🍀 単元を俯瞰した瞬間、自由進度の位置づけが変わる
第1回、第2回では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の「往還」が大事であり、そのためには、どうつなげるか、どう揺さぶるかという「設計」が不可欠になると述べました。
では、その「往還的に出会う瞬間(encounter)」を、どう作ればいいのでしょうか。
それは、思いつきでグループを組ませることでも
発表の回数を増やすことでもありません。
自由進度学習で必要なのは、
学びがまだ未完成の段階で、他者の思考に触れ、
自分の学びが自然に揺さぶられる状態です。
そのためには、「協働の時間を入れる」という作業だけでは足りません。
大切なのは、単元のどこで、どのような形で、学習者同士が出会うのか。
ここを誤ると、協働は形だけになり、
自由進度は「個別」ではなく「孤立」に変わります。
逆に、この一点が噛み合ったなら、
個別に進んでいた学びは、
互いを押し合い、引き上げ合う、力強い流れになります。
この章では、その鍵となる Peer Learning を軸に、「個別最適」と「協働」が実際に「往還」しあう単元設計を見ていきます。
1|Peer Learning は「最後に発表」という学習では成立しない
現場でよく見られる「協働」の形はこうです。
調べる → まとめる → 発表する → 「いいね」で終わる
もちろん、そこにも価値はあります。
ただ、これでは学びが更新されません。
なぜなら、「修正(自己調整)が起こるタイミング」がないからです。
学びが動くのは、
* まだ途中で
* まだ不完全で
* まだ言い直せる余地がある
その状態で、他者の考えに触れたときです。
つまり、
* 途中の共有で、言い直す。
* 途中の比較で、構え直す。
* 途中のフィードバックで、再編集するのです。
完成してから見せ合っても、
学びはほとんど動きません。
途中で出会うからこそ、学び(気づき、編集)が更新されます。
この「途中で修正が起き続けている状態」で必要になるのが
Peer Learning です。
2|Peer Learning は「活動名」ではなく「状態」
Peer Learning は、 特定の方法や活動を指す言葉ではありません。
「ペアになる」「グループになる」「話し合う」「見せ合う」
それ自体が Peer Learning なのではありません。
Peer Learning とは、
* 他者の途中の思考に触れ
* 自分の考えを揺さぶられ
* もう一度、自分の学びに戻って再編集している
その“状態”そのものを指します。
だからこそ、
* 最後に発表するだけ
* 感想を言い合って終わるだけ
では、Peer Learning は成立していません。
この「状態」を成立させる位置に「自由進度」があります。
では、この 「途中で修正が起き続ける状態」を
単元の中でどうつくればよいのでしょうか。
ここで、「自由進度」の意味が変わります。
自由進度は、
「早く終わる生徒を先に進ませるための仕組み」ではありません。
それぞれが違う地点にいる状態をつくり、
その差に“途中で出会わせる”ための条件です。
ですから、自由進度は単元のどこにでも入れればよいわけではありません。
3|単元設計の型:「往還」が起こる流れ
単元を一本の数直線で示し、
「自由進度」を、その線のどこかに入れます。
単元の流れで説明すると次のようになります。
単元の流れ(基本形)
- 導入(ゴール提示):何ができるようになるかを具体物で見せる
- 型の共有(守の段階):全員が使える共通言語を揃える(構成・文型・思考ツールなど)
- 個別最適な学び①(練習):各自が必要な負荷で練習する(ここで自由進度が入りやすい)
- 中間共有(Peer Learning):途中の成果を見せ合い、修正点が見える
- 個別最適な学び②(破の段階・再編集):共有で得たヒントを自分の学びに戻して改善する
- 協働的な学び(Peer Learning):ペア・グループで伝わり方を検証する
- パフォーマンス(離の段階):相手と目的のある場で使う
- 振り返り(Peer Learning, 言語化):変化を言葉にし、次の学びに接続する
この流れの中で、
「個別①→協働→個別②」のような「往還」が起きている状態、
または、振り返りで学びが昇華されていく状態が Peer Learning です。
4|自由進度が機能する条件は「足場」があること
単元の中に「自由進度学習」を入れるとき、
最低限必要な足場があります。
- ゴールが具体物で示されている
- 型が全員に渡っている(守の共有)
- 途中の共有が設計されている
- 振り返りが必須になっている
- 教師の介入点が決まっている(いつ、誰に、何を)
これがないまま自由にすると、迷子が出ます。
一方、「足場」が用意された自由は、生徒を動かします。
5|青写真のない自由は、「漂流」を招く
「自由進度」に必要なのは、自由そのものではなく、
「どこに戻るのかが見えていること」です。
- 自分は、何を特化したいのか
- どこに時間をかけたいのか
- 何をどう仕上げたいのか
それを最初に描く。
そのためにこそ、思考ツールがあり、構想メモがあり、設計の時間があるのです。
もし、構想を描く時間がなく、考えを整理する足場もなく、
いきなり「自由」にすると、多くの生徒は漂流します。
