🍀あの生徒たちは、なぜ、あんなことができるのか(「表現できていない」の手前を見ていたかー4/6)

生徒の自己決定を、教師はどう育て、どう見取るのか

◆ 「はしごを、まったく用意できていなかった」

「今までは深く考えず、表現のところばかりを見て『できていない』と思っていましたが、表現をするためのステップとして思考と判断が必要であること、それなのに、それらをつなぐ『はしご』をまったく用意できていなかったことがよく分かりました。」

太山寺中学校の公開授業を参観した先生の感想です。

生徒が英語でうまく話せないとき、私たちは何を見ているのでしょうか。語彙が足りない。文法が定着していない。理由を付けて説明できない。そう判断すると、使えそうな表現を教え、基本文を練習させ、もう一度話すように促します。もちろん、それらの指導は必要です。しかし、言葉に詰まった生徒は、本当に英語が分からなかったのでしょうか。何を伝えればよいのか、自分の考えがまだ定まっていなかった可能性はないでしょうか。

例えば、ALTに日本の学校生活を紹介する場面です。生徒が We clean our classrooms. と言えたとします。しかし、これだけでは、日本の学校では生徒自身が掃除をすることを知ってほしいのか、その理由を説明したいのか、相手の国ではどうしているのかを尋ねたいのかが分かりません。何を伝えたいかによって、次に考えることも、必要な英語も変わります。

この違いを見取らないまま英文の練習を重ねても、伝えたい内容が豊かになるとは限りません。生徒が話せない原因は、英語表現そのものではなく、その手前にあるのかもしれないのです。

以前の記事で、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」と、それを背景とする「足場かけ(スキャフォールディング)」について紹介しました。生徒が一人ではまだできないことも、教師や仲間の支援があればできる場合があります。そのときに必要な手がかりを用意し、自分の力で取り組めるようになったら、少しずつ支援を減らしていくという考え方です。

基本文やQ&Aを繰り返すことで、生徒は英語で応答することに慣れていきます。マッピングを使えば、頭の中にある考えを整理し、伝えたいことを具体的にする手がかりが得られます。仲間から思いがけない質問をされ、自分では気づかなかった視点に出会うこともあるでしょう。

ただし、こうした活動を取り入れただけで、適切な足場かけができたことにはなりません。教師が見極めなければならないのは、生徒がどこで困っているのか、何があればもう一歩先へ進めるのか、そして、どの支援をいつ外すかということです。

いつまでも教師が質問を与え、話す順序を決め、使う英文まで指定していたら、生徒は自分で判断する必要がありません。最初は必要だった支援も、生徒の成長によって、その役割が変わっていくのです。

◆ 「思考・判断・表現」を、ひとまとめにしていないか

学校では、「思考・判断・表現」という言葉をよく使います。しかし、これを「しはんひょう」とひとまとめにしてしまうと、それぞれの働きが見えにくくなります。

先ほどのALTに日本の学校生活を紹介する活動で考えてみましょう。生徒は、給食や掃除、学校行事など、自分の知っていることを思い出します。仲間と話すうちに、知らなかった情報や違う見方も加わるでしょう。しかし、集めた情報をすべてALTに伝えればよいわけではありません。相手が知りたいことは何か。何を説明すれば興味を持ってもらえるか。限られた時間で、どの話題を選ぶか。そこに「判断」があります。

ところが、教師が最後の発表だけを見ていると、英文の正確さや長さ、理由の有無に目が向きがちです。最初より長く話せたからといって、考えが深まったとは限りません。仲間から聞いた情報を、そのまま付け加えただけかもしれないからです。

反対に、最初に考えた内容を変えなかった生徒でも、仲間の意見と比べたうえで、あえて残した可能性があります。以前より理由が明確になっていれば、そこには考え直した過程があります。教師が確かめたいのは、単に考えが変わったかどうかではなく、何を参考にし、どのような理由で、その考えを選んだのかということです。

もう一つ、教室でよく見かける場面があります。

「まず、この情報を入れなさい」「次に、理由を二つ書きなさい」「最後は、この表現でまとめなさい」

教師が一つひとつ指示を出し、生徒はその通りに作業を進めます。やがて、構成の整った立派な発表が完成します。しかし、その発表のどこに、生徒自身の判断があったのでしょうか。何を伝えるか、どの情報を選ぶか、どんな順番で話すか。それらをすべて教師が決めてしまったら、生徒に残されるのは、指示された通りに仕上げる作業です。

教師の指示に従って完成させた発表と、生徒が自分で考え、選び、工夫して仕上げた発表。たとえ出来栄えが同じでも、そこに至る学びはまったく違います。「思考・判断・表現」を育てるのであれば、発表の完成度だけでなく、そこに至るまでに生徒が何を自分で決めたのかを見なければなりません。

◆ 一度話して終わる授業になっていないか

英語でのやり取りを増やそうと、Small Talkやペア・チャットに取り組む学校が増えています。生徒が知っている英語を使い、相手に何とか伝えようとする姿は大切です。しかし、話し終わったところで教師が「では、次の活動に移ります」と告げ、そのまま授業が進んでしまうことはないでしょうか。

生徒は英語を使いました。ただ、相手に伝わらなかったことや、答えられなかった質問は、そのまま残っています。もう一度話す時間を設けたとしても、同じ内容を繰り返すだけでは、発話には慣れても、伝える内容が豊かになるとは限りません。

仲間から質問されて、説明が足りなかったことに気づく。別の考えを聞いて、伝える内容を選び直す。言いたかったのに言えなかった表現を確認し、次のやり取りで試してみる。こうした経験を経て二度目の活動に向かうとき、最初のやり取りとは違う学びが生まれます。

ここで教師の中間指導が意味を持ちます。ある生徒には基本文の確認が必要かもしれません。別の生徒には、仲間の考えをもう一度聞く機会が必要でしょう。自分でマッピングを見直している生徒なら、教師が口を出さずに待つ方がよい場合もあります。全員に同じ説明をして、もう一度話させることだけが中間指導ではありません。

二度目に向かうまでに、生徒が何に気づき、何を選び直したのか。そこを見取ることで、次に必要な支援も変わってきます。活動を二度行ったかどうかではなく、その間に生徒が何を考え、どのように判断したのか。授業を設計するときには、その過程を位置づけておく必要があります。

◆ 指導案のBeforeとAfterを見比べてみる

ここで、井田昌宏先生(2年担当)が最初に作成した単元計画・学習指導案と、検討を重ねて完成させた最終稿を紹介します。

ぜひ、2つの指導案を印刷し、横に並べて見比べてみてください。最初の指導案にも、ペアマッピングや仲間との交流、自己調整の時間が設けられています。決して活動が不足していたわけではありません。

では、何が、どう変わったのでしょうか。変更された部分だけでなく、変更されなかった部分にも目を向けてください。何を残すかという判断にも、授業者の考えが表れるからです。

これまでの記事で紹介してきた「育った生徒の姿からの逆算」「思考・判断・表現のつながり」「足場かけと自己調整」を手がかりに、読み比べてみてください。文章が詳しくなったところを探すだけではありません。生徒が何を考え、どこで迷い、何を自分で判断するのか。その機会が、どのように設計し直されたのかに注目してください。

【井田先生 単元計画・学習指導案 第1次稿(Before)】

【井田先生 単元計画・学習指導案 最終稿(After)】

さて、何に気づかれましたか。どこに朱書きを入れられたでしょうか。

では、今度は、手元にご自身が過去に書いた指導案も置いてみてください。井田先生が書き直した箇所を、自分の授業に置き換えて考えるのです。同じように変更する必要はありません。担当する生徒も、単元の目標も違うからです。

もし、今の指導案を書き直すとしたら、どこを変えますか。そして、それはなぜですか。その理由を具体的に説明できるところから、授業改善が始まります。

◆ 「自己調整を見えるようにできないか」

指導案の検討を重ねる中で、井田先生が抱いた疑問がありました。

「生徒の自己調整を、目に見えるようにできないだろうか」

マッピングを使えば、生徒が考えたことを紙面に残せます。しかし、完成したマッピングだけを見ても、最初から書いてあったことなのか、仲間とのやり取りで加わったことなのか、その後に自分で選び直したことなのかは分かりません。

そこで井田先生は、色を変えて記録する方法を考えました。最初の考えと、仲間との交流を経て書き加えたことを区別すれば、思考の変化をたどれるのではないかという発想です。相談を受けた中嶋は、この工夫について一緒に検討する中で、3色の役割を次のように意味づけてみました。

黒: 最初の自分の考え(自己認識)

赤: 仲間から得た情報や気づき(他者参照)

青: 自分で選んだ判断(自己決定)

黒は、自分が今、何を知り、どう考えているのかを確かめる出発点です。赤には、仲間とのやり取りで得た情報や、自分にはなかった見方が残ります。そして青は、それらを踏まえ、最後に自分が何を選んだのかを示します。

ここで注目したいのは、赤と青の違いです。仲間から新しい情報を得て、マッピングに書き加えただけでは、まだ自分で判断したことにはなりません。その情報を取り入れるのか、取り入れないのか。最初の考えを残すのか、別の考えを選ぶのか。その判断を青で残すのです。

例えば、ALTに日本の学校生活を紹介するとします。最初は、給食、掃除、学校行事など、自分が知っていることを書き出します。これが黒です。仲間と話して、新しく知った情報を赤で加えます。

しかし、赤で書いたことをすべてALTに伝える必要はありません。「ALTは、日本の学校で生徒が掃除をすることを知らないかもしれない。そこを説明して、相手の国ではどうしているのか聞いてみよう」。そう考えて掃除を選んだのであれば、その判断を青で決定します。

つまり、青は単なる追加情報ではないことが分かります。また、青は必ずしも最初の考えを変えたことを示す色ではありません。仲間の意見を聞いた後も、最初の考えを残す場合があります。その理由を自分で考えて選んだのであれば、そこにも自己決定があります。その場合、残した部分を青で囲んだり、下線を引いたりして、その判断の跡を残します。

こうして黒・赤・青をたどると、完成したマッピングだけでは見えなかった思考の過程が浮かび上がります。最初は何を考えていたのか。仲間から何を得たのか。そして、最後に何を自分で選んだのか。教師は、生徒が書いた内容だけでなく、その内容に至るまでの変化を確かめる手がかりを得たのです。

【実際の生徒の3色マッピング】

◆ 色を使えば、自己調整になるのか

ところで、3色のペンを使えば、それだけで自己調整が生まれるのでしょうか。

「最初は黒で書きなさい。友だちから聞いたことは赤で書き加えなさい。最後に一つ選んで青で書きなさい」

教師がこのように指示し、生徒がその通りに記入したとします。確かに、3色のマッピングは完成します。しかし、なぜその情報を選んだのかを考えず、教師に言われたから一つ選んだのであれば、青い文字が残っていても、自己決定が十分に行われたとは言えません。

一方、生徒が赤で書いた情報を見比べ、「ALTはこのことを知らないだろうから、こちらを説明しよう」と選んだなら、そこには理由があります。同じ青い文字でも、教師の指示に従って書いたものなのか、自分で考えて選んだものなのかによって、学びの意味は変わります。

教師は、その違いをどう確かめればよいのでしょうか。

「どうして、この考えを選んだの?」「ほかの情報ではなく、こちらを伝えようとしたのはなぜ?」と尋ね、生徒の説明を聞くのです。実際の発話や振り返りと照らし合わせることで、何を考えて選んだのかが見えてきます。マッピングは、その対話を始めるための手がかりになります。

赤で情報が増えたものの、何を選べばよいか迷っている生徒もいるでしょう。そのとき、教師が「これを選びなさい」と答えを与えれば、活動は先へ進みます。しかし、その生徒が自分で判断する機会は失われます。「ALTは何を知りたいのだろう?」「最初に、何のために紹介することにしたんだっけ?」と問い返すことで、自分で選ぶための手がかりを得る生徒もいるはずです。

3色マッピングの目的は、紙面を黒・赤・青で埋めることではありません。生徒が自分の考えを確かめ、他者の考えを参考にしながら、最後に何を自分で決めたのかを見えるようにすることです。教師は、青で書かれた内容だけでなく、その背後にある判断の理由まで確かめる必要があります。

◆ 「しなさい」が増えるほど、何が減っていくのか

次の図をご覧ください。自己調整について6つの場面を用意してみました。

【教師が活動を決める授業と、生徒が自己調整する授業の違い】

左側には、英語教師が日頃、何気なく行っている指示が並んでいます。

テーマを決める。質問を与える。英文を直す。次の活動を指定する。生徒が迷っていると、待ちきれずに答えを教える。思考ツールも、教師が選んで使わせる。

いずれも、生徒の学習を助けるために行っていることです。

しかし、教師が決めたことを生徒が実行するだけなら、生徒はいつ、何を自分で判断するのでしょうか。教師が次々と指示を出す授業では、生徒はその指示を待つようになります。自分で何をすればよいかを考える前に、教師から次の指示が出されるからです。

例えば、マンダラ・チャート(フレックス)と階層式マッピングの両方を学んだ生徒が、新しい課題に取り組む場面です。考えを広げたい生徒はマンダラ・チャートを選び、情報を整理して順序立てて説明したい生徒は階層式マッピングを選ぶかもしれません。ところが、教師が「今日は階層式マッピングを使います」と先に決め、ノードまで書かれたワークシートを配ったらどうでしょう。生徒は指定された欄を埋めるだけで、活動を終えることもできます。

初めて思考ツールを使う段階では、教師がモデルを示し、手順を教える必要があります。問題は、生徒が使い方を理解した後も、同じ支援を続けていないかということです。どのツールを使うか、どこにノードを増やすか、何を残し、何を削るか。生徒が自分で決められるようになったことまで、教師が先回りしていないでしょうか。

ここで、もう一度、3色マッピングを考えてみてください。青で書かれたことは、本当に生徒が自分で選んだことでしょうか。それとも、教師に選ばされたことでしょうか。教師が何を指示したかだけでなく、何を生徒自身の判断に委ねたか。その違いによって、授業の中で育つ力は変わっていきます。

◆ 「できていない」と言う前に

冒頭で紹介した、参観者の「はしご」という言葉に戻ります。

「表現をするためのステップとして思考と判断が必要であること、それなのに、それらをつなぐ『はしご』をまったく用意できていなかった」

この気づきは、授業を見直す大切な出発点です。ただし、教師が考えなければならないことは、はしごを用意することだけではありません。生徒が自分で上れるようになったとき、その支援をどう減らしていくかという問題もあります。

以前は質問の一覧を見ながら会話していた生徒が、相手の答えを聞いて、自分から次の質問を考えるようになったとします。その生徒に、いつまでも質問の一覧を与え続ける必要があるでしょうか。反対に、まだ自分で質問を考えることが難しい生徒から、手がかりを一度に取り上げてしまえば、会話が続かなくなるかもしれません。

同じ学級でも、生徒が困っているところは違います。英語表現が見つからない生徒には、言葉の手がかりが必要でしょう。伝えたい内容が整理できていない生徒には、マッピングを見直す時間が役立ちます。仲間の考えを聞いて迷っている生徒には、すぐに答えを求めず、考える時間を残すことも必要です。

生徒が黙っているからといって、何も考えていないとは限りません。一方、ただ待っていればよいわけでもありません。教師は、生徒がどこで困っているのかを見取り、支援するか、もう少し待つかを判断します。

井田先生が考えた3色マッピングは、その判断を助ける手がかりになります。黒から赤へ、そして青へ。生徒が仲間から得た情報をどう扱い、最後に何を自分で選んだのか。完成した英文だけでは分かりにくかった過程をたどれるからです。もちろん、色だけで判断のすべてが分かるわけではありません。実際の発話や振り返りと照らし合わせる必要があります。

授業を終えた後、教師はよく「今日は理由をうまく説明できていなかった」「もっと詳しく話せるようにする必要がある」と振り返ります。

そのとき、次のことも確かめてください。生徒には、自分で理由を考える機会があったでしょうか。仲間の考えと比べ、何を伝えるかを選ぶ時間があったでしょうか。そして、自分で判断したことを、もう一度表現する機会があったでしょうか。

もし、それらが授業の中に用意されていなかったのであれば、表現できなかった原因を、生徒の英語力だけに求めることはできません。

「はしごを用意できていなかった」という反省に加えて、もう一つ確かめたいことがあります。

生徒が自分でできるようになった後も、教師ははしごをそのままにしておいたのではないかということです。板書、ワークシート、スライド、質問一覧。最初は必要な足場です。しかし、タイミングを見計らって、それらに頼らずにできるようにすることが必要です。

教師が見取るべきなのは、生徒が何を自分でできるようになり、どこから先を生徒に委ねられるのか。その「変化」を見逃さないことです。

そして、この問いは教師自身にも向けられています。

井田先生は、「自己調整も可視化できないか」という疑問から、学んだ方法に工夫を加えました。その工夫について検討する中で3色の意味が明確になり、生徒の判断を見取る新しい手がかりが生まれました。教師自身も、学んだ方法をそのまま使い続けるのではなく、生徒の姿を見て、必要なところを変えていく。その判断が授業改善を支えます。

ただ、自分の授業を自分だけで見直していると、気づかないことがあります。十分に考える時間を与えたつもりでも、別の教師が指導案を読むと、生徒が判断する場面が抜けていることに気づくかもしれません。反対に、教師が手を出しすぎていることを指摘される場合もあるでしょう。

太山寺中学校では、5人の先生方が互いの指導案を読み、朱書きを入れ、意見を交わし、何度も書き直してきました。しかし、5人全員が同じ指導案を使ったわけではありません。

同じ方向を目指しながら、なぜ違う授業をつくったのでしょうか。

次回は、5人の先生方が2年間かけて築いてきた教科部会の取り組みと、授業をつくり直してきた過程に迫ります。

次回 第5回「5人全員で授業を変えるとは、どういうことか

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント