⭐️「見方・考え方」の正体とは?
「学習指導要領の“見方・考え方を働かせる”ことが大事だ」
そう言われるたびに、なんだか居心地が悪く感じてしまう。
現場では、こんな声をよく耳にします。
- 「結局、何をすればいいんですか?」
- 「“主体的になりなさい”とは言っているんですが…」
- 「分かってはいても、どうしても喋ってしまうんです」
ここで起きているのは、教師の努力不足ではありません。
むしろ、真面目な先生ほど陥りやすい“取り違え”があります。
それは、「見方・考え方」を“やり方”や“手順”の問題として捉えてしまっていることです。
多くの場合、問題は善意の中にあります。
「生徒のため」と思って整えたはずの設計が、気づかないうちに、授業の迷走や停滞を生んでいるのです。
ここで、学習指導要領のねらいを確認しておきましょう。
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方とは、外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、目的や場面、状況等に応じて情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること、です。
つまり求められているのは、「正しい言い方を知っているか」ではなく、どのように意味を捉え、考え、使おうとしているかという思考のあり方なのです。
⭐️ 水泳教室は、なぜ「浮き輪」を使わせないのか
水泳教室を覗いてみましょう。
多くの教室では、ビート板は使っても、「浮き輪」は使っていません。
浮き輪を使えば、子どもはすぐに水に浮けます。
怖さも減り、一見すると「上手に泳げている」ようにも見えます。
それでも、指導者は浮き輪を選びません。
なぜでしょうか。
理由は、「泳げている“つもり”を作ってしまうから」です。
浮き輪は、体を支えてくれます。
沈まないように守ってくれます。
しかし同時に、こんな状態も生み出します。
- 水の抵抗を感じにくくなる
- 体のバランスを考えなくなる
- 手足をどう動かしているかを意識しなくなる
つまり、「自分で泳いでいる感覚が育ちにくい」ということです。
浮き輪がある限り、子どもは「どうすれば前に進めるか」を考えなくなってしまうのです。
⭐️ ビート板は「浮かせる道具」ではない
では、ビート板はどうでしょうか。
確かに、体の一部を支えてくれます。
しかし、すべてを支えてくれるわけではありません。
- 足は自分で動かさなければ進まない
- 水の抵抗をはっきり感じる
- バランスが崩れれば、すぐに分かる
つまり、ビート板は、
「溺れないように守る道具」ではなく、
「考えながら泳ぐための足場」になっているのです。
🍀 泳ぎ方は十人十色。でも「共通の原理」がある
もちろん、泳ぎ方は人それぞれです。
力強いキックの子もいれば、
リズムで進む子もいる。
それで構いません。
ただし、水泳には、
誰にとっても共通する原理があります。
- 水をどう捉えるか
- 体をどう支えるか
- 前に進む感覚をどうつかむか
これを自分の身体で理解しない限り、本当の意味で「泳げる」ようにはなりません。

🍀 授業における「ビート板」とは何か
では、ここで教室に目を向けてみましょう。
私たちは授業で、知らず知らずのうちに
子どもたちに「浮き輪」に近い支えを与えてはいないでしょうか。
「見方・考え方」を“働かせる”ためのセルフチェック(「浮き輪学習」になっていないかを確認)
① 発問は「思考を広げる問い」になっているか □ 生徒の答えが、最初からほぼ一つに絞られている
□ 教師の問いが続かないと、生徒の思考も止まる
□ 生徒は「当てに行く」反応が多い
□ 問いの順番が決まっており、外れると授業が進まない ▶ チェック項目が2つ以上なら
発問が、思考を促す“ビート板”ではなく、”正解に導く問い”になっている可能性があります。「答えは何?」ではなく「どこに注目した?」「根拠は?」「別の言い方は?」のように自分の「思考」を焦点化できるようにします。
② ワークシートは「思考の足場」になっているか □ ワークシートがないと活動が成立しない
□ 答えの穴埋めが目的になっている
□ 生徒がワークシートから目を離さずに話している
□ ワークシートを伏せると、同じ思考が再現できない ▶ チェック項目が2つ以上なら
ワークシートが、思考を支える“ビート板”ではなく、思考を代行する“浮き輪”になっている可能性があります。「このワークシートがなくても、同じ考え方は使えるか?」のように、再現可能な設計ができないか考えてみましょう。
③ 模範解答の出しどころは適切か □ 生徒が自分の考えを形成する前に、教師が答えを示してしまっている
□ 生徒の発言が、だんだん教師の望んでいる方向に近づいていく
□ 「合っているかどうか」が活動の基準になっている
□ 生徒が言い直したり、試したりする時間が少ない ▶ チェック項目が2つ以上なら
模範解答が、安心材料にはなっても、思考の成長を止めている可能性があります。先に渡すのは「答え」ではなく「観点」です。答えは後で比べる材料にすると、生徒は思考するようになります。
④ 単元計画は「正解の道順」になっていないか □ 予定通り進まないと不安になる
□ 生徒の発言が自分の立た計画と違っていると修正したくなる
□ 単元のゴールが「正しく言える」になっている
□ 学習活動は豊富だが、「何のためか」「何を考えさせたいか」が曖昧 ▶ チェック項目が2つ以上なら
単元計画が、思考を育てる設計ではなく、正解へ導く“ナビ”になっている可能性があります。固定するのは「答え」ではなく「見方・考え方(判断の軸)」です。
🍀 チェックの結果を「よりよい支援」に活かすために
✔ がついたからといって、授業が間違っているわけではありません。むしろ、多忙な現場で生徒を思うからこそ出てくる支援です。大切なのは、教師の支援(足場かけ)が「生徒の思考する力」を鍛えているかどうかです。
それらは、確かに生徒を助けます。
しかし同時に、こんな状態も生み出します。
「考えなくても進める状態」です。
結果として、生徒は
“泳いでいる”のではなく、
“支えられて進んでいるだけ”になりやすいのです。
🍀 英語科で育てたい「見方・考え方」の中核
英語科で育てたい「見方・考え方」は、授業設計の観点から整理すると、次の3つに集約できます。
① 目的・場面・状況に応じて意味を捉える力
- 英文を「語順・文法」だけでなく「意図」で捉えようとする
- 教科書本文を、訳す前に英語の流れのまま大意をつかもうとする
- 同じ表現でも「誰に・どんな場面で」を考えて選び直す
つまり、英語を「構造物」ではなく、意味のある行為として見る力です。
② 情報を整理・関連付けて考える力
- 聞いた・読んだ内容をキーワードで捉える
- 共通点/違い/因果/上位下位を意識して整理する
- 単語を点で覚えず、文脈で再構成する
大事なのは「たくさん書く」ことではなく、情報を構造化して扱えることです。
③ 自分の考えや気持ちを形成し、伝えようとする力
- 与えられた答えではなく、自分の立場を持とうとする
- 完璧でなくても、知っている語や文で言い換えようとする
- 相手の反応を見て、言い直す・付け足す・質問する
「合っているか」より、「伝えようとしているか」を大切にする学習者を育てることです。
🍀「身についたか」をどう見取るか
「見方・考え方」は、テストの点数だけではなく、行動として現れます。
たとえば、
- 生徒が「つまり〜ってこと?」「ここが大事じゃない?」と整理し始める
- いきなり訳そうとしない
- Q&Aが一問一答で終わらず、つながっていく
- 初見の英文でも「何の話か」を掴もうとする
- 新しい話題でも、既習表現を組み合わせて話そうとする
- 思考ツールを手がかりに、可視化しながら即興で話そうとする
こうした姿が見られたとき、「見方・考え方」は確かに育ち始めています。
🍀 何が「見方、考え方が育たない授業」を生んでしまうのか
問題は、生徒が“考えなくても成立してしまう授業”になっていることです。
活動があっても、ICTがあっても、発表があっても、思考の焦点が曖昧であれば、
生徒の頭は「答えを言い当てる」方向に向かってしまいます。
- 活動はあるが、何を考えさせたいのかが曖昧
- 文法理解=見方・考え方、という取り違え
- 善意の先回りで、思考の主語が教師になる
- 1時間完結型で、前後の学びにつながらない
- 板書・ノートがきれい=理解、という錯覚
これらは、教師の能力の問題ではありません。
つい「浮き輪」に頼ってしまい、それを終わらせるような授業設計が原因です。
◆ まとめ
学習指導要領の「見方・考え方」で身につけさせたいものを一文で表すなら、次のように言えないでしょうか。
英語を、意味・目的・文脈の中で捉え、情報を整理し、自分の考えを形にして使おうとする習慣
そのために必要なのは、毎時間、用意する「浮き輪」ではなく、自分で考えながら進める「ビート板」です。
それを手にした瞬間から、子どもたちは一抹の不安を感じながらも、やがて自分の力で嬉々として泳ぎ始めます。
【参考情報】
この「見方・考え方を働かせる」実践に取り組まれている学校として、京都府綾部市立綾部中学校(校長:小林昌宏先生)があげられます。
同校では、教科ごとに「ビート板(「見方カード」「考え方カード」)を用意し、子どもたちが構想を練ったり、現在地を振り返ったりする場を日常的に設定しています。「見方・考え方」を可視化し、実際に生徒たちが「主役」になる授業を展開しているので、大いに参考になるのではないかと考えます。



英語科の高橋友紀先生(英語科)の個人レポートをご紹介します。髙橋先生は、「地球市民を育てる教師のための研修会」の卒業生であり、大修館書店『英語教育』(連載「教師のための綴り方教室」2022.4-2023.3)、『英語教師の授業デザイン力を高める3つの力』の著者のお一人です。
🍀 https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2025/12/2025年度_生徒を主役にする授業レポート_高橋.pdf
🍀 https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2025/12/見方・考え方を働かせる授業づくり_高橋.pdf
いかがでしたか。大事なのは、教師たちがワンチームになり、子どもたちを「主役」にする学校(授業)づくりをすることであることがよくわかります。ご質問がある方は、綾部中学校 髙橋友紀先生まで。
【予告編|後編(単元計画編)】次回は、「見方・考え方」が自然に立ち上がる単元設計の原則―主体的な学習者を育てるための必須事項を整理していきます。
