✳️◆TTは「教科書」や「文法」ではなく「関係性」から始まる

◆ 若手教師の実話が教えてくれる、TTのつまずきの正体

これは、ある若手英語教師(教師経験3年)の言葉です。

「英語を話すのは苦手ではありません。しかし、授業になると、どうしても Q&Aのやり取り で止まってしまうんです。まして、TTの授業になるとどうしても構えてしまって。なんとかしたいのですが…」

授業準備はきちんとした。

でも、ALTが横に立つと、英語がサッと出てこない。ギクシャクして「間」が生まれてしまうのが怖い。 

結果として、

「今日はこのプリントをやります」

「ALTには、発音モデルをお願いしよう」

そんな役割分担に、いつの間にか落ち着いてしまったのだそうです。

今回、本稿で取り上げるのが、教師の「英語力」の勘違いとそれを払拭する手立てについてです。

実は、教師が英語を話す力と、生徒とインタラクションを重ねながら授業を前に進める力は、まったくの別物です。

生徒のつぶやきを受け取り、
それをつなぎ、広げ、次の学びへと導く
——
その営みに、十分な自信を持てていない教師は少なくありません。

英語教師に求められているのは、
ペラペラと英語を話すことでも、
英語で文法を巧みに説明することでもありません。

次の欄をご覧ください。

生徒が今まで身につけてきた文法や語彙を使って、わかりやすく(やさしい英語で)言い換えられる。

具体物を見せながら、絵を描きながらリアルタイムで伝えることができる。

生徒の表情や理解の揺らぎを確かめながら、個々の実態に応じた適切な表現を選べる

生徒が思わず
「あっ、わかった!」
「先生の英語、わかりやすい」
と感じる瞬間を、教室の中に生み出せているか。

その鍵となるのが、生徒の理解に寄り添った「教室英語」です。

この「教室英語」を自在に使いこなせる教師こそ、本当の意味での プロフェッショナルな英語教師 と言えるでしょう。

先生がどんな英語を、どんな表情で使っているか。

その姿そのものが、子どもたちの未来の姿になります。

子どもたちが求めているのは、単語をたくさん知ることでも、文法の完璧な説明でもありません。

既習事項を中心に、文脈の中で意味が自然に伝わる英語、そして実際のやり取りの中で使われる、生きた英語そのものです。

◆ 教師の英語力は「設計の対話」で育つ

では、そのような英語を教師自身がモデルとなって見せるためには何が必要なのでしょうか。

それは、AIとの会話練習ではありません。

実は、身近なALTの存在なのです。

ALTと一緒に単元計画を立てる時間。定期テストや単元の後に行うパフォーマンステストをどう設計するかを話し合う時間

その一つひとつが、教師自身の英語を、静かに、確実に育てていきます。

この単元では、生徒にどんな英語が使えるようになってほしいのか

どこまで言えたら、“できた”と言えるのか

こうした問いをALTと共有し、言葉にしていく過程そのものが、

英語を「説明するための言語」から、「使うための言語」へと変えていきます。

それを共有しておくと、「どうわかりやすく伝えるか」ということに関心が向かうようになり、今まで「デモンストレーション」で終わっていたTT授業がみるみる「インタラクション中心」のTT授業に変わっていきます。

完璧な指示よりも、「迷い」を言葉にできる教師

ポイントは、「どんな姿勢で、ALTと向き合っているか」です。

Top downの依頼ではなく、side by side の相談が、TTの質を格段に引き上げます

日本人教師がTTの指導案を自分で作り、「これでやってほしい」というスタイルは、学習指導案ではなく「授業進行(自己の安心のための)案」になりがちです。

しかし、一緒に単元計画を作ることで、

“What do you think about this?”

(ここ、どう思う?)

“Is this question too difficult for them?”

(この質問、生徒には難しすぎるかな?)

という問いが自然に生まれてきます。

ALTたちは、完成された指示よりも、このように一緒に考える余白を歓迎します。

教師が自分の迷いや途中段階での相談を言葉にしたとき、ALTは「指示を受ける存在」から「考えるパートナー」へと立ち位置を変えます。

長い打ち合わせは必要ありません。

廊下での一言

職員室での30秒のやり取り

それだけで、関係性は確実に育っていきます。

“Today’s class was moving, I think. Thank you. I’m looking forward to next class.”

“Thanks to your help, many students could write their opinions. Please read them.”

こうした何気ない言葉が、次のTTを支える土台になります。

関係づくりは、特別な時間ではなく、日常の積み重ね(教師のホスピタリティ)によってできていきます。

◆ TTで大切なのは「回数」ではなく「パートナー意識」

「でも、うちの学校はALTがあまり来ないから…」

そう考える方もおられるかもしれません。

毎週会う必要はありません。

授業の打ち合わせではなく、このHPでもお伝えしているようにマンダラ・チャートで相手について様々な gateway を作っておけば、手に入った情報を伝えることができます。

それを電話で話したり、短時間、オンラインでつないで話をするのです。それで十分です。ALTはその気持ちに感謝し、TTのアイデアを積極的に考えてくれるようになります。

大切なのは頻度ではなく、相手への関心、ホスピタリティです。

「あなたは、授業を一緒につくる大切なパートナーなんだ」というメッセージが相手に伝わっているかどうか、なのです。

ALTは“手伝ってくれる人”ではありません。

単元のゴールや評価を共有し、ともに考える同僚です。

その関係性ができたとき、TTは「負担」ではなく、教師自身を育ててくれる「新しい学びの場」へと変わっていきます。生徒たちも、TTの授業を心待ちにするようになります。

完璧な英語は必要ありません。

まずはフレーズ、一文、短いやり取りからで構いません。

育てたい生徒の姿について、ALTと気楽に話してみてください。

◆ 今日できる一歩 〜TTを動かすチェックリスト〜

自分にやる気勇気を与えるには、思考や取り組みの履歴を可視化することが役に立ちます。

それを可能にするチェックリストをご紹介しておきます。

☐ ALTに「この単元で育てたい生徒の姿」を一言で伝えた!

☐ 単元の最後で、生徒に言わせたい英文を一緒に考えた!

テストや評価について、短時間でも相談した!

☐ 会えない場合、電話やオンラインで話す約束をした!

☐ 「あなたと一緒に授業をつくりたいという気持ちを言葉で伝えた!

一度にする必要はありません。少しずつ、少しずつです。

一つでもチェックが入れば、TTはもう動き始めています。

その小さな一歩が、教師自身の話す技能を高め、やがて子どもたちが憧れる英語へとつながっていきます。

Go for it.

It’s your life.

Not the system.

Not the textbook.

YOU are what make students shine—

and your life shine as well.

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント