授業で、子どもたちを元気にするために

 私は、埼玉県の中学校(旧吉川町)で、初任から6年間、その後、故郷の富山に戻り、小学校(旧婦中町)、中学校(砺波市)、指導主事(行政)、教頭職(中学校)を経験した後、縁があって関西外国語大学に勤務し、令和5年3月に退官をしました。

 昭和最後の9年間、平成30年間、そして令和4年間と、3つの時代を教師として多くの児童、生徒、大学生と向き合ってきました。どの校種でも苦楽があり、どれも決して忘れることができない貴重な経験となっています。

 中でも、1970年代から80年代にかけて、全国で吹き荒れていた「学校の荒れ(校内暴力)」は、私の勤務校でも例外ではなく、勤務した中学校は3校とも大きく荒れました。しかし、力による生活指導ではなく、生徒から学んだことを活かした生徒指導(自己決定から自己実現につなげる指導)や、教師(自身を含む)のミスから生まれた問題から得た教訓は、以後の自身の「教育理念」に大きな影響を与えてくれました。

 大学を退官するに当たり、現場の皆さん、特に身近なモデルが少ないという若い先生方を対象に、初任時から学ばせていただいたことを少しでも還元させて(恩返しをさせて)いただこうと決心しました。

 今、学校現場に「活力」を感じないのは、決してコロナ禍のせいだけではないと思います。教師が多忙なこともありますが、それ以上に、教師自身が日々の授業にワクワクできない、見通しを持って取り組めていないことが大きな要因だと考えます。

 私が、多くの先達から教わった知恵は、主に「内発的動機付けのあり方」「ものごとの学び方」「デザインの仕方」「問題発見・問題解決の仕方」などです。「教え方」は、どちらかと言うと技術志向であり、時代と共に変遷していきます。しかし、人間としての基礎基本(「生きて働く力」の土台)は、自らの経験を通して身につけるものであり、「為すことによって学ぶ」(Learning by doing)ことこそが授業を活性化させる業となりうると考えます。人は、自分で気づいたこと、自分が学んだこと、そして自分で決心したことには主体的になれます。

 「主体性」を高めるには、個々の「メタ認知力」を高めることが必須です。それはゴールを認識し、見通しを持った上で、仲間との協働学習を通して、適切な振り返りをすることで身についていきます。

 では、授業でそのプロセスをどう作ればいいのでしょうか。学習者も教師自身もわくわくできる授業にするには、学習者を過小評価するのではなく、彼らのポテンシャルを信じることです。それが出来るようになるには、彼らを尊敬できる場面に遭遇することです。日頃から彼らが書いたものを直すのではなく、その考えや瑞々しい感性を楽しむことです。授業改善の答えはそこにあると考えます。

 学校行事や部活動では、生徒の成長に感心したり、感動の涙を流したりする教師が、授業になった途端に、なぜ、それを忘れたかのように、リセットして頭から教え込もうとするのでしょうか。

 確かに、彼らは、知識の面では大人には敵いません。しかし、大人が考える以上に、ユニークな考えや発想を持っています。それを引き出して、クラスで醸成してやることが教師の仕事です。学校は、きっかけや刺激で満ち溢れている場所です。足場かけ次第で、どれだけ伸びていくのが子どもたち。しかし、その可能性を摘んでいるのは、残念ながら、いつまでも彼らを子ども扱いする大人の方ではないでしょうか。

 教師の「あれ?」「どうして?」という好奇心が生徒のワクワク感を育てます。たとえば、生徒の中には、「先生、isとthisはなぜ同じ綴りなのに iz、isのように読み方が違うの?」とか「先生、なぜ、numberの中にはoがないのにNo.になるの?」と聞いてくる生徒がいます。それに対して「英語ではそうなってるんだよ。そんなことより単語を一つでも多く覚えたら?」という指導をしていると、やがて生徒は気づきに対して鈍感になっていきます。「教える内容をどう教えるか」にしか目が向かないというのは、英語教師として寂しいことです。

 雑学の知識ではなく、教師自身も日頃からそのようなことに「あれ、何でだろう?」と不思議に思う気持ちが大事です。「私も、中学校の時そう思ったんだ。後で調べてみたらこうだった」と笑顔で答えてやれば、それが彼らの好奇心やワクワク感をさらに育てることになります。

 アクティブ・ラーニングとは「脳働的な学習」のこと、つまり時間を忘れて夢中になれるような学習だと考えます。人は夢中になると、やがて関心が高まり、できるようになりたい、上手になりたいと願うようになります。そして、自分なりのこだわりが生まれます。こだわりとはオリジナリティ、自分らしさにつながります。すると、自然に周りの仲間の取り組みにも関心を持つようになります。

 仲間から刺激を受け、ひらめきが生まれ、自分の学びの質が高まっていくと、さらにわくわくするようになります。利己(自分ファースト)ではなく、利他(相手ファースト)の心が身につき、心(人格)が豊かになっていきます。

 このように、感受性を育てることと、学力を向上させることは比例の関係にあります。

 このHPでは、少しでも皆さんに役に立つ情報、そして私が先達から学ばせていただいたことを少しずつご紹介していきたいと考えています。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント