🍀 「自由進度学習」は何のためか(3/3)

🍀 単元を俯瞰した瞬間、自由進度の位置づけが変わる

第1回、第2回では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の「往還」が大事であり、そのためには、どうつなげるか、どう揺さぶるかという「設計」が不可欠になると述べました。

では、その「往還的に出会う瞬間(encounter)」を、どう作ればいいのでしょうか。

それは、思いつきでグループを組ませることでも

発表の回数を増やすことでもありません。

自由進度学習で必要なのは、

学びがまだ未完成の段階で、他者の思考に触れ、

自分の学びが自然に揺さぶられる状態です。

そのためには、「協働の時間を入れる」という作業だけでは足りません。

大切なのは、単元のどこで、どのような形で、学習者同士が出会うのか

ここを誤ると、協働は形だけになり、

自由進度は「個別」ではなく「孤立」に変わります。

逆に、この一点が噛み合ったなら、

個別に進んでいた学びは、

互いを押し合い、引き上げ合う、力強い流れになります。

この章では、その鍵となる Peer Learning を軸に、「個別最適」と「協働」が実際に「往還」しあう単元設計を見ていきます。

1|Peer Learning は「最後に発表」という学習では成立しない

現場でよく見られる「協働」の形はこうです。

調べる → まとめる → 発表する → いいね」で終わる

もちろん、そこにも価値はあります。

ただ、これでは学びが更新されません
なぜなら、「修正(自己調整)が起こるタイミングがないからです。

学びが動くのは、

* まだ途中で

* まだ不完全で

* まだ言い直せる余地がある

その状態で、他者の考えに触れたときです。

つまり、

* 途中の共有で、言い直す。

* 途中の比較で、構え直す。

* 途中のフィードバックで、再編集するのです。

完成してから見せ合っても、

学びはほとんど動きません。

途中で出会うからこそ、学び(気づき、編集)が更新されます。

この「途中で修正が起き続けている状態」で必要になるのが

Peer Learning です。

2|Peer Learning は「活動名」ではなく「状態」

Peer Learning は、
特定の方法や活動を指す言葉ではありません。

「ペアになる」「グループになる」「話し合う」「見せ合う」

それ自体が Peer Learning なのではありません。

Peer Learning とは、

* 他者の途中の思考に触れ

* 自分の考えを揺さぶられ

* もう一度、自分の学びに戻って再編集している

その“状態”そのものを指します。

だからこそ、

* 最後に発表するだけ

* 感想を言い合って終わるだけ

では、Peer Learning は成立していません。

この「状態」を成立させる位置に「自由進度」があります。

では、この
「途中で修正が起き続ける状態」を

単元の中でどうつくればよいのでしょうか。

ここで、「自由進度」の意味が変わります。

自由進度は、


「早く終わる生徒を先に進ませるための仕組み」ではありません。

それぞれが違う地点にいる状態をつくり、


その差に“途中で出会わせる”ための条件です。

ですから、自由進度は単元のどこにでも入れればよいわけではありません。

3|単元設計の型:「往還」が起こる流れ

単元を一本の数直線で示し、
自由進度」を、その線のどこかに入れます。

単元の流れで説明すると次のようになります。

単元の流れ(基本形)

  1. 導入(ゴール提示):何ができるようになるかを具体物で見せる
  2. 型の共有(守の段階):全員が使える共通言語を揃える(構成・文型・思考ツールなど)
  3. 個別最適な学び①(練習):各自が必要な負荷で練習する(ここで自由進度が入りやすい)
  4. 中間共有(Peer Learning:途中の成果を見せ合い、修正点が見える
  5. 個別最適な学び②(破の段階・再編集):共有で得たヒントを自分の学びに戻して改善する
  6. 協働的な学び(Peer Learning):ペア・グループで伝わり方を検証する
  7. パフォーマンス離の段階):相手と目的のある場で使う
  8. 振り返り(Peer Learning, 言語化):変化を言葉にし、次の学びに接続する

この流れの中で、

「個別①→協働→個別②」のような「往還」が起きている状態、

または、振り返りで学びが昇華されていく状態が Peer Learning です。

4|自由進度が機能する条件は「足場」があること

単元の中に「自由進度学習」を入れるとき、

最低限必要な足場があります。

  • ゴールが具体物で示されている
  • 型が全員に渡っている(守の共有)
  • 途中の共有が設計されている
  • 振り返りが必須になっている
  • 教師の介入点が決まっている(いつ、誰に、何を)

これがないまま自由にすると、迷子が出ます。
一方、「足場」が用意された自由は、生徒を動かします。

5|青写真のない自由は、「漂流」を招く

自由進度」に必要なのは、自由そのものではなく、

「どこに戻るのかが見えていること」です。

  • 自分は、何を特化したいのか
  • どこに時間をかけたいのか
  • 何をどう仕上げたいのか

それを最初に描く
そのためにこそ、思考ツールがあり、構想メモがあり、設計の時間があるのです。

もし、構想を描く時間がなく、考えを整理する足場もなく、

いきなり「自由」にすると、多くの生徒は漂流します。

その結果、AIに丸投げしてしまうのです。

一方、設計された「自由進度」が入ると、

教室の「状態」が次のように変わっていきます。

* 早い生徒は「先へ」ではなく、「より良く」「より高みへ」を目指す

* つまずく生徒は「止まる」のではなく「戻る」ようになる

* 共有を、単なる「感想の発表」ではなく、「自己調整の材料」にできる

* 教師は「対応」ではなく「見取りと介入」を楽しみにするようになる

自由進度学習」は、一人で黙々と進める学習ではありません。

見通しが共有され、

自分で判断することが奨励され、

途中で出会える構造があるからこそ、

学びは深く、豊かになります。

自由とは、放任ではありません。

「どこに向かっているか」を知った上で

自分で歩き方を選べる状態。

それが、自由進度学習が目指す「自由」なのです。

6|自由進度が「育つ」教室のつくり方

自由進度が機能しているクラスでは、「自由にしよう」とする前に、次の準備がされています。つまり、ルール作りです。

  • 単元の最初に、どこで自由進度を行うかを明示する
  • それまでに、どこまでできていればよいかを具現化する
  • 生徒一人一人が、自分なりの青写真(計画)を立てて提出する
  • 教師がそれを事前に確認する

当日は、中間報告の時間と方法を決めておきます

例えば、黒板(ホワイトボード)

  • 横軸:取り組みメニュー
  • 縦軸:進捗状況(〜30%〜50%〜80%〜)

を示し、中間報告の時間になったら、生徒が自分の名札を該当位置に貼りに来て、現状を書き込みます

これだけで、

  • 何をしているか
  • どこまで進んでいるか

が一目で分かります。

仲間の進み具合を見て、途中でスイッチが入る生徒も出てきます

「自由」は「見通し」があってこそ生まれます。

そのためには、
情報を「可視化」し、自己決定を促すことが鍵になります

3回シリーズの「まとめ」として

① 「自由」と「自己流」「自分勝手」は、何が違うのでしょうか

「自己流(自分勝手)」の学びでは、

何をやるのかを知っているのは、本人だけです。

多くの場合、どこに向かっているのかは、本人にも見えていません。

困っても、立ち止まっても、

誰に相談すればよいのか分からず、

必要な情報にも出会えないまま、

学びは次第に孤立していきます。

一方、自由進度学習の「自由」は、まったく性質が異なります。

目指す到達点は共有されており、

複数の選択肢の中から自分で決めることができます。

ゴールが見えているからこそ、

途中で立ち止まることも、

戻ることも、寄り道をすることも可能になります。

互いがどの方向に向かい、

どのあたりを歩いているのかという見通しを知っているからこそ、

学びの途中で、自然に仲間と関わり合う構造が生まれるのです。

② 自由進度学習に不可欠なのは、最初の「青写真(blueprint)」です

英英辞典 COBUILD では、blueprint を次のように説明しています。

A blueprint for something is a plan or set of proposals that shows how it is expected to work.

自由進度学習における「青写真」とは、

単元の全体像、

ゴールの姿(どんなアウトプットに向かうのか)、

途中にある節目や中間地点、

そして、何度でも行き来してよい「道程の構造」を含んだものです。

ここで重要なのは、

教師が自分の設計図(課題や手順)を与えることではありません。

教師が用意するのは、

どこに何があるかが見える地図です。

どう進むかという設計図については、学習者に委ねるのです。

この「デザインする力」を育てることは、決して一朝一夕にはできません。

もし、うまくできていないと感じる場面があるとすれば、

それは「能力がない」からではなく、

経験が浅いためです。

できるようになるまで、

地道に、何度でも、

その力に向き合い続けることが教師の役目です。

③ ルールは「縛るため」ではなく、「迷わないため」にある

ルールがあると「自由がなくなる」、

自由進度学習では「ルールを減らさなければならない」。

そう考えられてしまうことがあります。

しかし、実際は真逆です。

スポーツやゲームがそうであるように、

ルールがあるからこそ、安心して動くことができ、

見通しがあるからこそ、自分で判断することができます。

自由進度学習におけるルールとは、

自由を支える「足場」です。

行動を制限するためのものではなく、

選択の前提条件をそろえるためのもの。

全員が「今どこにいるのか」を確認し、

説明し合うための共通言語だと考えることができます。

④ 見通しがあると、教師の役割も変わる

見通しが共有されると、

教師の役割も大きく変わります。

教師は、「学習を先に進ませる人」ではありません。

学習者一人ひとりの位置を見取り、

次の一手が自分で導けるように支援する人になります。

自由進度学習では、

速さを管理することや、競争させることに重きを置きません。

大切にするのは、「判断力」です。

自由とは、放任ではありません。

見通しのある世界で、

自分の判断で歩いていける状態のことです。

その判断力を支えるために、

教師が用意するものは、次の三つです。

青写真

最低限のルール

途中で出会うための仕掛け(Peer Learning

これによって

自由進度学習は、

学びの質そのものを問い直す営みとして立ち上がってきます。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント