🟠教育委員会、研修団体の事務局が「本気」で取り組んでいると・・・

埼玉県、神戸市、久留米市、福岡市、守谷市、佐賀県、北海道は年間の「見通し」を持ち、実際に授業を改善できる教員研修を企画している

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による混乱、さらには「教員の多忙感」から、なかなか「研修」の機会が広がっていかないようです。その中にあって、「点」の研修(一度きり、一過性)ではなく、年間を通して「線」の研修に取り組んでいるところがあります。それを可能にしているのは、担当する指導主事(教育委員会の事務局)の「本気度」です。

セミナーの依頼が「単発」で来ることが多い中で、上に挙げた地区の指導主事の方々は、最初に「1年間の構想」を説明され、どう関わって欲しいのか、教師の気持ち、さらには授業力をどう高めて欲しいのかという構想を熱く語られます。セミナー、授業参観、そして評価の研修などの時期は、思いつきではなく、根拠を持って時期を設定されています。いずれも、「指導と評価の一体化」について、私の主張していることに共感されているからです。

今まで、私は「指導と評価はコインの表と裏の関係」であり、大事なのは「表」(つけたい力、育った姿)が先であること、そしてそれこそが教師の「評価観」であること、さらに「裏」は、それを可能にするための日々の指導(授業)であると言ってきました。

指導者がその関係を勘違いし、「教えたこと」(勘違いされているコインの「表」)を覚えているか、できるかどうかを「テスト」(勘違いされているコインの「裏」)で確かめるという発想になっていれば、力がつかないだけでなく、やらされているという気持ちになってしまいます。依存的学習者(言われたことしかしない」「言われるまで待っている」子どもたち)がクラスの中に何人もいる場合、それは教師が「頭から説明していること」「子どもが思考する場面を十分に与えずに、教師が指示をしすぎていること」が原因です。

久留米市では、1学期のうちに中学校の先生方を対象に「授業改善の視点」を共有し、8月は「小学校と中学校の合同研修会」で「つながりをどう作るか」を話し合いました。さらに、9月18日は全員が2学期の中間テストを持ち寄り、「思考・判断・表現」の観点でライティングに特化して、CAN-DO とどうつなげるか、生徒に渡すCAN-DOをどう作成するかという研修を行います。その後は、実際に授業を見て、学んだことがどう具現化されているかを検証し合います。

神戸市は、昨年の1月16日に高英研の記念大会で基調講演を行いました。そこに出席しておられた中英研の会長である三浦啓司校長先生(神戸市立白川台中学校)から、本年度の10月31日に兵庫県中英研県大会で話してもらいたいという依頼がありました。それをきっかけに、神戸市教育委員会の指導主事である岡山直樹氏(「地球市民を育てる教師のための研修会」参加、大修館書店『英語教育』2021(教師の綴り方教室)連載メンバー、『英語教師の授業デザイン力を高める3つの力』執筆)が、神戸市のALTと中学校教員の研修、県大会に向けて「単元計画」がきちんとできるようになって欲しいと、中学校の授業4つを事前に参観して学び合うというプロジェクトを立ち上げられました。これも、お世話をする方が「つなげる」という発想を持たなければできないことではないかと考えます。

福岡市では、昨年度、若手教員研修を何度も企画され、対面やオンライン研修でそれに関わらせていただきました。いくつもの小学校や中学校を訪問し、即興のやり取りを模索する授業、TTでNS(Native Speaker)を活用する授業のあり方などについて、直接助言をするという進め方です。授業を見た後、具体的に「どこをどう改善すれば、子どもたちが夢中になる授業にできるか」という視点を説明すると、どの方も真剣に聞かれます。さらに、その後、メールのやり取りやオンラインで繋げて話し合うという機会も作っておられます。

守谷市(茨城県)も、つくばみらい市との合同(両市の教育長がご夫婦)で、長期的な研修を立ち上げています。守谷市では、夏休み中、小学校、中学校の教員(希望者)を対象に市のホールで全体研修を行いました。「学び方」「単元全体をゴールから逆算して組み立てる」という視点でお話をしました。また、小中の外国語の専科教員対象に、筆記テストの3観点を踏まえた構想、パフォーマンステストの評価などについて半日研修を行いました。その後、たくさんの質問を受けました。先生方にお送りした回答を載せておきます。参考になれば幸いです。

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/09/小・中学校専科教員-研修会での質問への回答.pdf

今、「埼玉県」が熱い

さいたま市は、毎回、全国学力調査(外国語)の平均点が全ての都道府県、政令都市の中でトップです。しかし、さいたま市だけでなく、埼玉県全体の取り組みも長期的な展望に立って行われています。実は、昨年度の段階で、小学校、中学校合同で研修を行いたいという相談を担当指導主事(秋元政康氏)から受けました。構想は実に緻密でした。

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/09/埼玉県_令和6年度_小中学校等英語指導力養成講座.pdf

ご覧のように、教科調査官の「総論」から始まり、それぞれ小中の連携について詳しい識者を用意し、最後は小中合同での研修(それぞれの学びを活かした研修)へとつなげられました。研修を依頼するだけでなく、秋元氏は、研修が終わる度に、その内容と受講者の感想を送って来られました。それを踏まえて、着地点(小中合同研修)の構想を練ることができました。

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/09/令和6年度埼玉県小中学校英語指導力養成講座_内容.pdf

そして、研修が終わった後、受講者の感想だけでなく、質問も送って来られました。そこには、予定した研修をそつなく終わらせるという発想ではなく、本気で教師を育てたい(その向こうにいる子どもたちを元気にしたい)という思いが読み取れました。秋元氏の許可を得て、それをご紹介しておきます。

https://nakayoh.jp/wp-content/uploads/2024/09/質問への回答.pdf

全体のお世話をする方が「見通し」を持って、本気で取り組んでおられるなら、私も「本気」で応援しなければなりません。目に見える資料やデータのやり取りで終わるのではなく、「目には見えない大切なもの」のやり取りこそが今の世の中で大切になるように思います。

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この記事を書いた人

英語 "わくわく授業" 研究所 代表(元関西外国語大学教授)
(公財)日本英語検定協会派遣講師・(株)リンク・インタラック エグゼキュティブ・コンサルタント