🍀あの生徒たちは、なぜ、あんなことができるのか(彼らは、何を削ったのかー2/6)

教える時間を減らして、使える英語を増やす

◆ 「どこを削ればよいのか分からない」

「教科書の軽重を図るとよく言われるが、どこを削ればよいのか分からない。だから、結局、全部教えてしまう」

公開授業を参観した教師から寄せられた感想です。教科書の内容を確実に教えなければならない。しかし、生徒が英語を使う時間も十分に確保したい。その両方を大切にしようとすると、授業時間が足りなくなります。結局、説明を優先し、練習ややり取りを短くしてしまう。そうした経験を持つ教師は少なくないでしょう。

別の教師は、さらに切実な思いを記していました。

「高校入試を考えると、どうしても語彙の暗記や長文問題の練習が中心になる。太山寺中学校の生徒の姿には衝撃を受けたものの、年度途中から授業を変えれば、生徒から反発されるかもしれない。変えたいけど、変えられそうにない」

入試への対応も、定期考査も、教科書の進度も、避けては通れません。では、限られた授業時間の中で、生徒が英語を使う時間をどう確保すればよいのでしょうか。

太山寺中学校の5人は、この問題にどう向き合ってきたのでしょうか。

◆ 「教えた」と「使える」の間にあるもの

例えば、比較級を扱う授業です。

教師は、形容詞に -er を付けることや、than を使って二つのものを比べることを説明します。教科書の例文を音読し、練習問題に取り組ませます。生徒が正しく答えられるようになれば、次の内容へ進みます。

ここまでは、よく見られる授業です。ところが、しばらくして「犬と猫では、ペットとして飼うならどちらがよいか、友だちに英語で尋ねてごらん」と言うと、すぐには言葉が出てこない生徒がいます。

「どちらが好きか」なら、Which do you like better, dogs or cats? と尋ねられるかもしれません。しかし、「ペットとしてどちらがよいか」となると、少し事情が違ってきます。Which is better as a pet, a dog or a cat? と尋ねることもできますし、飼いやすさを比較するなら、Which is easier to keep, a dog or a cat? という表現も考えられます。

つまり、比較級の形を知っているだけでは十分ではありません。何を比べたいのかを考え、それに合う表現を選び、既習の基本文を応用する必要があるのです。

練習問題では、使う文法や表現があらかじめ決まっています。しかし、実際のやり取りでは、何をどう言うかを自分で判断しなければなりません。教科書の進度を優先すると、こうした経験を積む時間が真っ先に削られてしまいます。教師は説明すべきことを説明し、生徒も練習問題には答えられる。だから、「次へ進んでもよい」と考えてしまいます。

こうして、授業で扱った内容は増えていきます。しかし、生徒が自分の言葉として使える表現は、それと同じようには増えていきません。ポイントは、練習の様子を見極め、つながりのある言語活動に昇華させることです。

お題を、生徒が「あれ、自分はどうだろう?」と考え、迷い、そして判断する内容にすること、それが「自分ごと」にするということです。

◆ 公開授業の日だけでは、つくれない姿

参観者の一人は、授業を見て次のように記しています。

「子供たちが思考ツールや基本文トレーニングにすごく慣れていることから、毎時間の帯活動に力を入れておられることが分かり、私自身、すごく勉強になりました。」

参観者が注目したのは、活動の種類だけではありません。生徒たちが、その活動に慣れていることに気づいたのです。

研究授業では、普段とは違う活動が用意されることがあります。しかし、生徒が初めて経験する活動であれば、手順を理解するだけでも時間がかかります。教師の説明が増え、生徒は次の指示を待つことになります。

太山寺中学校の5人の授業で行われていた基本文トレーニングや自由Q&Aは、公開授業のために特別に用意されたものではありません。日々の帯活動として繰り返してきたものです。だからこそ、生徒たちは教師の細かな説明を待つことなく、すぐに活動に入ることができていました。

基本文トレーニングでは、日本語を見たり聞いたりして、どの基本文を応用すれば英語で表現できるかを判断し、素早く口に出す練習をします。

目安は3秒以内です。これは速さを競うためではありません。相手から質問されるたびに、頭の中で語順を一つずつ組み立てていたのでは、会話が続きません。言いたいことがあっても、必要な表現が出てこなければ、そこで止まってしまいます。

