教師が最初に問い直すべきこと
◆「難しいから、やらない」で終わっていないか
研修会でディベートの話をすると、「難しいので、うちではそこまではできません。」という声を耳にすることがあります。
確かに、そう感じる理由はよく分かります。
ディベートでは、自分の考えを根拠をもって述べるだけでなく、相手の主張を理解し、それに対して反論したり、再反論したりする力まで求められます。
そのためには、語彙や表現を身に付けさせるだけでなく、情報を整理し、論理的に考える経験も積ませなければなりません。
教師にとっては、それに向けて授業を設計するのは決して容易なことではありません。
しかし、その言葉を聞くたびに、一つの疑問が浮かびます。
それは、私たちは「自分が教えやすいかどうか」で授業を選んではいないか、ということです。
私たちはやったことがないことにはイメージがわかず、それを避けて通ったり、後回しにしたりすることがあります。
しかし、いざやってみたら「なんだ、思っていたより簡単にできたじゃないか」と感じた経験は誰にでもあるのではないかと思います。
授業づくりでは、「この活動は盛り上がる」「この教材なら短時間で終わる」「この方法なら説明しやすい」という発想になりがちです。
そう考えることが悪いわけではありません。しかし、常にその基準で活動を選んでいると、子どもたちが本来経験すべき学びが削られてしまう可能性があります。
◆ ディベートが育てるのは、「勝つ力」ではない
ディベートは、そのことを教師に問い返してくれるよい機会になります。
ディベートの目的は、勝敗を競うことではありません。次のような力をつけるためです。
⚫︎自分の主張を根拠をもって説明する力
⚫︎相手の考えを最後まで聞き、その論理を正確に理解する力
⚫︎自分とは異なる立場から物事を考える力
⚫︎相手の意見を踏まえながら自分の考えを見直す力
もう、お分かりのように、これらは、学習指導要領が求めている「思考・判断・表現」の力そのものです。
◆ ゴールが変わると、授業のすべてが変わる
ディベートを単元のゴールに据えると、教師の授業づくりは大きく変わります。
最後に子どもたちがどのような議論を交わせるようになればよいのかを具体的に描けば、必要な語彙や基本文、Q&Aの内容、情報収集や整理の方法、思考ツールの活用まで、一つ一つの活動に意味が生まれるからです。
本時だけを考える授業から、単元全体を見通した授業へと変わっていきます。
◆「相手を論破する」のではなく、「相手を理解する」
さらに、ディベートには、教科の学力を超えた教育的な価値があります。
ディベートでは、自分の意見だけを主張しても評価されません。
まず相手の考えを正確に受け止め、その内容を踏まえて自分の意見を述べることが求められます。
意見が違うことと、相手を否定することは違います。
この経験を繰り返した子どもたちは、「違う考えを持つ人」と対立するのではなく、
理解しようとする姿勢を少しずつ身に付けていきます。
ディベートを継続して実践している教師が、「学級の雰囲気が変わった」と語るのは、
このような経験の積み重ねがあるからです。
◆ 教師が最初に問うべきこと
教師の専門性とは、教えやすい授業をつくることではありません。
子どもたちに、どのような資質・能力を育てたいのか。
その姿から逆算し、必要な経験を一つ一つ設計していくことです。
授業を考えるとき、一つだけ次のように考えてみてください。
「この活動は教えやすいか。」「今まで通りでいけるか。」
ではなく、
「この活動でしか育たない力は何か。」「最後はどんなことができるようにしたいのか。」
です。
この問いから授業を設計すると、教師が選ぶ活動は変わります。
そして、活動が変われば、子どもたちが積み重ねる経験も変わります。
教師の専門性とは、「教えやすさ」を追い求めることではありません。
子どもたちの未来に必要な力から授業を「設計」することです。
追記
実際に授業の中へ「教育ディベート」の要素を取り入れ、子どもたちを逞しく育てている先生方の実践には、授業設計を見直すヒントが数多く詰まっています。
「難しいからできない」と考える前に、ぜひ、その授業づくりの発想に触れてみてください。
授業が変われば、子どもたちの学び方も確実に変わり始めます。

第4章「4−5」思考ツールで「深く考え,伝え合う」生徒が育つ
ー思考ツールを基盤に対話が往還するディベートを成立させた事例一
東京都北区立飛鳥中学校 本田大輔先生
第4章「4−4」「思考の可視化」が「論理・表現」の授業を変える
ーゴールからの逆算設計を起点に、論理的に表現できるようになった事例ー
福井県立藤島高等学校三仙真也先生
三仙先生の近刊(8/25発売)です。

