英語授業におけるICT活用の可能性と問題点
*ロイロノートで意見を出し合い、
*Kahootで理解度を確認する。
教室のモニタースクリーンには、たくさんの言葉や答えが並びます。
一見すると、
生徒はよく動き、
情報は整理され、
授業は「活発」に見えます。
しかし、
現場で授業を見続けているうちに、
ある違和感が拭えなくなってきました。
それは、
ICTを使っているはずなのに、
生徒が「自分の考え」を形成していない
ということです。
注)
*ロイロノート(ロイロノート・スクール)
タブレットを使った授業支援アプリ。生徒が主体的に学び、思考力や表現力を高めることを目的として作成されたツール。
*Kahoot
ゲーム形式でクイズやアンケートを作成・共有・プレイできる学習プラットフォーム。
◆ ICTは授業を変えない。「役割」が授業を変える。
最初に確認しておきたいのは、
このような問題はICTの性能や種類の話ではない、ということです。
ICTは、授業を良くもしませんし、悪くもしません。
どの役割を与えられているかによって、授業の行き先が決まります。
私は、英語授業におけるICTの現状を、次の2つに分類して受け止めています。
① 素材置き場

② 編集卓

この違いが、授業の質を決定的に分けます。
◆ ICTが「素材置き場」で止まっている授業
素材置き場とは、とりあえず材料を集める場所です。
集めること自体に意味はあります。
しかし、集めただけでは作品にはなりません。
多くのICTを使った授業は、次のような状態で止まっています。
・ロイロノートに意見カードが並ぶ
・Kahootで答えが一斉に集まる
・画面が埋まり、「整理できた」ように見える
しかし、そこでは生徒は判断していません。
・なぜその意見なのか
・なぜその分類なのか
・なぜそれを残し、他を捨てたのか
こうした「根拠」を引き出す問いが、教師によって与えられていないのです。
これらは思考(情報の整理)ではなく、単なる情報処理です。
◆「整理しているように見える」ことの危うさ
ロイロノートでよく見られる活動の流れは、
① 思いついたことを書き出す
② 似たものを集める
③ それで「整理した」と勘違いして、そこで学習を終わる
というものが多いようです。
しかし、整理とは本来、
「何を基準に、どう分けたのか」を
言葉で説明できる状態を指します。
「基準」が言語化されていないような分類は、
並べ替えであって、思考の整理ではありません。
「素材置き場」は賑やかですが、
意味はまだ立ち上がっていないのです。
◆ Kahootが示す「分かったつもり」
Kahootは、理解度を確認するという目的があり、
学習者がゲームのように楽しめる要素が入っています。
しかし、そこで測れているのは、多くは
・速さ
・正確さ
です。
・なぜ迷ったのか
・なぜ他の選択肢を消したのか
・どう考え直したのか
といった思考の過程は扱えません。
Kahootに集まるのは「思考の断片(選んだ答え)」だけです。
「答えが当たった」ことと、「考えた」ことは別物です。
Kahootも、ゲーム中心の使い方では、素材置き場のままで終わります。
◆ 振り返りが「感想」で終わる構造
素材置き場で終わる授業では、振り返りもまた浅くなります。
・楽しかった
・いろいろな意見が見られた
・みんなの考えが分かった
これらは活動の感想であって、
本時のねらいに基づいて思考した振り返りではありません。
本来、振り返りで問うべきなのは、
・自分の考えは、どこで変わったのか
・何を捨て、何を選び直したのか
・なぜそう考えたのか
という、自分の考えを形成していくプロセスです。
◆ 決定的に欠けているのは「編集」の工程
ここまで挙げた問題に共通しているのは、
「編集」が行われていないということです。
・出す
・集める
・並べる
これで終わっているのです。
それは、
素材置き場で足を止めただけで、
「編集卓」には向かっていないという状態です。
🍀「編集卓」とは何か
「編集卓」とは、
生徒たちの
・未整理な言葉
・途中で止まった考え
・迷いながら出てきた表現
を意味のある学びの流れへ再構成する場所(機能)です。
それは、生徒の未完成な言葉や考えを素材として、
選び、つなぎ、組み替えながら、
思考を前に進めるための授業の中枢なのです。
🍀 ICTが「編集卓」になるとき
ロイロノートやKahootは、
思考を生み出す道具ではありません。
思考を可視化する素材を集める道具です。
だからこそ、
そこに
「選ぶ・捨てる・言い直す」
という編集工程が入らなければ、
学びは場当たりで終わります。
◆ 編集卓としてICTが機能する具体とは
① 完成前を扱う
・下書き段階の英文
・言い直しの音声
・途中で止まった発話
このように「未完成」を素材として扱います。
② 比較できる
・言い換える前/言い換えた後
・一人の案/仲間の案
・昨日の自分/今日の自分
こうすると、「思考の差」が見えるようになります。
③ 戻れる・やり直せる
・書き戻す
・話し直す
・構成を入れ替える
これで、intake(=学習者の中に「取り込まれる」瞬間)が起きる余白が生まれます。
◆ 教師は「操作説明者」ではなく「編集者」
ICT時代の教師に求められているのは、
ツールをたくさん知っていること、
操作に詳しいことではありません。
・「ここ、いいね。なぜだと思う?」
・「今の表現、前のより何が変わった?」
・「この二つ、どちらが相手に伝わる?」
このような問いを投げかける教師の*「編集力」です。
教師は、正解を言わせる人ではなく、
選ばせる人・比べさせる人になります。
※ 教師の「編集力」については『英語教師の授業デザイン力を高める3つの力
(読解力・要約力・編集力)』(大修館書店,2023)を参照
◆ 最後に
ICTが、素材置き場で終わるか、編集卓になるか。
その分かれ道は、実にシンプルです。
「この授業で、生徒に何を判断させたいのか」
それが言えるかどうかです。
ICTは、授業を変えません。
授業観が、ICTの使われ方を決めます。
問題は、ICTを使うか、使わないかではありません。
自分は、どんな思考を育てたい教師なのか。
その問いに向き合ったとき、
ICTは初めて、
英語授業で役に立つ「編集卓」になるのではないでしょうか。