その結果、AIに丸投げしてしまうのです。
一方、設計された「自由進度」が入ると、
教室の「状態」が次のように変わっていきます。
* 早い生徒は「先へ」ではなく、「より良く」「より高みへ」を目指す
* つまずく生徒は「止まる」のではなく「戻る」ようになる
* 共有を、単なる「感想の発表」ではなく、「自己調整の材料」にできる
* 教師は「対応」ではなく「見取りと介入」を楽しみにするようになる
「自由進度学習」は、一人で黙々と進める学習ではありません。
見通しが共有され、
自分で判断することが奨励され、
途中で出会える構造があるからこそ、
学びは深く、豊かになります。
自由とは、放任ではありません。
「どこに向かっているか」を知った上で
自分で歩き方を選べる状態。
それが、自由進度学習が目指す「自由」なのです。
6|自由進度が「育つ」教室のつくり方
自由進度が機能しているクラスでは、「自由にしよう」とする前に、次の準備がされています。つまり、ルール作りです。
- 単元の最初に、どこで自由進度を行うかを明示する
- それまでに、どこまでできていればよいかを具現化する
- 生徒一人一人が、自分なりの青写真(計画)を立てて提出する
- 教師がそれを事前に確認する
当日は、中間報告の時間と方法を決めておきます。
例えば、黒板(ホワイトボード)に
- 横軸:取り組みメニュー
- 縦軸:進捗状況(〜30%〜50%〜80%〜)
を示し、中間報告の時間になったら、生徒が自分の名札を該当位置に貼りに来て、現状を書き込みます。
これだけで、
- 何をしているか
- どこまで進んでいるか
が一目で分かります。
仲間の進み具合を見て、途中でスイッチが入る生徒も出てきます。
「自由」は「見通し」があってこそ生まれます。
そのためには、
情報を「可視化」し、自己決定を促すことが鍵になります。
3回シリーズの「まとめ」として
① 「自由」と「自己流」「自分勝手」は、何が違うのでしょうか
「自己流(自分勝手)」の学びでは、
何をやるのかを知っているのは、本人だけです。
多くの場合、どこに向かっているのかは、本人にも見えていません。
困っても、立ち止まっても、
誰に相談すればよいのか分からず、
必要な情報にも出会えないまま、
学びは次第に孤立していきます。
一方、自由進度学習の「自由」は、まったく性質が異なります。
目指す到達点は共有されており、
複数の選択肢の中から自分で決めることができます。
ゴールが見えているからこそ、
途中で立ち止まることも、
戻ることも、寄り道をすることも可能になります。
互いがどの方向に向かい、
どのあたりを歩いているのかという見通しを知っているからこそ、
学びの途中で、自然に仲間と関わり合う構造が生まれるのです。
② 自由進度学習に不可欠なのは、最初の「青写真(blueprint)」です
英英辞典 COBUILD では、blueprint を次のように説明しています。
A blueprint for something is a plan or set of proposals that shows how it is expected to work.
自由進度学習における「青写真」とは、
単元の全体像、
ゴールの姿(どんなアウトプットに向かうのか)、
途中にある節目や中間地点、
そして、何度でも行き来してよい「道程の構造」を含んだものです。
ここで重要なのは、
教師が自分の設計図(課題や手順)を与えることではありません。
教師が用意するのは、
「どこに何があるか」が見える地図です。
どう進むかという設計図については、学習者に委ねるのです。
この「デザインする力」を育てることは、決して一朝一夕にはできません。
もし、うまくできていないと感じる場面があるとすれば、
それは「能力がない」からではなく、
経験が浅いためです。
できるようになるまで、
地道に、何度でも、
その力に向き合い続けることが教師の役目です。
③ ルールは「縛るため」ではなく、「迷わないため」にある
ルールがあると「自由がなくなる」、
自由進度学習では「ルールを減らさなければならない」。
そう考えられてしまうことがあります。
しかし、実際は真逆です。
スポーツやゲームがそうであるように、
ルールがあるからこそ、安心して動くことができ、
見通しがあるからこそ、自分で判断することができます。
自由進度学習におけるルールとは、
自由を支える「足場」です。
行動を制限するためのものではなく、
選択の前提条件をそろえるためのもの。
全員が「今どこにいるのか」を確認し、
説明し合うための共通言語だと考えることができます。
④ 見通しがあると、教師の役割も変わる
見通しが共有されると、
教師の役割も大きく変わります。
教師は、「学習を先に進ませる人」ではありません。
学習者一人ひとりの位置を見取り、
次の一手が自分で導けるように支援する人になります。
自由進度学習では、
速さを管理することや、競争させることに重きを置きません。
大切にするのは、「判断力」です。
自由とは、放任ではありません。
見通しのある世界で、
自分の判断で歩いていける状態のことです。
その判断力を支えるために、
教師が用意するものは、次の三つです。
• 青写真
• 最低限のルール
• 途中で出会うための仕掛け(Peer Learning)
これによって
自由進度学習は、
学びの質そのものを問い直す営みとして立ち上がってきます。
