生成 AI へのプロンプト(指示)から学ぶ「相手に伝わる言い方」
Q:「生徒がすぐにGoogle翻訳に頼り、それをそのままコピペして終わってしまう授業を見かけます。私は、ChatGPTなどの生成AIを使って自らの英文を添削させるという指導をしているのですが、書く力をつけるにはどのようなプロセスが大事になるでしょうか。」
✏️ 私の考え:「書く力」とは、“自分の考えを言葉にする力”
AI翻訳や生成AIの利用が広がる今、「適切な使い方」が改めて問われています。
便利なツールを使うこと自体は悪いことではありません。
問題は、ツールを使う前に「自分の考えをつくる時間」を取っているかどうかなのです。
いきなり、タブレット端末を取り出してしまうと、考えがまとまっていない生徒は「思いつき」で選んだ言葉をそのままGoogle翻訳で英語に置き換えてしまいます。
「書く力」とは、単に正しい英文を作る力ではなく、「自分の思考を言葉にして他者に伝える力」のことです。
つまり、文章を書くという行為は、「考える」→「構成する」→「表現する」という思考のプロセスそのものです。いきなり、表現に向かわせるのではなく、脳が具体的なイメージを持てるように思考ツールを使ってvisualize(視覚化)するのです。
🧠 必要なのは、思考ツールで考える前の”下書き(青写真)”
AIが文章を作るのは一瞬ですが、その前に子どもたちが「自分の考えをどう伝えたいか」を整理することが大事です。その時に、4つの「思考ツール(マンダラ・チャート、階層式マッピング、インタビュー・マッピング、探求コーラルマップ)」を使うと、自分や仲間の考えを整理するプロセスが「可視化」されます。
自分の考えを“見える形”にしておくと、AIの 提案を受けたあとでも、「どの表現が自分の意図に合っているか」を判断できるようになります。つまり、「思考ツール」を使うのは、AIを使う前(準備段階)なのです。
🌱 「対話」では、「問い」が決め手になる
生成AIに「答え」を作らせるのは使った英文添削を効果的にするには、「AIとの対話」を思考のプロセスにすることが重要です。対話の中で「問い」を作ることが、自分が本当に求めている「納得解」に辿り着く要因となるからです。
たとえば、
“Why did you change this word?”
“Can you make it sound more polite?”
といった質問をAIに投げかけるようにすることで、AIを“正解を出す機械”ではなく、“考えを深める相手”として使おうとする姿勢(答えそのものではなく、自分がより賢くなることを求める姿勢)が育ちます。
教師や友人との「やり取り」で無意識に行なっているように、
「添削された英文」と「自分の書いた英文」を比べたり、いくつかの候補の中から、どの表現を採用するかを考えたりする中で、生徒は「言葉を選ぶ理由」を意識し始めます。
そこに本物の“考える力”の芽が生まれます。
ちなみに、ChatGPT に対して
「Personal tutor として、具体的に英語学習でどのようなことができますか」
問いかけてみました。すると、こんな提案をしました。
中学生版:AIと一緒に“使いたくなる英語”を育てる
① 英語日記フィードバック
AIに日記を送る → 「文法+内容+感情」3点でコメントをもらう。
例:「I can see your effort! Can you tell me more about your reason?」
② ペアトーク練習(AI相手)
AIを「クラスメイト役」に設定。
例:“You are my classmate. Let’s talk about our school life.”
③ AIクイズマスター
AIがクイズを出題、学習者が英語で答える。
→ “OK! This time, a little bit harder!”
高校生版:AIと探究する“英語で考える力”を育てる
❶ AIディベートコーチ
AIに「反対側の立場」を設定し、論点を深める。
例:“You take the opposite side. Let’s discuss smartphone use.”
❷ AIスピーチブラッシュアップ
AIにスピーチを添削してもらい、表現・構成・感情面を助言。
例:“Your message is clear. Could you start with a stronger hook?”
❸ AIインタビュアー
AIを海外記者に設定し、社会問題を英語で問答。
例:“I’m a journalist from the U.S. Please explain your opinion on SDGs.”
生成AIに「させる」よりも、逆に「得意な分野を尋ねる」のです。「隗より始めよ」の記事でも書きましたが、自分が知りたいことを整理するために、まずは生成AIに「あなたならどうする?」と問いかけることで、たくさんのヒントで手に入ります。教師自身が日頃から「思考ツール」を使い、「考え方」が鍛えられると、違う視点からの見方が身についてきます。
🌱 可視化された思考が「成長」を実感させる
AIを使っても使わなくても、「書く力」がつく子どもは、必ず自分の変化(成長)を「見える形」で残しています。たとえば、添削前と後の文を並べて比較しています。また、「どんな修正を加えたか」とか「自分がハッとしたこと」をコメントに残しています。
こうした「可視化された思考の跡」が、「自分の考えをどう言葉にできるようになったか」を自覚させます。
それが次の挑戦へのモチベーションになります。
🌱 「AIに考えさせる」から「AIと考える」へ
AI時代の英語学習に必要なのは、“AIに任せる”ことではなく、“AIと一緒に考える”姿勢です。
「思考ツール」で自分の考えを整理し、AIや人との「やり取り」で表現を磨き、そのプロセスを「見える化」する──このサイクルがあれば、AIの力を借りながらも、「自分で考え、表現する力」、つまり本当の「考える力」が育っていきます。
最後に
セミナーでいただいた6つの質問に対する私の考えは、以上になります。
ただ、これは「正解」ではなく、あくまでも一つの考えであり、違う視点からの意見も大いに参考になさってください。
さて、時々、HPや書籍の読者の方からメールをいただきます。
中には、校内研修で使いたいと「原稿や記事の使用許可」を求める方、HPの全ての記事を印刷(!)されてファイルに綴じ込み、びっしり朱書きで書き込んだ写真とコメントを送ってこられる方もいます。HPの記事を読んだだけ(知識レベル)で終わるのか、誰か(研修会で出会った人、学校の同僚、メーリングリストの仲間など)に向けて発信する(活用レベル)のか。それは、今回、6回の記事でお伝えしてきた「思考すること」と重なります。「勉強になった」ではなく、自分の実践にどう取り込んでいくのかを「自分の言葉」で意味付けられたとき、初めて intake(自分の中に吸収され、実際に使えるようになる)の状態になります。
