第2回 英語は、「後ろに情報が加わる言語」― チャンクで「前から理解する力」を育てる ―
「教科書を進めること」が目的になっていないか
英語の授業を拝見すると、
多くの教室で、
「教科書の本文を音読する」
「新出文法を説明する」
「ワークシートで練習する」
という指導が、
ごく自然に行われています。
もちろん、
それ自体が悪いわけではありません。
ただ、その中で、
見落とされやすいことがあります。
それは、
言葉は、
「場面」や「文脈」
の中でしか、
本当の意味を持たないということです。
ですから、
説明、暗記、練習だけでは、
試験には対応できても、
コミュニケーション能力は高まりません。
自分の立場で、
自分の考えを立ち上がらせながら、
実際に数多く使うことが大事なのです。
そして、そのとき重要になるのが、
「英語は、後ろに情報が加わりながら意味が育っていく言語である」
という感覚です。
「チャンク」で見ると、英語の語順が崩れなくなる
英語は、
単語を1つずつ並べて理解する言語ではありません。
意味のまとまり、
つまり「チャンク」ごとに、
情報が後ろへ加わりながら、
意味が完成していきます。
だからこそ、
英文を構成する3つの要素である、
「名詞チャンク」
「動詞チャンク」
「副詞チャンク」
という感覚を身につける必要があります。
ここが育っていないと、
音読をしていても、
「どこまでがひとまとまりなのか」
が見えません。
その結果、
英語を前から理解できず、
日本語へ並べ替えて理解しようとします。
ここで、英文の構成要素、3つのチャンクを簡単に説明してみます。
① 名詞チャンク(人・物・こと)
◆ 例
- my brother
- a beautiful flower
- the boy in the park
- playing soccer after school
- what she said
- the girl with long hair など
🔍 見分けるポイント
「人・物・こと」に置き換えられる
② 動詞チャンク(動き・状態)
◆ 例
- play (soccer)
- is studying (Math)
- can speak (English)
- wants to go
- has finished
基本的には「述語」に置き換えられる部分です。
ただ、play (soccer), is studying (Math), can speak (English)
のように目的語が1つの場合、そこまで繋げて理解するように
すると、より、かたまりとしてイメージしやすくなります。
🔍 見分けるポイント
「時制」「否定」「疑問」に関わる部分
③ 副詞チャンク(説明・追加情報)
◆ 例
- in the library
- with his friends
- after school
- very carefully
- because she was tired
🔍 見分けるポイント
“なくしても、文が成立する”ことが多い。
🍀 最も大事な感覚
英語が苦手な生徒ほど、
単語を1語ずつ、見ています。
しかし、
- 「誰・何」が
- 「(何を)どうする」
- 「いつ・どこで・どのように」
のように、“かたまり”として見ると、
英文の構造が見え始めます。
The boy in the park(名詞チャンク)
will play (動詞チャンク)
soccer(名詞チャンク)
after school.(副詞チャンク)
🍀 「英文が読めない」原因
多くの生徒は、
The boy / in / the / park / will / play …
のように、全部をバラバラに読みます。
しかし、
[The boy in the park]
⬇️
[will play soccer]
(高速理解するにはくっつけて理解する)
⬇️
[after school]
のように見えると、
英文理解は一気に楽になります。
「単語」ではなく、“働きのまとまり”で見る。
これが、英語を「意味」で理解するポイントです。
この
「文の最初から、
意味のかたまりごとに高速で理解していく感覚」は、
いきなり身につくものではありません。
だからこそ大事になるのが、
“すでに内容がわかっている英文”の音読です。
既習単元を毎日繰り返し音読することで、
生徒は、単語を1語ずつ追うのではなく、
“意味のかたまり”で英語を高速処理できる
ようになっていきます。
「チャンク」ごとに見せると、「前から理解する力」が育つ
高速理解ができるようになる、よい訓練があります。
中学校・高等学校では、
次のように、
パワーポイントのスライドを、
チャンクごとに提示していきます。
(例1)
スライドの1枚目 I
↓(回転)
2枚目 am(=)
↓(回転)
3枚目 watching baseball game
↓(回転)
4枚目 on TV.
↓(回転)
5枚目 I am watching baseball game on TV.
(例2)
1枚目 One of my friends
↓(回転)
2枚目 is looking forward
↓(回転)
3枚目 to seeing you
↓(回転)
4枚目 very soon.
↓(回転)
5枚目 One of my friends is looking forward to seeing you very soon.
このように、
1つずつ、左から右へ「横回転」させながら、
3秒以内で音読する、3秒以内で意訳する
という活動を繰り返すと、
子どもたちは、
“前からそのまま処理する感覚”
を自然に身につけていきます。
音読を、「ただ読む活動」で終わらせない
音読を、
学習者任せにしてしまうと、
ただ「慣れる活動」で終わってしまいます。
しかし、
動詞、語順、チャンク
を意識しながら、(教科書に / などの印をつけて)
情報を後ろへ付け足していく感覚
を育てていくと、
リスニング理解や長文読解のスピードが、
大きく変わり始めます。
「使われる景色」で英語を覚える
英語は、
単語だけで存在しているわけではありません。
動詞チャンクなら、
watch ー
TV
YouTube
baseball
the sunset
listen to ー
music
our teacher
the birds
というように、
“よく一緒に使われる世界”
(コロケーション)
があります。
この感覚が育つと、
子どもたちは、
無意味な単語の暗記から抜け出します。
そして、
「使われる景色」
として英語を捉え始めます。
これは、
後の即興的な会話力にも直結していきます。
単語をノートに何十回書いても、
頭にはなかなか入りません。
文脈の中で、
使っていないからです。
そして、それは、
指導者が、
「英語という言語の特性」
を十分理解できていないことから起こっています。
「教科書を終える授業」から、「英語の特性を育てる授業」へ
英語の授業では、
どうしても、
「教科書(正しくは教科用図書)の内容を、どこまで終わらせるか」
が中心になりがちです。
しかし、本来の英語指導とは、
単元を“消化”することではありません。
本当に育てなければならないのは、
「英語が、どのように意味を作っていく言語なのか」
という感覚です。
つまり、
英語を、日本語へ置き換えながら理解するのではなく、
英語の語順のまま、瞬時に理解できる力(即聴即解、即読即解) を育てることです。
その土台になるのが、
① 動詞(文の心臓)を働きを理解すること、
一つでも多くの動詞が使えるようになること、
そして、
② 名詞チャンク・動詞チャンク・副詞チャンク
という3つのチャンクを、瞬時に捉えられることです。
そのためには、
基本文を、
ただ暗記するのではなく、
「動詞が、後ろに何を求めているのか」
を感じながら、
Q&A やチャットなどで
日常的に何度も英語を使う必要があります。
また、上述したように、
既習単元(前の学期、前の学年)の内容を
日本語に訳さずに、
正しい発音、ストレスを意識しながら、
story teller になって読むことをルーティンにすることが
大事です。
リスニング指導でも、
必ず、スクリプトを用意し、
それを音源と同じ速さで音読し、
場面やイメージを掴んでから、
再度リスニングを聞くようにします。
すると、子どもたちは、
「音」だけだった英語を、
「意味の流れ」として理解し始めます。
この指導は、リスニングに大きな効果を発揮します。
これらの指導によって、
動詞やチャンクを意識しながら、
意味の流れを掴み、英語をそのまま理解していく
感覚を育てていくのです。
なぜなら、それが、英語の基礎体力となるからです。
つまり、
動詞(文の心臓)
⬇️
チャンク
⬇️
場面をイメージしながらする音読
⬇️
Q&A、チャット
⬇️
リスニング原稿の音読
⬇️
即聴即解・即読即解
これらは、別々の活動ではなく、
すべては、
「英語を、英語のまま理解し、使う力」
へつながっています。
だからこそ、
必要なのは、
教科書を終わらせる授業ではなく、
「英語という言語の特性」を、
子どもたちの中に、
少しずつ身体化していく授業です。
それを当たり前にすると、
今まで止まっているように感じていた
子どもたちの力が、
ゆっくりと動き始めます。
それを目の当たりにした教師も、
「教科書を教えなければならない」
という発想から、
「言葉が、どのようにつながり、
どのように意味を生み出していくか
を支援する」
という授業観へ、少しずつ変わり始めます。
そのとき、
今まで動かなかった山(学習意欲、学力向上)が、
ゆっくりと動き出します。
俯瞰をすれば、”違う見方”ができるようになる
今回の連載で、最もお伝えしたかったことは、
「英語をどう教えるか」ではありません。
むしろ、「どのような視点で、英語教育全体を見るか」
ということです。
大事なのは、俯瞰的に全体を見られるようになる
ということです。
教科書を進めること、
教科書を終えることに目が向くと、
どうしても、
「どう教えるか」
ばかりに意識が向いてしまいます。
しかし、本当に考えなければならないのは、
「卒業するとき、どのような力をつけて送り出したいのか」です。
教科書が終わっても、「何ができるようになったのか」は見えません。
まして、入試合格が目標の中心になると、
どうしても「知識」に偏り、
- 即興でやり取りできない
- まとまったことが話せない
- 書けない
という状態のまま、英語の授業が終わってしまいます。
つまり、「知っている」と、「使える」が切り離されてしまうのです。
「英語を、英語のまま理解し、使う力」を
身につける指導の全体像を見通すためには、
「今の自分の立場」だけで考えないことが大切です。
たとえば、
- 自分が校長だったら
- 自分が研究主任だったら
- 自分が指導主事だったら
どのような研修を行うか。
どのような指示を出すか。
どのような学校をつくろうとするか。
そのように全体を俯瞰し、
自分の授業を違う角度から見直してみるのです。
自分の担当するクラスだけを見ていたら、
「点数(平均点)」や「他の教師との競争」に関心が向かいます。
年間の全体計画、単元計画を立てるということは、
「卒業するとき、どのような生徒に育ってほしいのか」
という具体的なイメージがなければできません。
俯瞰するとは、見通しを持つということです。
見通しを持つということは、責任を持つということです。
必要なのは、
「教科書をどう終わらせるか」
ではなく、
「すべての子どもたちの中に、どのような英語の力を残すのか」
を考えることなのです。
その視点を持ったとき、今まで見えていなかった授業の景色が、
少しずつ変わり始めます。
アルクの Web版 英語の先生応援マガジン 連載の最終回では、そのことについて
詳しく述べています。関心のある方は、ぜひアクセスなさってみてください。
