✳️ 子どもたちの「探究」はどこに向かうのか

🔥「火花」を育てる授業デザインとは何か

授業中、子どもがふとつぶやきます。

「え、なんで?」「どうしてそうなるの?」その一言が、教室の空気を震わせます。

教科書でも、教師の説明でもなく、子ども自身が世界に触れたときに生まれる“火花”。

そこにこそ、探究の出発点があります。

ある中学1年生の女の子は、ノートの片隅にこう記しました。
どうして、こんなに毎日ゴミが大量に出るんだろう?

きっかけは、塾帰りのコンビニで見た、廃棄される食品の山。

この小さなひっかかりが、彼女の世界を静かに揺らしました。

探究の正体は、この“揺らぎ”です。

そしてこの揺らぎが「問い」に変わるかどうかは、
授業のデザイン次第です。

「育つ」こともあれば、「消える」こともあります

探究が迷走してしまう3つの誤解

多くの学校で「探究」がうまく流れない理由は、
指導者側の“誤解”がエンジンを止めてしまうからです。

たとえば、次のような誤解です。

誤解①:探究=調べて発表すること
問いが生まれる前に「見切り発車」してしまう。

誤解②:中間発表=進捗報告
本来は「考えの変化」を語り、「次の問い」を生む対話の場。

誤解③:迷ったらヒントを与える
迷いながら考えるプロセスこそが思考が深まる瞬間。
思いつきのヒントは、“芽”を奪ってしまうことがある。

探究が止まるのは、子どもの考えを深めていく「エンジン」(inquire)が十分に回っていないからです。

どうすれば探究は自然に立ち上がるのか

「探究」は、説明ではなく「仕組み」で動き出します。
必要なのは次の3つのことです。

1.終わりの姿から逆算する(Backward Design)

この場合、終わりの姿とは「発表している姿」ではなく、単元の最後に、子どもが次のような姿になっているかどうかを想定することが大事です。

自分の問いを3つ以上生み出せる
情報を整理し、理由を添えて説明できる
根拠を挙げて自分の意見を語れる
友だちの質問に即興で返せる
思考の変化を言葉にできる

この「到達イメージ」が描かれた瞬間、毎時間の活動に“必然性”が生まれます。探究は偶然ではなく、デザインによって立ち上がるものです。

2.思考ツールを使って「教えずに気づかせる」

探究とは、気づきの連鎖を育てる営みです。
その足場となるのが、各種の思考ツールであり、思考を深めるのが可視化された図なのです。

マンダラチャート:発想を広げた図
階層式マッピング:つながりを見える化された図
インタビュー・マッピング:深掘りの問いが生まれた図
探究コーラルマップ:全体像と見通しを示す図

教師が説明するよりも、“これらの図が子どもの思考を支えるとき” に探究は加速します。

3.中間発表は「問いを更新する場」として設計する

途中報告を並べる場ではなく、次のような対話が生まれる時間にします。

「私の考えはここで変わった。」
「次は何を調べるべきか見えてきた。」

この瞬間こそ、探究が深みに向かって動き始める瞬間です。

🌾 実践例:SDGs「フードロス探究」が立ち上がるまで

先ほどの女子中学生が実際にどのように「探究」に取り組んだのかをご紹介します。

1. きっかけ(Narrative)

・売れ残りが原因だと思っていたが、友だちとの対話から“家庭のロス”にも気づく。
・次の探索の方向が自然に生まれる。

2. 探究の問い

・フードロスはどこで、どのように生まれるのか?
・中学生の自分にできることは何か?

3. 仮説(自分の考え)

・家庭でのロスは意外に多いのではないか
・保存方法の工夫でロスは減らせるのではないか

4. 調査の方法

・アンケート、聞き取り
・マッピング → グルーピング → ナンバリング → ラベリング
・家庭/店舗/学校での改善策を整理

5. 情報整理

・家庭・店舗・自分にできることの3軸で可視化。

6. 学びのまとめ

・フードロスは「誰かの問題」ではなく、日常の中に生まれている課題。

・中学生でもフードロスに関心を持ち、行動を変えることで確実に減らせる。

このように、子どもの「世界理解」が更新されるにつれて、探究は“経験”となって定着します。

🎆 探究の本質は「火花」が育つ環境をつくること

子どもは、教えられたことで動くわけではありません。
自分で見つけたことで動き出します。

問いが生まれた瞬間。
考えが揺らいだ瞬間。
誰かの言葉で世界が少し広がった瞬間。

その一つひとつの機会が「探究の始まり」になるのです。

教師の役割は、こうした瞬間を“偶然”ではなく“必然”として生み出すこと。

「探究」とは、特別なスキルではなく、デザインされた環境から自然に立ち上がる学びです。

探究の旅は、火花から始まり、揺らぎが問いを生み、
問いがまた「学びの世界」を更新していく
——

その循環こそが、探究が“自然に起きてしまう授業”の本質ではないでしょうか。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント