💡 学習者が「考える授業」をつくる(後編)

Learning Pyramid が教えてくれたこと ―「使ってこそ深く学ぶ」言語活動中心の授業へ ―

前編・中編では、

ペーパーティーチャーから抜け出すには「経験」が必要であること

ALTを“共同設計者”に変えるマンダラ・チャートの力

を見てきました。

では、なぜそこまで「経験」が重要なのでしょうか。

この問いに答えてくれるのが、Learning Pyramid(ラーニングピラミッド)です。

拙著『英語ディベート授業30の技』(明治図書1997)では、当時まだ日本ではあまり知られていなかった The Learning Pyramid をご紹介しました。その後、多くの書籍で引用されるようになり、今では「アクティブ・ラーニング」の根拠として広く語られるようになりました。どの著者も、その信頼性を実感されたのだと考えます。

ラーニングピラミッドが示す“当たり前だけれど見落とされがちな真実”

Learning Pyramid が伝えているメッセージは、驚くほどシンプルです。ご覧ください。

それは、

人は「自分ごととして使ったとき」に最も深く学ぶ。

ということです。

「聞く」「読む」だけでは、学びは浅い層にとどまりやすい

「話す」「書く」「対話する」「教える」といった活動は、深い層に学びを運んでくれる

つまり、

学習は「説明」よりも「体験」で深まるということです。

英語教育に置き換えると、

文法の理解は「地図」にすぎない

実際に話したり、書いたり、やり取りしたりすることが「街を歩く経験」

となります。

地図だけを見ていても、街の匂いや音、曲がり角の感覚は分かりません。

同様に、説明だけの授業では、英語を「使える感覚」は育ちません。

50%・75%・90%ゾーンに、何を置くか

ラーニングピラミッドでは、次のような活動が高い定着率の層に置かれています。

50%:グループディスカッション

75%:実践・シミュレーション

90%:実際に経験する・自分で表現する・他者に教える

ここに、前編・中編で扱ってきた

TT(教師×ALT×生徒のトライアングル)

思考ツールを使った Chat / Discussion / Micro-debate / 探究コーラルマップ(Inquiry Coral Map)を使ったPresentation

を位置づけるとどうなるでしょうか。

Discussion:自分の選択と理由を語り合う

Micro-debate:主張・理由・具体例を階層的に整理し、立論・反駁する

Presentation:自分の経験・価値観・願いを物語として伝える

これらはすべて、

ラーニングピラミッドの上位層(50〜90%)に位置づく活動なのです。

■ なぜ「アウトプット」が学びを深めるのか

第二言語習得研究では、

アウトプット仮説(自分で話す/書くことの重要性)

インタラクション仮説(相互作用が理解を促す)

などが提唱されてきました。

簡単に言えば、

「自分で言おうとしたとき」にこそ、頭が一番よく働くのです。

言いたいのに、言えない

伝えようとして、表現を探す

相手の反応を受けて、言い方を調整する

この一つひとつのプロセスが、

知識だったものを“使える力”に変換されていくのです。

ラーニングピラミッドは、この研究的な知見を、

視覚的に、そして直感的に示しているとも言えます。

「正しい指導」と「正しいやり方」は違う

多くの教師が陥りがちな落とし穴があります。それは、

「正しいやり方をすれば、生徒は伸びるはずだ」

という考えです。

しかし、ここで言う「正しいやり方」というのは、

• 手順を間違えない

• 教科書通りに進める

• 時間通りに終える

といった、教師側の安心を得るための“正しさ”であることが少なくありません。

本来問うべきは、

その授業は、学習者の学びのプロセスにとって正しいか

という視点です。

生徒は、自分の言葉で考え、表現できているか

経験(生活の論理)と結びついた学びになっているか

ゴールから逆算された言語活動になっているか

ここを満たしている授業こそが、

Learning Pyramid の示す「深い学び」に近づいていく授業です。

思考ツール × TT × Learning Pyramid が重なるとき

ここまでをまとめると、次のような関係が見えてきます。

思考ツールは、生徒の「考えを可視化」し、広げ・つなげ・まとめ・深める足場になる

Triangular Team Teaching(教師×ALT×生徒)は、英語で考え、関わり合う「経験」を生み出す場になる

Learning Pyramidは、その経験がなぜ深い学びにつながるのかを示す「地図」になる

この三つが重なったとき、教室は次のように変わります。

生徒の「伝えたい」が自然に生まれる

英語を使うことが“テストのため”ではなく“自分の物語を語るため”になる

教師は「やり方」に縛られず、「プロセス」と「ゴール」を見据えて授業をデザインできる

まとめ:深い学びは「デザインされた経験」から生まれる

今回の3部作(前編・中編・後編)の「本来の問い」に戻ります。

学習者が「考える授業」は、どうすれば実現できるのか。

その答えの一つは、こう整理できるでしょう。

思考ツールで「考えを見える化」し

TTで「英語でやり取りする経験」をつくり

Learning Pyramid の視点で「経験が深まりにつながるプロセス」を意識して授業を設計する

深い学びは、偶然には生まれません。

教師が「経験をデザインする」と決めたときから、教室は変わり始めます。

思考ツールは、子どもの思考だけでなく、教師の授業デザインそのものを解き放ちます

TTは、英語を使う“リアルな経験”を生み出します。

Learning Pyramid は、それが“深い学び”に直結することを、静かに、しかし力強く教えてくれます。

この三つが重なったとき、教室には、子どもたちの

「伝えたい」「やってみたい」

があふれ出します。

そして教師もまた、

「自分の授業に、もっとワクワクしてみたい」

という「本来の授業の姿」に気づくはずです。

🔔 予告

今回の三部作では、

思考ツール

三位一体のTT(教師×ALT×生徒)

Learning Pyramid

という「考える授業の骨格となる三つの柱を扱いました。

今、直山木綿子先生(関西外国語大学)、そして6人の執筆者の方々と進めている大修館書店の新刊では、それらをどう具現化すれば良いかを「授業実践(映像)」と共に様々なアイデアを紹介しています。

たとえば、

教科書のタスクを生徒がワクワクするタスク(自分ごと)に再編集するコツ

文法事項を、具体的に「経験」に結びつける手立て

帯学習と思考ツールを融合させた「技能向上のための年間指導計画」(理解フェーズ→構造化フェーズ→対話フェーズ→統合フェーズ)

教室はナラティブ(物語)が生まれる場所であり、バンドワゴン効果とスノブ効果をどう有効に組み合わせるとそれが可能になるかという具体

(参照:⚖️ 学習意欲を高める「バンドワゴン効果」と「スノブ効果」 | なかよう備忘録

などです。

ただ、実際に新刊を手に取られるまでは、ぜひご自分で試行錯誤しながら取り組んでみてください。すると、上手くいかない部分モヤモヤが残る箇所がいくつか見えてきます。その時、皆さんは知的にハングリー(「なぜ?」「ここが知りたい」)の状態になっています。

その時に、書籍を読まれると「そうか、そういうことだったのか!」とストンと腑に落ちます。すると、その気づきは自分の血となり肉となります。

書いてある通り(マニュアル通り)にやっても自分のスタイルにならない(一過性で終わる)のは、問題意識(具体的に知りたいこと、困ったこと)を持っていない(自分ごとになっていない)からです。

すぐに答えを求めるのではなく、「もやもや感(探求学習のキモ)」を大切にしてください。それこそが自分を成長させてくれるからです。

皆さんの中に、一つずつ「新しい経験」が生まれていくことを、心から願っています。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント