🍀 生徒は「教科書」で話せるようになる!

💠「学期末」にこそ確認したい、授業デザインのチェックポイント

教科書は予定通り終わっている。
定期テストの結果も、特に悪くはない。

しかし——
なかなか即興で英語を話せない。
3文程度の文脈のある英文を書けない。
理由や意見を付け足すことができない。

相手の言っていることを捉えて深掘りができない。

学期末、そんな姿を思い出すと、教師の中にモヤモヤ感が生まれます。
なぜなら、授業は「教えたかどうか」ではなく、生徒が「できるようになったかどうか」 で評価されるからです。

🍀 ゴール設定のズレ

問題は、授業のゴールがどこに置かれていたか です。

もしかすると、

  • 教科書を予定通り終わらせること
  • 新出文法を一通り扱うこと

が、知らず知らずのうちにゴールになっていなかったでしょうか。

授業を振り返ると、次のような流れが定番になっていることは少なくありません。

  • ウォームアップ(ゲーム・ビンゴ・小テスト)
  • 新出語彙・文法の説明
  • デジタル教科書やTTで本文音読
  • 個人・ペアで練習
  • プリントを使った発話活動
  • 表現の活動
  • (時間があれば)振り返り

どれも大切です。
しかし—

生徒は、今までに学んだ「基本文」を使って、
身近なことを自由に言えるようになっているでしょうか。

💠「読める」と「使える」は別物

多くの授業では、

本文が読めるようになる

文法が理解できる                           

ことに、必要以上の時間が使われています。

しかし、それだけでは話す力・書く力は育ちません。

「読める」=理解できる

「話せる・書ける」=運用できる

この2つは、まったく別の力だからです。

🌿 話せない・書けない最大の理由は「基本文」

生徒が話せない、書けない最大の理由は、実はとてもシンプルです。

それは、「基本文」を徹底して使わせていないからです。

ここでいう「基本文」とは、テスト用の例文ではありません。

  • 日常場面で
  • 何度も
  • 少しずつ形を変えながら
  • 使い回せる文

のことです。例えば、

  • I like ~ because
  • I think ~ is ….
  • For example, there are …
  • I want to ~, so , but

こうした文は、単元が終わっても、学年が上がっても使えます。

💠 教科書ができること、教科書だけではできないこと

ここで、一旦、教科書の役割について整理しておきます。

それは、

  • 語彙との出会い
  • 文法の初出
  • 話題や場面の提示

です。

一方、教科書だけでは担えない役割があります。

それは、

  • 同じ基本文を
  • 文脈を変えながら
  • 繰り返し使い
  • 少しずつ負荷を上げていく

という技能育成のプログラムは入っていないということです。必要なのは、教科書+系統的な技能プログラムという発想です。

💠 技能は「負荷」をかけなければ育たない

3つの象徴的な活動

ここで、皆さんに体験していただきたいことがあります。技能を身につけるために何が必要かを実際に感覚として捉えていただくためです。

① バッティングセンター英語(高速化)

生徒たちは、バッティングセンターのように来た球をすぐに打ち返すトレーニングをしているでしょうか。自動化、高速化のためには、このようなトレーニングが不可欠です。ペアに任せてしまうと、自分たちのペースでゆっくりやったり、日本語で話したりするようになります。

よって、制限時間を決め、ペアで協力(高速で質問をする、高速で答える)しあって、2人が言えた数を合計して記録し、最後はそれを提出するというスタイルにすることが大事です。実際にやってみましょう。

次の映像をご覧になり、スライドが変わる(2秒から3秒)前に答えを言ってみてください。

このような速さで、基本文(日本文を英文にする)、Q&A(基本文を使った質問に対して素早く答える、答えに関連する一文、理由、意見を付け足す、キーワードから関連する質問がすぐに作れる)の訓練をしていけば、どの子も「何を答えればいいか」がわかるようになります。

このようなスライドを作らなくても、山折のプリントを作り、ペアで練習をすれば、すぐにできるようになります。例を示します。

② Pac-Man と競争

スライド(大学生用の教材)を立ち上げた瞬間に音読を始めてください。すぐ後ろから Pac-Man が追いかけてきますので、捕まらないように逃げて(最後まで読み切って)ください。

