グルーピングやナンバリングを行い、頭にイメージを作ってから、マッピングシートを見ずにペアでチャットをする。
こうすると、子どもたちはいきなり話しなさいと言われて途方に暮れることがなくなります。つまり、大事なのは“話す前に考える時間をもつこと“なのです。その結果、教師がやりたい「文法を使うための活動」から、「自分が話したい内容」にシフトされます。
しかし、「それでは、新しく習った文法が使われるかどうか分からないのでは?」と疑問を持たれる方もおられると思います。そこで、ポイントは上の②の段階で教師が次のように言うことです。
Find a place to use what you learned today.(習ったことをどこに入れられるか自分で見つけてごらん)Your goal is to get a “Nice!” from your friends.(相手から『いいね!』がもらえるように工夫してごらん)
教師の指導は、「ストレートに教えて覚えさせる」ではなく、相手(学習者)のニーズ、不安、疑問をあらかじめ予測して、指導のプロセスの中に組み込むことです。それは、ちょうど「ピアノの黒鍵(#と♭で半音だけ上げ下げする)」のような足場かけを用意することなのです。
🤝 仲間との”やり取り”の頻度の多さが「使える英語」を育てる
教師が一方的に「英語で話しなさい」と指示をしても、頭の中に話したいことがイメージできていなければ、言葉が出てきません。しかし、「相手の考えを知りたい」「自分の考えを伝えたい」という目的があると、自然に言葉が浮かんできます。
たとえば、チャットをしているペアに対して
Ask your partner why.
When you want to know more about something, say “Tell me more!”
Find something different.”
といった思考を促す”サブタスク”を与えると、やり取りの内容が深まります。
英語は“誰に向けて、何のために“という目的のある対話の中でこそ、生きた表現(自分の言葉として使えること)が身についていきます。
🌱 可視化された思考が「振り返り」を生む
ペアチャットで終わりにせず、最後に「自分の考えがどう変わったか」「相手の意見から何を学んだか」を自由記述(英語)で言語化すると、学びは“話して終わり”ではなく“考えを再構築する段階”に進めることができます。
現場では、教えることが優先されてしまい、子どもたちの内省によって学びが深まる、この「黄金の時間(意味のある「振り返り」)」がスルーされているように思います。学力を高めるためには、教える量ばかりに目を向けるのではなく、学習の仕上げの段階で、自律的学習者を育てる「自己評価能力(自己学習能力)」、「メタ認知能力」をつけるための時間を位置付けることが大事です。
単なる振り返りではなく、考えを見える形で繰り返すこと=可視化された学びの循環にするのです。
このプロセスが、英語を使って考える力を育てます。
🌸 「文法」から「思考」へ
ペアチャット(スモール・トークを含む)の目的は“話す練習”ではなく、“考えを英語で表す体験”を通して思考を動かすことです。
思考ツールで考えを整理し、やり取りを通して深め、
書くことで思考を見える化する──この循環がルーティンとなった時
ペアチャットは単なる会話練習から“思考を伴う言語活動”に変わります。
次回(第5回)は、「トピックをどうワクワクさせる内容に改変するか」です。
「小学校の英語の教科書でやった内容が中1の教科書に再び登場しています。生徒は同じことをしているという感覚になり、ワクワクしません。どうしたらいいでしょうか」という問いに、あなたならどう答えますか。
