❓ inquire と explore がひらく、新しい「探究学習」のデザイン
教室での子どものつぶやき。
そらを耳にした瞬間、目の前で何かが“立ち上がった”ように感じられたことはなかったでしょうか。
探究の正体は、この小さな揺らぎです。
そして、この揺らぎを学びにつなげる鍵が、前の記事でご紹介した explore と inquire の2つの動きです。
🟢 explore:世界を「広げる」動き
explore は、言うなれば“視野をひらく動作” です。
・歩く
・触れる
・試す
・比べてみる
・見方を変えてみる
これらはすべて explore の世界です。
問いはまだ存在しません。
しかし、ここで心が揺れるのです。
例えるなら、
夕暮れの海岸で何気なく拾った貝殻が、
よく見ると渦を巻いた複雑な模様をしていて、
ふと「どうしてこんな形なんだろう?」と胸の奥に小さな炎がゆらめく瞬間。
explore は、その 火を灯す役割 を担っています。
🟠 inquire:世界を「深める」動き
inquire は、explore の火花を受けて“意味をつくる動作” に変わります。
・「問い」を立てる
・「理由」を探す
・「比較」する
・「共通点」と「相違点」を確かめる
・「仮説」を立てる
・再び「問い」に戻る
心が外に広がっていた状態から、一点に向かって深く潜っていく動きに変わる。それがinquire です。
もし explore が「地図の白地を増やす動き」だとすれば、inquire は「白地に線を引き、道を描き始める動き」です。
🧭 子どもの探究は、explore → inquire の“うねり”で育つ
「探究」は、まっすぐ一方向には進みません。
子どもの思考は、「潮の満ち引き」のように揺れ動きます。
・知らない世界に触れる(🟢explore)
・気になることが出てくる
・問いに変わる(🟠inquire)
・調べる
・別の気づきが出る(🟢explore)
・新しい「問い」が立つ(🟠inquire)
この往復運動こそが、探究のダイナミズム。つまり「探究」とは、「問いをつくる力」と「問いを深める力」の交互作用で進む学び なのです。
🧩 教師の「授業デザイン」はどう変わるのか?
explore と inquire を理解すると、単元デザインの見方が大きく変わります。以下の3つが“新しい探究デザイン”の核になります。
① 「最初の火花」を奪わない
子どもの小さな気づき(炎)は、教師の説明一つで簡単に消えてしまいます。だからこそ「探究」の序盤では、explore の時間を手厚くする必要があります。
・写真
・実物
・短い映像
・校庭の観察
・ものの比較
・意見の出し合い
こうした“きっかけの場”は、炎の「揺らぎ」をつくるためのものです。
② 気づきを「問い」に変える場を意図的に設ける
火花のままではやがて消えてしまいます。着火した火を大きくするには inquire(薪)で火を大きくする必要があります。
・なぜ?
・本当に?
・他に可能性は?
・もしも、こうだったら?
問いは偶然生まれるものではありません。
“問いに変わる瞬間”を授業に組み込むことで、
子どもは自分の思考と向き合い始めます。
③ explore と inquire を「行きつ戻りつ」できる構造にする
探究は一本道ではありません。むしろ、枝分かれし、跳ね返り、戻り、広がります。
だからこそ教師は、「横にずれても戻れる地図」 を子どもに渡す必要があります。
その役割を果たすのが、
・マンダラ・チャート(広げる)
・階層式マッピング(深める)
・インタビューマッピング(問いを精緻にする)
・探究コーラルマップ(全体像を見せる)
といった思考ツールです。
ツールは「正しい答え」を教えるものではなく、子どもが自分の探究を 戻れる・進める・考え直せる ようにする“足場”なのです。
✳️ 新しい探究のゴールとは何か?
「探究」の成果は、「レポートをきれいにまとめること」ではありません。本当のゴールは、「世界の見え方が一度変わること」です。
・問いが生まれた
・考えが変わった
・別の視点に触れた
・見方を更新できた
・言葉が深まった
これが子どもの中で自発的に起きたとき、探究が“経験”になります。そしてこの経験は、教室(学校)を出た後もずっと生き続けます。
⛵️ 大海をヨットで航海する
explore は「風」であり、inquire は「帆」です。
風がなければヨットは動かず、帆がなければ風を受けられません。
「探究」とは、この二つを行き来しながら進む旅です。
教師の役割は、帆の張り方を教え、風の向きに気づかせ、子ども自身が舵を取れるように“場”を整えることです。それが、inquire × explore の力で立ち上げる「探究学習」ではないでしょうか。