目が早く動くようになれば、音読も早くなり、それがリスニング力につながります。


③ チャイムと競争

次はチャイムと競争をします。チャイムが聞こえたら、読み始めてください。チャイムが終わるまでに最後まで読み終えられたら合格です。

これらの活動の狙いは、次の力を鍛えることです。

  • 即時性
  • 反射性
  • 英語を前から処理する力

読みの流暢性が上がると、英語の処理が追いつきやすくなり、聞き取りにも好影響が出てきます。

リスニング教材(英検等)や公立高校入試のリスニングは概ね140 〜 150wpm 前後の範囲で行われることが多い(年度・素材で幅がある)ので、音読では、まず 130wpm 程度を一つの到達目標として置くのが実践的です。

もちろん、棒読みはNGです。発音・ストレスネイティブの読みを完コピする意識で練習します。なぜなら、自分が正しく再現できない音は、聞いた時にすぐに認識できないからです。

学校にはチャイムがあります。時間を計算すれば、「どこまで読めばいいか」は明確になります。

そこで、次のようにします。

  • (座ったまま)チャイムと同時に読み始める
  • 読み終えたら立つ
  • 全員が立ったら授業開始(チャイムが鳴り終わる前に読めた生徒はガッツポーズで笑顔)

この仕掛けだけで、休み時間の過ごし方まで変わります。

また、家庭でも自分で時間を計って読むようになります。

具体的な数値目標は学習意欲を高めるのです。

💠 技能は「系統的」に鍛える

系統的とは、少しずつ変化(負荷)を加えていくということです。望ましいのは、「帯学習」で「技能習得のためのプログラム(シラバス)」を作成することです。

なぜなら、「話す・書く力」は、単元の最後に一度やれば身につくものではないからです。
必要なのは、短時間・高頻度・系統的な訓練 なのです。

先ほどの①のところで、いくつか具体を示しましたが、ここで整理をしておきます。「帯学習」で1ヶ月から2ヶ月かけて次のことをトレーニングすると、「話すこと」に自信が生まれてきます。

  1. 基本文を自動化する
  2. 基本文で3文程度の英文を書く
  3. 基本文を使ってQ&A
  4. 答えに一文を付け足す
  5. because / so / when を使う
  6. 理由・意見を加える
  7. Why? / How? / Tell me more. で深掘り
  8. マッピングをもとに即興で質問
  9. トピックを選びペアChat(60秒〜2分)                                 

これらは「活動」ではありません。技能を鍛えるためのプログラム です。

教科書の中に、すでに答えはある ― 各社教科書の「話せる活動」から

実は、教科書には 話せるようになる活動 がすでに用意されています。
問題は、それを 技能の視点で使い切っていない ことです。下のR7年度版の教科書中の活動の名称(回数)です。(年度により、名称や構成が異なっているので、お手元の教科書の目次で確認をなさってください)

◆ Blue Sky English Course

  • Let’s Talk 1–5
  • Project 1–3
  • 1年 基本文まとめ(134–135p)

◆ Here We Go English Course

  • Goal – speak
  • You Can Do It! – Speak
  • “その場で”スピーキング Let’s Talk!
  • 基本文のまとめ

◆ New Crown English Series

USE Speak

GET Plus

Project

基本文のまとめ

◆ New Horizon English Course

  • 各Unit Activity ❸
  • Unit Activity(選択)
  • Stage Activity 1–3
  • Small Talk(帯活動)

◆ One World English Course

  • Activities Plus 1–4
  • Tips for Speaking ❶–❹
  • Think & Try!
  • Project 1–3
  • 重要構文復習リスト

◆ Sunshine English Course

  • Get Ready
  • Small Talk(下欄)
  • Step 1–6
  • Our Project 1–3
  • クイックQ&A
  • アクション・カード

眺めているうちに、「どんな内容なんだろう?」と興味が湧いてきませんでしたか。

課業中は、進度が気になるので、どちらかというと「近視眼(教科書の内容)」になります。

しかし、授業が一段落した段階で「技能が身についたかどうか」という視点に立って振り返ることで、次の学期の取り組みを改善する大きなヒントになります。他社の教科書を覗いてみることで、客観的に「つけなければならない力」とそれを可能にする言語活動が見えてきます。

