処理しただけでは、英語力につながらない
前回は、英語力を伸ばすために必要なのは、「活動量」ではなく、
「英語を処理する経験」であることを述べました。
しかし、実は、処理しただけでは十分ではないのです。
英語を聞いて分かった。
読んで理解した。
その瞬間は「できた」と思います。
しかし、その多くは時間がたつと忘れてしまいます。
子どもたちの力になるのは、
一度処理した情報を、もう一度自分で取り出し、
整理し、組み替えながら、自分の言葉へと変えていく経験です。
つまり、「処理」の次には、「再構築」の段階が必要なのです。
同じ授業を受けていても学級によって力の差が生まれるのは、
この時間が設けてあるかどうかです。
問題は、子どもの能力ではなく、授業の構造なのです。
聞いて終わる。読んで終わる。書いて提出して終わる。
このように、一つの技能だけで活動が完結してしまう授業では、
処理した情報は自分の言葉へと育っていきません。
処理した情報を、
別の活動でもう一度使い直す場面が授業の中に組み込まれているかどうか。
その授業構造の差が学習者の学力の差を生み出します。
一つの活動が、次の活動を生み出す
例えば、教師は写真を子どもたちには見せず、自分だけが持っています。
“Listen carefully. I’m going to describe today’s picture.”
子どもたちは、聞き取った内容を文章ではなく、キーワードだけでメモします。
ここでは、相手の話を理解し、必要な情報を選び取ることが求められます。
これが「処理」です。
教師が説明を終えると、すぐに答えを見せることはしません。
“Please compare your key words with your partner.”
二人は、お互いのメモを見比べながら、
「その単語、私も聞こえた」「私はそこ書けなかった」
「それって、rock って言ったんじゃない?」と話し始めます。
一人では気付かなかったことが、
友達とのやり取りによって少しずつ補われていきます。
その後、教師は初めて隠していた写真を見せます。
「あっ、この人は帽子をかぶっていたんだ。」
「ベンチではなく、岩だったんだ。」
子どもたちは、自分のメモを見直し、
足りなかった情報や誤って理解していた部分を書き加えます。
しかし、そこで終わりではありません。
今度は、そのメモだけを見ながら、
別の写真について自分たちで説明する活動へと移ります。
教師から受け取った表現を、そのまま繰り返すのではありません。
どの情報から話せば伝わるのか。
何を先に言えば相手は分かりやすいか。
どの表現なら、もっと正確に伝わるか。
ここで初めて、子どもは「英語を覚える」のではなく、
その場で情報を選び直し、
順番を考え、自分の言葉として組み立て直していきます。
この営みこそが、「再構築」です。
つまり、「聞く」「メモする」「友達と確かめる」「修正する」「話す」
という一連の活動が、一つの流れとしてつながっているのです。
一つの活動が終わるたびに学習が途切れるのではなく、
前の活動が次の活動を生み出していく。
そのように授業を設計したとき、
処理した情報は少しずつ自分の力へと変わっていきます。
子どもは、「組み替える」ときに考え始める
その流れを支えるのが、実は「思考ツール」なのです。
例えば、写真を見ながら、マンダラ・フレックス(8面、6面、4面などの
可変マンダラ・チャート)に思いついた言葉を書き出します。
最初は、自分が思いついたことしか書けません。
しかし、友だちのマンダラを見ると、自分とは全く違う言葉が並んでいます。
そこで、「そういう見方もあったのか」と気付き、
書き足します。
新しい言葉を書き加える
似ているものをまとめる
順番を入れ替える
不要だと思ったものは外す。
どれを残し、どれを削るかを考えながら、情報が少しずつ整理されていきます。
思考ツールは、この試行錯誤を「見える化」してくれます。
実は、この「組み替える」という営みは、話す活動だけではありません。
読むときも、聞くときも、書くときも同じです。
言葉は、使った回数だけでは身に付きません。
自分の考えを何度も組み替え、選び直し、より伝わる形へと磨いていく。
その積み重ねによって初めて、自分の言葉になっていくのです。
教材研究で、本当に考えるべきこと
教師が説明する時間が長くなる。
ワークシートを順番どおりに埋めることが授業の中心になる。
その瞬間に、子どもが考える時間は失われます。
授業を変えるとは、活動を増やすことではありません。
教材研究とは、プリントを作り込むことでも、
説明を工夫することでもありません。
処理した英語を何度も使い直し、組み替え、
自分の言葉へと育てていく流れを設計することです。
教材研究の一丁目一番地は、「どう教えるか」を考えることではありません。
「どんな課題なら、
子どもが『どう言えばもっと伝わるだろう』『どちらを選べばもっと伝わるだろう』
と考え始めるか」を設計することです。
子どもが迷い、選び、組み替え始めたとき、
授業は「活動する授業」から、「英語が身に付く授業」へと変わり始めます。
授業の構造を変えるとは、その経験を意図的に生み出すことです。