そこで、基本文を繰り返し口にし、必要なときにすぐ取り出せるようにします。いわゆる言語処理の「自動化」です。表現を取り出すことに時間をかけずに済めば、その分、相手の話を聞いたり、次に何を尋ねるかを考えたりすることに意識を向けられます。

3秒以内に言えるようにすることは、それ自体が最終目標ではありません。実際のやり取りの中で、相手の言葉を受けて考え、判断するための余裕を生み出すことがねらいです。

比較級なら、その仕組みを理解するだけでなく、身近な話題について尋ねたり答えたりするときに、すぐに使えるようにしておきます。

ただし、素早く英文が言えるようになっただけでは、まだ十分ではありません。

◆ Q&Aをしているのに、会話が続かない理由

例えば、次のようなやり取りを考えてみます。

A: Which is better as a pet, a dog or a cat?

B: I think a cat is better.

A: Why?

B: Because cats are easier to keep.

A: Do you have a cat?

このやり取りでは、最初の質問に答えた後、その理由を尋ね、さらに関連する質問へと進んでいます。

では、実際の教室ではどうでしょうか。

教師が質問し、生徒が答える。あるいは、ペアで交互に質問し合う。ここまでは、多くの教室で行われています。しかし、相手が「猫の方がペットとしてよい」と答えた後は、どうでしょうか。

用意された質問が次にあれば、それを読めば活動は続きます。しかし、相手の答えを受けて、自分で次の質問を考えるとなると、話は違ってきます。

なぜ猫の方がよいと思うのか。飼いやすいからなのか。実際に猫を飼っているのか。犬にはどんなよさがあるのか。相手の考えを聞いたうえで、自分の考えを伝えることもできます。

どれを尋ねるかは、相手の答えを聞いてから決まります。会話を続けるには、英文をつくる力だけでなく、相手の言葉を聞き、次に何を尋ねるかを判断する力も必要なのです。

太山寺中学校では、基本文を使ったQ&Aを、段階を踏んで発展させてきました。まず、質問に答えられるようにする。次に、一文付け足してみる。さらに、相手の答えを受けて質問を返す。慣れてきたら相手を替え、同じ基本文を別の話題でも使ってみるのです。

相手を替えることにも意味があります。同じ相手と同じ質問を繰り返しているだけでは、答えを覚えてしまうこともあります。しかし、相手が替われば答えも変わります。相手の発言を聞き、それに応じて次の質問を考えなければなりません。

繰り返しているのは同じ活動でも、その中で求められる判断は毎回異なります。基本文を使うことに慣れると同時に、相手に合わせて表現を選ぶ経験を積んでいくのです。

こうした経験を重ねることで、基本文は、教師に言われたとおりに口にする英文から、自分で選んで使う表現へと変わっていきます。

では、実際の授業をご覧ください。注目していただきたいのは、活動の手順よりも、生徒たちの動きです。教師の細かな指示を待つことなく、自分たちで活動を進めようとしている姿に目を向けてみてください。

【実際の授業の映像:基本文トレーニング、自由 Q & A】

1年生 田口先生(関西弁の日本語を聞いてすぐに英語の基本文に直す)

2年生 井田先生(Q&A、マッピングを使ったQ&A)

3年生 後藤田先生(基本文、高速Q&A)

いかがでしたか。生徒が自走している様子がよくわかります。

次に紹介するのは、基本文をさらに発展させる活動です。

英語科全体で取り組み始めた、基本文を活用する「クイズタイム」です。

ここで使うのは、教科書に載っている例文だけではありません。方言や、生徒たちが普段何気なく口にしている言葉、さらには漫画の中のセリフなども取り上げます。

例えば、「週末のテスト、ガチで頑張りたい」「今日の宿題、マジ多くね?」といった言葉です。

こうした言葉を英語で表現しようとするとき、まず考えなければならないのは、どの基本文を使えば言えそうかということです。日本語の言葉を一つずつ英語に置き換えるのではありません。何を伝えようとしているのかを捉え、すでに習った基本文の中から使えそうなものを選び、必要に応じて応用するのです。

ここで鍛えたいのが「判断する力」です。

基本文トレーニングでは、必要な表現を素早く取り出せるようにします。クイズタイムでは、それを身近な場面に当てはめ、どの表現を使えばよいかを考えます。そして、自由Q&Aやペアチャットでは、相手の言葉を受けて、何をどう伝えるかを判断します。