くれぐれも勘違いしてはいけないのは、「活動がある=技能が育つ」ではないということです。

技能」とは、系統的意図的、負荷をかけて鍛えていくものです。

質問も答えも決まっている活動では、その場限りで終わります。その状態では、「技能」は残りません。大事なのは「活動」そのものではなく「設計」です。次のチェックリストで確認をなさってみてください。

💠 3学期版(学年末)授業デザイン・チェックリスト

―「教科書を終えたか」ではなく「技能が残ったか」を確認するために ―

Ⅰ.ゴール設定チェック

□ 単元・学期の「到達像」は明確だった

□ 学期末に、生徒が 即興で話す場面 を具体的に想定していた
□ 「〇文以上話す/書く」「理由を添える」など可視化されたゴールを考えた
□ 「教科書を終える」「文法を教える」ではなく、「できるようになった生徒の姿」をイメージした

Ⅱ.基本文の扱いチェック

□ 「基本文」を使い切らせた

□ 基本文が テスト用例文で終わっていなかった
□ 同じ基本文を、場面を変えて、主語・理由・条件を変え、学期をまたいで使わせた

□ 基本文を使って3文程度の文脈のある英文を書かせた
Q&Aをさせた
一文、理由、意見を付け足させたり、深掘りさせたりした

Ⅲ.音読・リスニング設計チェック

□ 音読が「練習」で終わらないようにした(間を考え、朗読・演読まで高めた)

□ 音読に 時間制限(負荷) がつけた
速度の目安を教師が把握していた
130wpm前後を一つの目標にした
棒読みがないように徹底した
ストレス・イントネーションまで意識させた

音読とリスニングを一体化させた(スクリプトを音読させ、最後にもう一度聞かせた)
□「前から処理する力」を意識づけた

Ⅳ.帯学習(毎時間)の設計チェック(IIと連動させた)

□ 短時間・高頻度・系統的になっていたか

□ 毎時間5〜10分の 帯学習 を用意した
□ 内容が 日替わりの思いつき になっていなかった
次の流れが意識されていた

基本文の自動化方言や生活言語で話される日本語を2秒で英語に直した)
□ 基本文を使って身近なことを3文以上の文脈で書いた
□ 基本文でさまざまなQ&Aをした(自分で質問を作った
□ Qの答えに理由・意見を足した
相手の言ったキーワードに対して深掘り質問をした
ペアチャットで即興のやり取りをした

Ⅴ.「話せる活動」の使い方チェック

□ 教科書の活動を「技能化」していたか

□ 教科書の発話活動を1回で終わらせず、相手を変えて行った
reviewとして次の時間にもつなげた

□ 活動の前に、今まで習った基本文を確認した(一覧を渡した
□ 活動の後に言えなかったことを振り返らせた(辞書で調べてノートに書いた)

□ 質問・答えが多様性が生まれるようにした

Ⅵ.思考の深まりチェック

「言わせて終わり」になっていなかった

Why? / How? / Tell me more. を教師だけでなく、生徒同士でも使わせた

□ 一問一答で終わらず、理由、具体、比較することを勧めた

マンダラ・チャート階層式マッピング等を使い、話す前に思考を整理させた

Ⅶ.学年末(3学期末)の最終チェック

「できるようになったこと」を言語化させたか

□ 生徒が前より話せるようになった実感を持たせたか
□ 教師がこの学期で伸びた技能を説明できたか

□ 次の学年に向けて、新しく何に取り組むか、何を続けるか、何を削るかが明確になった

これらが「1年間の最終到達のイメージ」です。つまり、これが明確にできていなければ、正しいBackward Designはできません

学期末の長期休業は、次の学期の授業デザインを考える最大のチャンスです。その準備をしておくと、休業の最後の日が憂鬱ではなく、逆に明日が待ち遠しくなります

これが、2025年の最後の記事になります。読者の皆さんから励ましのメールをいただき、本当に励みになりました。ありがとうございました。

2026年は、また新しい視点で皆さんに問題提起をしていこうと思います。

良いお年をお迎えください。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント