💡 学習者が「考える授業」をつくる(中編)

ALTを「共同設計者」に変えるマンダラ・チャート

前編では、

• ペーパードライバーとペーパーティーチャー

• 「知っていること」と「できること」のギャップ

• TTが「経験」を生み出す場であること

についてお話ししました。

では、TTを “怖いもの”から“頼れるパートナーシップ”に変えるには何が必要でしょうか。

結論から言えば、

鍵は「授業後の10分」にあります。

これは私の経験だけでなく、

福岡市の Super Teacher、松田由紀子先生の実践がそれを強く裏付けています。

「授業後の10分」が、TT授業を根底から変える

― 松田先生の実践から

このHPでは以前から

授業後の振り返りから本当のTTが始まる

と述べてきましたが、松田先生はまさにそれを体現されています。

松田先生の実践は、単なる“TTのコツ”ではありません。

教師とALT、生徒の三者をつなぐ「Triangular Team-Teaching」の真髄です。

松田先生が感じ取られた 2つの気づき は、どの学校にも適用できる普遍的な示唆です。

■ 気づき①

「授業後の対話」が、TTの質を劇的に高める

松田先生はこう語ります。

授業が終わるたびに、JTE と NS(ALT)で細部まで振り返り、

うまくいかなかった点は何度でも修正しています。

その結果、授業は“阿吽の呼吸”になってきました。

多くの学校では、TTといえば

役割分担」「進行確認」など、授業前の“段取り”に集中しています。

しかし、本当に大事なのは 授業後 です。

授業後の対話は、次のような“生きたデータ”を共有します。

あの場面で生徒はどう反応したか

ALTが介入したほうが良かったか(リキャストなど)

誰が理解していて、誰に支援が必要だったか

どこを改善すれば、次回はもっとよくなるか

このデータが、次の授業を確実に前へ進めます。

そして何よりも大きな効果は――

ALTのモチベーションが劇的に上がる

ということです。

松田先生はこう言っています。

「授業後に話し合うことで、ALTは

『自分も授業づくりをしている』と実感し、

どんどん前向きに参加してくれるようになりました」

ALTが「補助者」から “共同設計者” へ変わる瞬間です。

これは、中編で述べる

ゴールの共有」と深く結びついています。

問題は「打ち合わせの時間」ではなく「ゴールの共有」

多くの日本人教師が

「ALTと打ち合わせの時間がないから良いTTができない」

と言いますが、松田先生の実践が気づかせてくれるのは、

本当の課題は“時間”ではなく“ゴール共有” だということです。

ALTがイメージできていないと、TTは成立しません。

3学期の最後にはどんな子どもを育てたいか

単元のゴール(知識だけでなく技能の獲得も含む)は?

本時の活動が、それとどうつながり、どんな意味を持っているのか

これらが共有されていれば、ALTは自信を持って授業を動かせます。

■ 「ジグソーパズル型教師」と「積み木型教師」

以前からお話しているように、2つのタイプ(ジグソーパズル型教師と積み木型教師)に分けると、松田先生の実践がどこに位置するかが明確になります。

ジグソーパズル型教師

まず“完成図”(単元ゴール)を示す

逆算して今日で目指すことをALTにも子どもにも説明ができる

ALTは、自分の強みがどこで活きるか理解し、

“共同設計者”として動きやすくなります。

積み木型教師

「次のページ」「次の文法」に意識が向く

単元全体の意味を共有できない

この場合、ALTは「部分的に呼ばれた人」になります。

結果、ALTは“勢いづけ役”でしかなくなります。

松田先生の実践は、明らかに ①の側です。

だからTTが機能しているのです。

■ ゴール共有がもたらす効果

教育心理学・協働学習研究では、

目標が共有されたグループは成果が高い

メンバーのモチベーションも維持される

ことが一貫して報告されています。

松田先生のALTの変化は、まさにこの研究結果と一致します。

■ 気づき②

ALT の「深掘りの技」は、教師にとって最大の学びになる。

松田先生は、帯学習での discussion(教室の前と後ろで同時展開)を通して、この事実に気づかれます。

それは、

ALTのホワイトボードには、情報が圧倒的に多い

ということでした。

ALTに「何をしているのか」を尋ねると――

意見を書くだけではなく、

さらに深掘りをして、関連することをどんどん引き出している

という答え。

さらに ALTのグループでは 全員が必ず発表 していたのです。

これは技術ではなく、

「相手に関心を持つ姿勢」から生まれています。

• 広げる

• つなげる

• 整理する

松田先生は今、そのALTのやり方を文字化し、

子どもたちにそのノウハウを還元する準備をしています。

さらに、こう語っています。

これこそ、TTでなければ学べないことだと実感しています。

ALTを“共同設計者”に変えるマンダラ・チャートの力

こうした松田先生の実践を踏まえ、

ALTを“本物の共同設計者”に変えるための強力なツールが

マンダラ・チャートです。

ALTマンダラを埋めることで得られるのは

見通し」と「役割の自覚」。

この「ゴール共有」ができていればこそ、

授業後の10分の対話が深まり、

ALTの深掘り力が生かされます。

優れた教師たちに共通していたのは、

「ALTマンダラ」がスラスラと埋められること。

だからALTは

“飾り”でも

“盛り上げ役”でもなく、

学びの共作者(assitantではなくpartner)として動けていました。

まとめ:経験が「思考」を動かす

TTの課題は「時間」ではなく「ゴール共有」

授業後の10分が、関係性と役割を磨く

マンダラがALTを“共同設計者”へ引き上げる

深掘りの技が教室に「思考する経験」をもたらす

そして、この流れはすべて

Learning Pyramid(ラーニング・ピラミッド)

に収束していきます。

🔔 次回(後編)の予告

後編では、いよいよ Learning Pyramid を本格的に取り上げます。

なぜ「説明」より「経験」が学びを深くするのか

ラーニングピラミッドの 50%・75%・90%ゾーンにTTと言語活動をどう位置づけるか

「正しいやり方」ではなく「正しいプロセス設計」として授業を考える視点

思考ツール × TT × Learning Pyramid が一本の線でつながるとき、教室にどんな変化が起きるのか。

その全体像を、後編で示します。

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント