「水返し」の意味とは?
T授業の本質は「餅つきの水返し」です。
餅つきでは、力強く杵を振るう「つき手」が目立ちます。
しかし、実際に餅の出来を左右するのは、もう一人の存在―「返し手」です。
「返し手」は、餅の状態を見ながら水をつけ、
「つき手」の動きを止めず、
間を整え、
全体のリズムをつくります。
この「返し手」がいなければ、いくら力のある「つき手」がいても、餅は決してうまく仕上がりません。
TT授業で大切なのも、この「水返し」の仕事です。
上野先生・松田先生のTT授業には、
この「水返し」の心地よさが見られます。
二人は、臨機応変にALT(福岡市ではNS)と「つき手」と「返し手」の役目を交代しています。それは、次のような場面です。
• 子どもが言いよどんだ瞬間に、さりげなく支える
• 話し過ぎず、しかし確実に流れを整える
• 間違いがあれば、さりげなくリキャストする
• テンポが落ちそうな時に、自然に場面を切り替える
それができるのは、
二人が日頃から次のことをALTと共有しているからです。
• 単元ゴール
• 子どもたちの姿
• 授業外での何気ない対話
だからこそ、
「次は誰が、何を支えるか」が言葉にしなくても分かるのです。
研究協議で話題になったのは、
「単元構成の段階からALTと一緒に考えている」
「テスト後、一緒にTT授業でフィードバックしている」
という言葉。
これは、「水返し」が授業中だけではないことを示していました。
全てのベースになっているのは、
• ALTに単元ゴールを伝える
• 今日の帯活動のねらいを共有する
• 子どもの様子について一言話す
ということ。
そこから、
「水をつけよう」
「もう少し待とうか」
という感覚が、少しずつ育っていきます。
「返し手」の立場になった時は、観察しながら、タイミングを慮ります。
餅の変わり目を、
教室の空気のゆらぎを、
子どもの表情を、
発話が立ち上がる一瞬を。
そして、お互いに「今だ」 “Yes, right now!”
と呼応します。
その感覚を二人で共有できたとき、
教室の雰囲気が、ふわっと和らぎます。
上野先生とクリス先生
松田先生とティファニー先生
どちらも、実に楽しそうに「餅つき」をします。
しかも、回数を重ねるほどに円熟味を増しています。
意図的に、盛り上げようとしているわけではありません。
子どもが動き出す必然を、誰もが知っているのです。
「つき手」が力まかせにつくと、餅は硬くなります。
「返し手」が水を入れ過ぎれば、餅はべとつきます。
目と耳と手の感覚で仕上がりを感じ取り、
抜群のタイミングで行う「水返し」があってこそ、
餅は立派に仕上がります。
TTの協働で
見事な餅が仕上がったときに、
教室に残る、
言葉にしきれない感動と静かな余韻。
それこそが、TT授業の醍醐味なのだと、私は思います。