基本文を覚えることがゴールではありません。覚えた基本文を、いつ、どのように使うかを自分で判断できるようにすること。 クイズタイムは、その力を育てるための活動なのです。

基本文の活用「クイズタイム」

もちろん、毎回すべてがうまくいくわけではありません。質問が思いつかずに止まることも、言いたいことを英語にできないこともあります。

そのとき、教師がすぐに答えを言ったり、次の質問を与えたりすれば、活動は進むでしょう。しかし、生徒は自分で次の一言を考える経験をしないまま終わってしまいます。

一方、必要な表現がまだ身についていないのであれば、ただ待っていても解決しません。基本文に戻って練習したり、使えそうな表現を確かめたりする必要があります。

どこで支え、どこで任せるか。 教師には、その判断が求められます。説明や指示を減らすとは、生徒を放っておくことではありません。生徒の様子を見ながら、今は教えるべきなのか、それとも自分で考えさせるべきなのかを見極めることなのです。

もう一つ注目したいのは、活動のつながりです。

基本文で練習した表現をQ&Aで使い、さらにペアチャットへと広げていく。ペアチャットのお題は3択ですが、何を話し、相手の答えを受けて何を尋ねるかは、生徒自身が決めます。

これが「のりしろ設計」です。(詳しくは『4つの思考ツールで変わる!英語教師の授業デザイン 「広げる・つなげる・深める・更新する」指導で豊かな言語活動を』大修館書店37p「帯学習」を参照)

基本文の練習が終わったらQ&A、Q&Aが終わったらペアチャットというように、活動を単に並べるのではありません。基本文で身につけた表現をQ&Aで使い、そこでできるようになったことをペアチャットで生かす。前の活動と次の活動に重なる部分を意図的につくるのです。

そのため、生徒は活動が変わるたびに、一から新しいことを覚える必要がありません。すでに使える表現を手がかりに、少しずつ難しいやり取りに挑戦できます。

例えば、基本文トレーニングでは、比較級の表現を素早く言えるようにします。Q&Aでは、その表現を使って相手に尋ねたり答えたりします。ペアチャットでは、話題に応じて比較級を使うかどうかも含め、生徒自身が判断します。

教師が用意した英文を使う段階から、自分で表現を選び、会話を進める段階へと移っていくのです。

◆ 「できる」が、次の挑戦を生む

別の参観者は、こう振り返っています。

「『基本文が使える』という自信さえつけば、生徒はこんなに生き生きと取り組むんだということがわかりました。」

英語が苦手な生徒にとって、「自由に話してみよう」という指示は、決して簡単なものではありません。何を話すか以前に、英文が出てこないという不安があるからです。

しかし、基本文を繰り返し練習するうちに、以前は言えなかった英文が出てくるようになります。質問にも答えられるようになります。やがて、一文付け足したり、自分から質問したりできるようになります。

自分から質問できた。相手の答えが聞き取れた。用意していなかったことも、一言付け足せた。そのような経験が増えると、生徒は英語を使うことを、教師から求められる課題としてだけでなく、自分にもできることとして受け止め始めます。

ただし、易しい活動を繰り返すだけでは、こうした変化は生まれません。今できることを使って、少し難しいことに挑戦する。そして、それができたときに自分の成長に気づく。その積み重ねが、次の挑戦を支えます。

基本文を練習する理由が、実際のやり取りを通して分かる。そして、やり取りの中で言えなかったことが、次の練習につながる。帯学習が単なる反復練習で終わらないのは、こうしたつながりがあるからです。

◆ 削ったのは、教科書の内容だったのか

では、5人はどのようにして、生徒が英語を使う時間を生み出したのでしょうか。

見直したのは、教師が授業中に引き受けていた仕事でした。

教師が長く説明し、生徒が理解したことを確かめる。次の活動を指示し、使う英文を示し、質問を用意する。生徒が止まれば助け、活動が終われば次へ進ませる。こうした授業では、教師が動き続けなければ、学習も進みません。

太山寺中学校の英語科では、基本文やQ&Aの練習を積み重ねることで、生徒自身ができることを増やしていきました。習った表現を取り出す。相手の答えを聞く。次の質問を考える。言えなかったことを確かめ、もう一度試す。相手を替えながら繰り返す中で、何を言うかを判断し、英語で表現する経験を積んできたのです。

以前は教師が一つずつ指示していたことを、生徒が自分で進められるようになる。そこで初めて、教師は説明や指示を減らすことができます。

ここでいう「削る」とは、学ぶべき内容を安易に省くことではありません。何を「できる」まで徹底し、何を生徒自身に任せるのかを判断し、限られた時間を使い直すことです。

では、教科書の軽重は、何を基準に判断すればよいのでしょうか。

例えば、比較級なら、形のつくり方やthanの使い方を理解させることは必要です。しかし、説明を何度も繰り返すことと、生徒が比較級を使えるようになることは同じではありません。基本的な仕組みを理解したら、実際に使う練習へ進む。そこでつまずきが見られれば、必要なところに戻って指導する。すでにできるようになったことまで、全員に同じ説明を繰り返す必要はないはずです。

その判断の基準になるのが、単元の終わりに生徒に何ができるようになってほしいのかという目標です。そこから逆算すれば、どこに時間をかけ、どこを簡潔に扱うかも見えてきます。

教科書の内容を一律に削るのではありません。生徒の実態を見ながら、説明、練習、言語活動への時間の配分を変えるのです。

もちろん、入試への対応も必要です。語彙を覚えることも、長文を読み解く練習も欠かせません。ただ、語彙や文法を知識として覚えることと、それを使って意味を理解したり、自分の考えを表現したりすることは、切り離して考えるものではありません。

基本文を使えるようにしておくことは、英文を読んだり書いたりするときにも役立ちます。ただし、話す練習だけで長文読解の力が十分につくわけではありません。教科書本文を読み、内容を整理し、自分の考えを書く活動も必要です。

だからこそ、帯活動で基本文の運用を習熟させ、その力を教科書本文の理解や、話す・書く活動へとつなげていくことが重要になるのです。

年度途中から授業を変えることに不安があるなら、すべてを一度に変える必要はありません。例えば、これまで教師が質問を用意していたQ&Aで、生徒に一つだけ質問を考えさせてみる。答えた後に一文付け足す時間を設ける。そうした小さな変更からでも、生徒が自分で判断する場面を増やすことはできます。

教える時間を減らすために、最初に必要なことを徹底して教える。

一見、矛盾するようですが、ここに授業改善の鍵があります。

生徒ができるようになったことまで、教師が引き受け続けていないか。5人の実践は、私たちにそのことを問いかけています。

では、生徒が本当にできるようになったかどうかを、教師は何で確かめるのでしょうか。

その一つが、授業の「振り返り」です。ただし、「楽しかった」「頑張った」という感想だけでは、何ができるようになったのかは分かりません。

昨日までは教師に質問を示してもらっていた生徒が、今日は自分で質問できた。以前は答えるだけだった生徒が、相手の答えを受けて一言付け足せた。そうした変化を、生徒自身が確かめ、教師も見取ることが大切です。

教科書を何ページ進めたかだけでなく、生徒が何を自分でできるようになったか。その両方を確かめてこそ、次に何を教え、何を任せるかを判断できます。

もちろん、新しい内容を理解させるための説明や、つまずきを解消するための指導は必要です。必要なことを教えずに、生徒に任せればよいという話ではありません。

ただ、授業を終えたとき、私たちは何をもって「今日は予定どおり進んだ」と判断しているのでしょうか。

教科書の何ページまで教えたか。それとも、昨日まで教師の助けが必要だったことを、今日は生徒が自分でできるようになったか。

私たちは、つい教師が教え終えたことと、生徒ができるようになったことの二つを、同じ「進度」と考えてはいないでしょうか。

◆ 次回―「使える」から「使いたい」へ

基本文を練習し、Q&Aやペアチャットで使えるようになったとしても、それだけで生徒が自分から相手に働きかけるとは限りません。では、生徒が「もっと知りたい」とか「伝えたい」と思い、次の質問を自分で考え始めるのは、どのような場面でしょうか。

次回は、田口先生の1年生と花田先生の2年生の授業を手がかりに、生徒が「知りたい」「伝えたい」と思う瞬間を、教師はどう生み出せるのかについて考えます。

次回 第3回「生徒が『知りたい』と思った瞬間、授業が変わった」

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント