ALTを「共同設計者」に変えるマンダラ・チャート
前編では、
• ペーパードライバーとペーパーティーチャー
• 「知っていること」と「できること」のギャップ
• TTが「経験」を生み出す場であること
についてお話ししました。
では、TTを “怖いもの”から“頼れるパートナーシップ”に変えるには何が必要でしょうか。
結論から言えば、
鍵は「授業後の10分」にあります。
これは私の経験だけでなく、
福岡市の Super Teacher、松田由紀子先生の実践がそれを強く裏付けています。
「授業後の10分」が、TT授業を根底から変える
― 松田先生の実践からー
このHPでは以前から
「授業後の振り返りから本当のTTが始まる」
と述べてきましたが、松田先生はまさにそれを体現されています。
松田先生の実践は、単なる“TTのコツ”ではありません。
教師とALT、生徒の三者をつなぐ「Triangular Team-Teaching」の真髄です。
松田先生が感じ取られた 2つの気づき は、どの学校にも適用できる普遍的な示唆です。
■ 気づき①
「授業後の対話」が、TTの質を劇的に高める
松田先生はこう語ります。
授業が終わるたびに、JTE と NS(ALT)で細部まで振り返り、
うまくいかなかった点は何度でも修正しています。
その結果、授業は“阿吽の呼吸”になってきました。
多くの学校では、TTといえば
「役割分担」「進行確認」など、授業前の“段取り”に集中しています。
しかし、本当に大事なのは 授業後 です。
授業後の対話は、次のような“生きたデータ”を共有します。
• あの場面で生徒はどう反応したか
• ALTが介入したほうが良かったか(リキャストなど)
• 誰が理解していて、誰に支援が必要だったか
• どこを改善すれば、次回はもっとよくなるか
このデータが、次の授業を確実に前へ進めます。
そして何よりも大きな効果は――
ALTのモチベーションが劇的に上がる
ということです。
松田先生はこう言っています。
「授業後に話し合うことで、ALTは
『自分も授業づくりをしている』と実感し、
どんどん前向きに参加してくれるようになりました」
ALTが「補助者」から “共同設計者” へ変わる瞬間です。
これは、中編で述べる
「ゴールの共有」と深く結びついています。
問題は「打ち合わせの時間」ではなく「ゴールの共有」
多くの日本人教師が
「ALTと打ち合わせの時間がないから良いTTができない」
と言いますが、松田先生の実践が気づかせてくれるのは、
本当の課題は“時間”ではなく“ゴール共有” だということです。
ALTがイメージできていないと、TTは成立しません。
• 3学期の最後にはどんな子どもを育てたいか
• 単元のゴール(知識だけでなく技能の獲得も含む)は?
• 本時の活動が、それとどうつながり、どんな意味を持っているのか
これらが共有されていれば、ALTは自信を持って授業を動かせます。
■ 「ジグソーパズル型教師」と「積み木型教師」
以前からお話しているように、2つのタイプ(ジグソーパズル型教師と積み木型教師)に分けると、松田先生の実践がどこに位置するかが明確になります。
①ジグソーパズル型教師
• まず“完成図”(単元ゴール)を示す
• 逆算して今日で目指すことをALTにも子どもにも説明ができる
ALTは、自分の強みがどこで活きるか理解し、
“共同設計者”として動きやすくなります。
②積み木型教師
• 「次のページ」「次の文法」に意識が向く
• 単元全体の意味を共有できない
この場合、ALTは「部分的に呼ばれた人」になります。
結果、ALTは“勢いづけ役”でしかなくなります。
松田先生の実践は、明らかに ①の側です。
だからTTが機能しているのです。
■ ゴール共有がもたらす効果
教育心理学・協働学習研究では、
• 目標が共有されたグループは成果が高い
• メンバーのモチベーションも維持される
ことが一貫して報告されています。
松田先生のALTの変化は、まさにこの研究結果と一致します。
■ 気づき②
ALT の「深掘りの技」は、教師にとって最大の学びになる。
松田先生は、帯学習での discussion(教室の前と後ろで同時展開)を通して、この事実に気づかれます。
それは、
ALTのホワイトボードには、情報が圧倒的に多い
ということでした。
ALTに「何をしているのか」を尋ねると――
「意見を書くだけではなく、
さらに深掘りをして、関連することをどんどん引き出している」
という答え。
さらに ALTのグループでは 全員が必ず発表 していたのです。
これは技術ではなく、
「相手に関心を持つ姿勢」から生まれています。
• 広げる
• つなげる
• 整理する
松田先生は今、そのALTのやり方を文字化し、
子どもたちにそのノウハウを還元する準備をしています。
さらに、こう語っています。
「これこそ、TTでなければ学べないことだと実感しています。」
ALTを“共同設計者”に変えるマンダラ・チャートの力
こうした松田先生の実践を踏まえ、
ALTを“本物の共同設計者”に変えるための強力なツールが
マンダラ・チャートです。

ALTマンダラを埋めることで得られるのは
「見通し」と「役割の自覚」。
この「ゴール共有」ができていればこそ、
授業後の10分の対話が深まり、
ALTの深掘り力が生かされます。
優れた教師たちに共通していたのは、
「ALTマンダラ」がスラスラと埋められること。
だからALTは
“飾り”でも
“盛り上げ役”でもなく、
学びの共作者(assitantではなくpartner)として動けていました。
まとめ:経験が「思考」を動かす
• TTの課題は「時間」ではなく「ゴール共有」
• 授業後の10分が、関係性と役割を磨く
• マンダラがALTを“共同設計者”へ引き上げる
• 深掘りの技が教室に「思考する経験」をもたらす
そして、この流れはすべて
Learning Pyramid(ラーニング・ピラミッド)
に収束していきます。
🔔 次回(後編)の予告
後編では、いよいよ Learning Pyramid を本格的に取り上げます。
• なぜ「説明」より「経験」が学びを深くするのか
• ラーニングピラミッドの 50%・75%・90%ゾーンにTTと言語活動をどう位置づけるか
• 「正しいやり方」ではなく「正しいプロセス設計」として授業を考える視点
思考ツール × TT × Learning Pyramid が一本の線でつながるとき、教室にどんな変化が起きるのか。
その全体像を、後編で示します。
