教師自身の考えが揺れた、美鈴が丘中学校の校内研修
◆「実装」はどこから始まるのか
前回の記事で、最後に次のような問いを投げかけました。
「何をするか」を決める授業から、子どもが「どうしたいか」を決める授業へー。教師は本当にそう変えられるのか。
教師が本当に変わり始めるのは、どんなときなのでしょうか。
9月8日、広島市立美鈴が丘中学校で行った校内研修で、その答えにつながる場面に出会いました。
そこで私が見たのは、目の前の子どもの姿を思い浮かべながら、「自分たちの授業は、本当にこれでよいのか」と立ち止まり、それまで当たり前にしてきた授業を見直そうとする姿でした。
方法を増やすのではなく、自分たちの授業の見方そのものを見直そうとしていたのです。
美鈴が丘中学校で起きていたことを振り返ると、「実装」という言葉が、少し違って見えてきます。
知っただけでは、まだ実装ではありません。
新しい方法やICT、思考ツールを授業に取り入れただけでも、十分ではありません。
教師が学んだことによって、翌日の授業で見るものが変わる。
子どもの発言の聞き方が変わる。待つ時間が変わる。問い返し方が変わる。そして、それまでなら教師が決めていた場面で、「ここは子どもに返してみよう」と判断する。
そこまで変わって初めて、研修で「知ったこと」が、教室で「実装されたこと」に変わります。
美鈴が丘中学校の研修で起きていたのは、まさにその始まりでした。
◆ まず、教師が「学習者」になる
研修のテーマは「子どもが自ら学び始める授業には何が必要か」です。
学年を交ぜて3〜4人のチームをつくり、探究コーラルマップを使って、「子どもたちが自ら学び始める授業とは、どのような授業か」を考えていただきました。探究コーラルマップは、考えや情報を広げるマンダラ・フレックスと、それらを整理する階層式マッピングを組み合わせた思考ツールです。
最初からチームで一つの答えをつくるのではありません。まず一人で考え、自分の言葉を持つ。それから互いに質問し、考えを掘り下げていきます。
「それは、どういうことですか」
問い返されて説明するうちに、自分の言葉が足りないことに気づく。仲間の考えを聞いて「なるほど」と感じても、さらに話しているうちに「いや、少し違う」となる。
そして、最初に書いたことに戻る。
書き加える。消す。つなぎ直す。捉え直す。
思考ツールの説明を聞いているだけでは分からなかったことが、自分が学習者になってみることで見えてきます。
◆ 変わったのは、マップではない
話し合いを経て、各チームはどのような考えにたどり着いたのでしょうか。
まずは、先生方(チーム)のプレゼンテーションの様子(一部抜粋)をご覧ください。
◇プレゼンテーションの映像◇
プレゼンテーションで使われたマザーシート(付箋紙を貼りながら、それぞれが自分が責任を持って担当した要素を何も見ずに、聞き手を巻き込みながら発表)





マップを埋めることが目的なら、最初から全員で話し、出た意見を書き込む方が早いでしょう。
それでも、一人で考える時間を先に置いたのには理由があります。
自分の考えがあるから、仲間との違いに気づける。その違いを確かめようとして質問が生まれ、自分の考えに戻ることになるからです。
増えたのは、マップの中の言葉だけではありません。考えていた人の見方が動いたのです。
思考ツールを知っていても、授業でどう使えばよいか分からない。授業は教師の指示に沿って進めるものだと考えている。そうした先生に、「子どもに考えを更新させましょう」と説明するだけでは、授業中の姿を描きにくいはずです。
人は、経験していないことには不安を覚えます。一度経験すると、何が起きるのかを思い描けるようになり、次の一歩を踏み出しやすくなります。
「子どもに考えを更新させましょう」と説明されるのと、自分の考えが実際に揺れるのとでは、まったく違います。仲間の一言で立ち止まり、さっき書いた言葉に戻る。消す。書き足す。そうして初めて、「考えが変わる」とはどういうことなのかが、自分の経験として残ります。
今回、先生方には、子どもに経験させたい学びを、先に学習者として「体験」していただきました。
◆ 「使った」の先に何が起きたか
前回の記事で、次期学習指導要領に向けた議論では、「主体的・対話的で深い学び」の実装について、一層の具現化・深化を図るとされていると述べました。
「思考ツールを使った」「グループで話し合わせた」。それだけでは、授業で何が起きたかは分かりません。
今回の研修も、探究コーラルマップの使い方を覚えて終わることはできたでしょう。しかし、確かめたいのは、教師たちが仲間のどの言葉で立ち止まり、自分の考えをどう見直したかです。研修後のコメントも、その変化をたどる手がかりになります。
◇コメント一覧(抜粋)◇
①「『何が分からないか』が分かる場をつくる」(自己調整)

②「自分の『見方の偏り』に気づく」(メタ認知)

③「考えの『違い』が、自分の考えを深める」(協働)

④言いたくて仕方なくなる」をつくる(必要感)

⑤「他者との対話から、『自分はどうする?』へ」(自己決定)

⑥「『できない』で終わらず、次の手を考える」(自己調整)

⑦「『個→協働→個』で、考えをつくり直す」(協働)

⑧「『どう学ぶか』を、自分で選べるようにする」(自己決定)

⑨「『何とかしたい』が、学びを動かす」(必要感)

いずれも、「勉強になった」という感想ではなく、自分がそれまで当たり前だと思っていた授業の見方を、もう一度捉え直そうとする言葉が見られます。そして、次のマイ・アクションが述べられています。これは、ご自分がそれを体験し、自分自身で気づいたことが要因です。
これは授業も同じです。
「グループ活動を入れた」という教師側の説明を、「仲間の問いを受けて、子どもは何を書き直したか」という問いに変える。「思考ツールを使わせた」ではなく、「最初の考えと比べて、何を加え、何を捨てたか」を見る。
道具や活動の名前からは見えない学びが、そこに表れてきます。
◆ 子どもに考えを変えさせる前に、教師自身が、自分の考えが変わる経験をしているか
研修で教師の考えが動いた。その経験を授業へ持ち帰り、今度は子どもの考えが動く場をつくる。そして、そこで見えた子どもの姿から、教師がまた自分の授業を問い直す。
「実装」とは、新しい方法を学校に入れることではなく、学ぶ人の意識が変わり、その変化が次の学びを生み出すところまでつながっていくことではないでしょうか。
では、その循環を学校の日常にしていくには何が必要なのでしょうか。
美鈴が丘中学校の村上校長先生が、「研修のまとめ」の中で「答えは学習指導要領の中にある」ことを述べておられます。
◇研修のまとめ(PDF)◇
https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2026/09/校内研修のまとめ(美鈴が丘中学校-村上校長)-.pdf
