教師の「軸足」が、教科書を”教材”に変える
前回は、昭和54年度版の英語教科書を取り上げました。
時代とともに教科書が変わっても、教師が変えてはいけないものがあるのではないか。
そのことを考えてみたかったからです。
デジタル教科書が当たり前になり、生成AIも教室へ入ってくる時代になりました。
教材はこれからも進化していくでしょう。
しかし、どれほど環境が変わっても、一つだけ変わらないことがあります。
最後に授業を決めるのは、教師だということです。
◆ 教師の仕事は、本当に変わったのか
昭和54年度版の教科書と今の教科書を比べると、教材も学び方も大きく変わっています。
以前は、語句や文法を理解し、正しく使えるようにすることが授業の中心でした。
今は、それだけではありません。
自分の考えをもち、相手と伝え合いながら学ぶことまでが授業の中に組み込まれています。
すると、教師に求められる仕事も変わります。
説明した方がよいのか。
もう少し考えさせた方がよいのか。
話合いを続けるのか。
ここで全体を止めるのか。
その判断は、教科書にも指導書にも書かれていません。
最後は、その場にいる教師自身が決めるしかないのです。
◆ 判断を支えているものは何か
同じ教科書を使っていても、授業は教師によって驚くほど違います。
その違いは、授業技術だけでは説明できません。
全国で多くの授業を参観していると、経験年数に関係なく、
子どもが安心して考え始める授業があります。
一方で、教材や活動は工夫されているのに、
子どもが教師の答えを探すだけになっている授業もあります。
その違いを生み出しているものは何でしょうか。
その判断を支えているものが教師の「軸足」だと考えています。
「どのような子どもを育てたいのか。」
その思いがあるからこそ、教師は説明することも、
待つことも、問い返すことも、自分で選ぶことができます。
◆ 教科書は、実は、まだ完成していない
私は、セミナーでよく授業の「設計」を料理に例えて話をしています。
スーパーで買ってきたキャベツは、そのままでも新鮮です。
しかし、それだけでは料理にはなりません。
回鍋肉にも、ロールキャベツにも、コールスローにも、
豚肉とキャベツのミルフィーユ蒸しにもなります。
使う素材は同じです。
それでも、目的が違えば、出来上がる料理はまったく違います。
教科書も同じです。
教科書(教科用図書)は、「出版物」としては完成しています。
しかし、その学級で育てたい力を育む教材としては、
まだ完成していません。
教材として完成させるのは、教師です。
教師は、学習指導要領が求める資質・能力を踏まえながら、
目の前の子どもたちの実態や興味・関心に応じて単元を設計します。
問いを投げかけ、対話を生み出し、
一人で考える時間と、協働して考えを更新する時間を往還させながら、
教科書を、クラスの子どもたちにとって “Only-One 教材” へと変えていきます。
◆ 軸足があるから、教科書は教材になる
同じ教科書を使っていても、授業は教師によって驚くほど違います。
ある教師は、知識を確実に定着させる授業をつくります。
ある教師は、子ども同士が考えをつなぎ、更新していく授業を目指します。
また、ある教師は、一つの問いから子どもたちが夢中になって考え始める授業を創ろうとします。
教科書は同じです。
違うのは、教科書をどうアレンジし、
子どもたちがワクワクする料理にするかという教師の「設計」です。
教材研究とは、教科書を予定通りに進めるために、
プリントやスライドを用意することではありません。
むしろ、この教材で、子どもたちにどのような経験を積ませたいのか。
その問いから授業を設計することです。
英語を話す経験なのか。
相手の考えを受け止める経験なのか。
理由を付け加えながら、自分の考えを深める経験なのか。
その経験を「設計」して初めて、教科書は教材になります。
「分かった。」「伝わった。」「できた。」
そんな経験が積み重なることで、「自分にもできる」という自信が育っていきます。
◆ 次回に向けて
教科書は、これからも変わり続けます。
デジタル化はさらに進み、生成AIも教育の風景を変えていくでしょう。
しかし、その変化を意味ある学びへ結び付けられるかどうかは、
教師が何を拠り所に判断するのかにかかっています。
教師には、それぞれ大切にしている教育観(絶対的指導観)があります。
ですから、授業を参観すると、活動や教材の選び方が、
それぞれ、どこか似通って見えることがあります。
教師の「軸足」は、授業のどこに表れてくるのでしょうか。
答えは、「どう教えるか」ではなく、
「なぜ、それをするのか」という判断です。
次回は、そのことについて考えてみたいと思います。
P.S. 「軸足」の捉え方については、すでにアップされている記事を参考になさってください。


